めまい

はじめに
2024/02/02

私が頭痛外来を佐世保でやっていた頃、頭痛と一緒にめまいを訴える患者様はたくさんいました。
その頃は、お隣には耳鼻咽喉科の外来が、そのお隣には眼科外来があり、MRIも比較的自由に撮らせてもらい、とても恵まれた環境でした。 めまいを訴える患者様は必要がある人は耳鼻咽喉科を紹介していましたし、副鼻腔炎なども重症な人はすぐに診てもらえました。
めまいについても勉強してみようかなあと思っていた頃、フレンツエル眼鏡を買おうかなと思って調べてみると10数万円です。私の小遣いでは買えないので諦めました。
ICHD-3で、前庭性片頭痛があったことは知っていました。
学会でも話が出ていることを知っていましたが、めまいについて勉強は、城倉健先生の【外来で目をまわさない めまい診療シンプルアプローチ】を流し読むくらいで真面目に読んだこともありません。
なにせ、お隣には、めまいにとても詳しい専門の耳鼻科の先生がいらっしゃるのです。
こんなわけで、前庭性片頭痛について考えたことはありませんでした。
知らないという事は、ある意味、大きなchanceです。知識に縛られることなく自由に考えることができます。
前庭性片頭痛について、本を読むのはできるだけ、後にまわして、今持っている頭痛の知識で、頭痛とめまいの関係について考えていきたいと思います。
それから、ゆっくり前庭性片頭痛について考えて行くつもりです。

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めまいのページの参考図書を示します。

          
著者 参考図書
1 城倉健 めまい診療シンプルアプローチ 医学書院
2 大森孝一、武田憲昭 めまい診療ハンドブック 中山書店
3 森松暁史
井口正寛 訳
めまいのみかた メディカルサイエンスインターナショナル
4 北原糺 めまいを診る 金芳堂

世界一安い? 三半規管模型(指人形タイプ)
2024/02/12

めまいで一番多いのがBPPVです。その中で一番多いのは後半規管型BPPVです。診断にはDix-Hallpike法で眼振を確認し、治療はEpley法が基本になります。
私には、テキストの図では、耳石がどのように動くのか、さっぱりわかりません。

私のために、私自身がわかる図を作りました。見る方向を一定にして、右から見ると決めました。そして、この図がもっとわかるような半規管の模型?を昼休みに作ってみました。
模型を動かしながら図をみると、Dix-Hallpike法やEpley法での耳石の移動も理解できます。

ここでは、世界一安いかもしれない三半規管の模型を作ってみましょう。一側、10分くらいです。
では、作ってみましょう。

材料は、B5の紙を2枚です。
そしてセロハンテープ。
どちらも机の上にありました。
B5の紙をそれぞれ半分に切ります。
4枚のうち3枚を折り曲げて帯状にします。
セロハンテープで止めます。
帯状のものを巻いて円にします。
セロハンテープで止めます。

三半規管になるようにセロハンテープで止めます。三半規管の出来上がりです。
安定するように残った紙も適当に切って円筒状にして台にします。台は卵形嚢になりました。
これに人差し指が入ります。
使い勝手が良いように、後日、鼻の向きと頭頂部の向きの方向がわかるように、家にあったストローをつけてみました。
両側作るのもあっという間です。

指につけて、Dix-Hallpike法やEpley法やってみました。あら不思議、転がってい耳石があたかもみえるようです。


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Epley法 紙模型でみてみる
左後半規管BPPVに対して
2024/02/12

左後半規管BPPVに対して、Epley法を、患者の右側からみてみましょう。
下の図では、左列に左の後半規管を簡略化した図を示し、右列には左の三半規管の紙模型を同様に動かしてみます。

座位。全て右側から観察します。
矢印は、頭頂部を示します。
灰色丸印は耳石。
紙模型で、
赤矢印は頭頂方向を示します。

顔を左へ45度回転します。
後半規管は体幹の矢状面に一致し、耳石が最も移動しやすくなります。

懸垂頭位。第1頭位。
耳石は、滑り落ち移動します。

懸垂頭位。顔を右へ45度回転します。第2頭位。後半規管は直線状にみえるます。

右側臥位。90度回転したので、
顔は右下向きへ(計135度回転)。
第3頭位。
耳石が総脚に滑り落ちます。

座位になります。
第4頭位。
耳石は卵形嚢に入っていきます。

座位。正面を向きます。紙模型では前半規管に重なって
後半規管は見えません。

指人形にして、両手でやってみましょう。耳石の動き、見えますよね。


左の後半規管のBPPVに対して

右の後半規管のBPPVに対して

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めまいとは
2024/02/16

めまいとはどんな感じでしょうか。
私は、ふらつきはあってもめまいを感じたことはありません。ふらつきもめまいでしょうか。
テキストをチョットのぞいてみましょう。

空間識(spatial orientation)は、前庭感覚,視覚,体性感覚(主として深部感覚)の3種類の感覚情報を脳内(中枢神経系)で統合して得られます。
めまいは,これらの感覚情報のミスマッチにより、空間を正しく把握できないために生じる異常感覚と定義されます。
めまいは、前庭感覚、視覚、体性感覚のどこに異常があって生じるそうです。
視覚や体性感覚の異常は、見えにくさやしびれなどに気づくことが多く、ほとんどのめまいは前庭感覚の異常に起因します。
前庭感覚は、受容器(半規管と耳石器)のある内耳から脳幹の前庭神経核に伝えられ,小脳による調整を受け、上行し大脳に到達します。

わけのわからない話をもう少し続けます。
前庭症状 = vestibular symptoms(前庭障害による症状という意味ではなく、平衡障害による症状だそうです)。これは、Barany Societyにより4つに分類されています。
Vertigo: 実際には動いていないのに生じる疑似運動感覚、あるいは正常な運動で歪んだ運動感覚で、空間識異常を伴う。
空間識異常で目が回るものでしょうか。
Dizziness: 空間識が障害された症状で、疑似運動感覚や歪んだ運動感覚は伴わない。
空間識異常で目が回らないものでしょうか。
Vestubulo-visual symptoms: 眼振により外界が動いて見える視覚症状や前庭機能障害によるblur、動揺視などをさす。前庭系の異常による視覚症状であるが、空間識異常は伴わない。
目が回るけれど、空間識異常を伴わないということでしょうか。
Postual symptpms: 座位・立位・歩行など上体を起こしている時に生じるバランス異常と定義される。
起き上がると、または起き上がっていると、バランス異常があるものでしょう。
どんどん、さっぱりわからなくなりますね。

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繰り返すめまい
2024/02/16

後半規管型BPPV外側半規管型BPPV
概念
頻度
原因
症状
検査
検査
検査
鑑別診断
治療
予後
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外側半規管の結石型BPPVの治療 Gufoni法

       
左の外側半規管結石型のBPPVに対してGufoni法

右の外側半規管結石型のBPPVに対してGufoni法

            

外側半規管の結石型BPPVの治療 Gufoni変法
回復期病棟に入院されている方は、急速な動きは難しいので、仰臥位から開始します。

左の外側半規管結石型のBPPVに対してGufoni変法

右の外側半規管結石型のBPPVに対してGufoni変法
概念
頻度
原因
症状
検査
検査
検査
鑑別診断
治療
予後
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単発性めまい
2024/02/16

前庭神経炎めまいを伴う突発性難聴ハント症候群のめまい

                        
項目
概念単発性の突発性回転性めまいをきたす疾患で、耳鳴りや難聴といった蝸牛症状を伴わないめまい疾患である。
強い回転性めまい、嘔気嘔吐を主症状として発症し、数日間の経過を経て徐々に症状は軽減する。体動時の浮動感やふらつきが数ヶ月持続することもある。
前庭神経炎は外側半規管とこれを支配する上前庭神経の障害が多いと考えられていた。現在では、上前庭神経炎、下前庭神経炎、全前庭神経炎に分類することが提唱されている。
頻度BPPV、メニエール病に次いで3番目に多い。30-50歳に多い。40歳前後にピークあり。性差はない。
原因先行感染として上気道感染を認めることが多い。
症状激しい回転性のめまい、健側向きの水平性または水平回旋混合性眼振の持続、前庭神経以外の神経症状がない。
眼振検査自発眼振検査で、方向固定性の水平性または水平回旋混合性眼振がみられ、眼振の方向は健側向きである。暗所で眼振は増強する。観察された眼振は、経過とともに減弱し、3ヶ月程度で消失する。
頭振後眼振は長期によって観察される。
温度刺激検査温度刺激検査は、前庭神経炎確実例と診断するためには必須である。
外側半規管は上前庭神経支配であり、前庭神経炎のほとんどを占める上前庭神経炎、全前庭神経炎において、高度の半規管麻痺(canal paresis:CP)を認める。
下前庭神経炎では外側半規管は障害されず、VEMPやHITなどの検査で診断できた症例が報告されている。
VEMPcVEMPの異常は25-34%、oVEMPの異常を認めるものは55-68%とされており、上前庭神経由来とする前庭神経炎が多いことが示唆されている。
vHIT上前庭神経炎では、患側の前半規管と外側半規管のVORゲインが低下し、、下前庭神経炎では、患側の後半規管のVORゲインが低下する。全前庭神経炎では3つの半規管で低下する。
画像検査
鑑別診断
治療1)急性期の治療 薬物治療
2)ステロイド治療
3)慢性期の治療ベタヒスチン(メリスロン)、前庭リハビリテーション
予後
出典:めまい診療ハンドブック 中山書店
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項目
概念突発性難聴は突然発症する原因不明の高度難聴で、循環障害説やウイルス感染説が有力である。
めまいは難聴の発生と前後して約40%に伴うが、めまい発作を繰り返すことはないとされる。
頻度
原因
症状突然発症、高度感音難聴。めまい。めまいは発作を繰り返すことはない。
眼振検査発作直後は患側向きの刺激性眼振。その後、健側向きの麻痺性眼振に変化する。自発眼振は、静的前庭代償により次第に軽減消失していく。
温度刺激検査発症後長期間経過しても66.7%に半規管麻痺残存。半規管麻痺例では初診時高度難聴で、治療による聴力改善も悪いという報告がある。
VEMP検査めまいを伴う突発性難聴の主病巣は蝸牛及び球形嚢で、前庭所見のない突発性難聴よりもcVEMP異常例が多い。cVEMP異常例では聴力予後が悪い。
鑑別診断
治療
予後
出典:めまい診療ハンドブック 中山書店
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概念膝神経節などに潜伏している水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化により発症し、耳介帯状疱疹、眼神経麻痺。第Ⅷ脳神経症状(難聴・めまい)を症状とする。
頻度
原因膝神経節などに潜伏している水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化
症状耳介帯状疱疹、眼神経麻痺。第Ⅷ脳神経症状(難聴・めまい)
眼振検査めまいを伴った突発性難聴と同じ。
温度刺激検査めまいを伴ったハント症候群の83%に半規管麻痺がある。
VEMP検査oVEMPの異常は72.7%、cVEMPの異常は27.3%で、cVEMPの異常例は全てoVEMPの異常例で、ハント症候群の前庭障害は上前庭神経障害の関与が大きいと考えられている。
鑑別診断
治療
予後
出典:めまい診療ハンドブック 中山書店
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持続性めまい
2024/02/16

PPPD心因性めまい一側前庭機能障害
の代償不全
両側前庭機能不全加齢性前庭障害
持続性浮動感
立位で悪化×
体動で悪化×
誘発後、悪化が持続××××
視覚誘発×
眼振×
vHIT, CP×一側障害高度両側障害軽度両側障害
HTPG高値××未検未検
jumbling現象××
出典:めまい診療ハンドブック p45
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概念PPPDは、3か月以上持続する浮動感(dizziness)、不安定さ(unsteadiness)、非回転性めまい(non-spinning vertigo)を主訴とし、症状は立位姿勢・歩行、能動的あるいは受動的な体動、動くものや複雑な視覚パターンを見た時に増悪し、前庭疾患を中心とする何らかの平衡障害に続発する。
頻度日本のめまい統計では、PPPDはめまい症の20-25%に及ぶ。筆者らの調査ではめまい症の約70%を占め、慢性めまいの原因疾患としては最多である。
40歳代をピークとして女性に多く、不安症あるいは神経症傾向を伴う症例に多いとされている。
原因何らかの急性めまいエピソードが先行する。
症状浮動感、不安定さ、非回転性めまい。3か月以上にわたってほとんど毎日存在する。症状は長い時間持続する。症状は1日中持続するとはかぎらない。
立位姿勢、能動的あるいは受動的な動き、動いているもの、あるいは複雑な視覚パターンをみたとき、以上の3因子で増悪する。症状は、顕著な苦痛あるいは機能障害を引き起こしている。
問診票NPQ Niigata PPPD Questionnaire。72点満点中27点をカットオフとするとPPPD診断の感度70%、特異度68%である。
HADSはやや高値。DHIは重症相当でめまい症に比べ有意に高値。
CP%やや高値
vHITVORゲインは正常
VEMP正常
重心動揺検査ラバーロンベルグ率、閉眼ラバー比は正常。
HTーSVV
Head-Tilt SVV
HTPG 頭部傾斜感覚ゲインはPPPDでは代償不全や心因性めまいに比べ、有意に大きく、HTPG>1.202では、PPPD診断の特異度は95.2%であった。
鑑別診断
治療①薬物療法、②前庭リハビテーション、③認知行動療法
予後
出典:めまい診療ハンドブック 中山書店
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概念
頻度
原因
症状
検査
検査
重心動揺計検査グラビチャートで涙滴型
鑑別診断
治療
予後
出典:めまい診療ハンドブック 中山書店
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概念
頻度
原因
症状
検査
検査
検査
鑑別診断
治療
予後
出典:めまい診療ハンドブック 中山書店
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概念両側の前庭が障害されると、前庭代償は働かず、めまいやバランス障害、体動時の動揺視(jumbling現象)が慢性的に持続する。
頻度両側前庭機能不全は非常にまれ。アメリカでは有病率は10万人当たり28人、日本では10万人当たり1人と推定されている。
原因日本の疫学調査では、両側のメニエル病によるものが最多、髄膜炎、薬剤性、原因不明。
症状①歩行時や立位時のバランス障害、②頭を動かしたときの動揺視(jumbling障害)、③暗所や足場の悪い場所でのバランの増悪
温度刺激検査温度刺激検査により両側の末梢前庭機能(半規管機能)の消失または高度低下を認める。
vHIT両側の前庭機能障害
検査
鑑別診断
治療①前庭リハビリテーション、②人工前庭、臨床応用の直前まで来ている、③ノイズGVS
予後
出典:めまい診療ハンドブック p146中山書店
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概念一側の末梢前庭系が障害されると著明な自発眼振や平衡失調が現れる。急激に生じた一側性末梢前庭障害による前庭系の左右差により惹起される前庭動眼系および前庭脊髄系の症状が、障害された末梢前庭機能が回復しなくても中枢前庭系の可塑性により時間経過とともに次第に経過する現象を前庭代償と呼ぶ。
前庭代償には、静的前庭代償と動的前庭代償に分けられる。
静的前庭代償による小脳などを介した健側前庭神経核の抑制により、前庭神経核の活動性の左右差が是正され、その後、障害側の前庭神経核の活動性が回復すると、静的症状である眼振や平衡障害は次第に軽快する。
しかし、頭部の運動や体動により誘発される眼振と平衡障害などの動的症状は持続する。健側前庭神経核からの前庭情報を利用して障害側前庭神経核の反応性が回復する動的前庭代償により、動的症状も徐々に軽快する。これを動的前庭代償とよぶ。
前庭代償、とくに動的前庭代償が遅延したり停止すると(代償不全)、頭部の運動や体動により誘発されるめまいや平衡障害が軽快せず残存する。一側前庭障害後の前庭代償不全の患者は、持続性のめまいを訴える。
頻度前庭神経節が障害された前庭神経炎や聴神経手術の術後には前庭代償不全になりやすく、頭部の運動や体動により誘発されるめまいや平衡障害が遷延する。
一方、めまいを伴う突発性難聴では、半規管前庭障害が主で前庭神経節は障害はされていないために前庭代償不全にはなりにくい。
原因
症状
検査
検査
検査
鑑別診断
治療急性期の治療:①前庭神経炎に対するステロイド治療、②ヒスタミンH3受容体の前庭代償に対する関与。ヒスタミン神経系は後部視床下部の結節乳頭体を起始核として、前庭神経核にも投射している。ヒスタミンH3受容体拮抗薬。ベタヒツチンは、1)内耳の血流改善作用、2)H3受容体拮抗作用。
慢性期の治療:動的前庭代償:①頭部の動きを伴なう歩行、②加速減速を伴う歩行、③座位から起立して歩行、④方向転換を伴う歩行、⑤円周歩行、⑥固定指標を固視しながらの歩行。
慢性期の一側前庭障害患者には、前庭動眼反射の適応を誘導する前庭リハビリテーションが有効である。
前庭動眼反射の適応とは、視線と指標のずれが、小脳片葉を介して低下した利得を回復させる前庭リハビリテーションのメカニズムである。
頭部の動きを伴わない衝動性眼球運動や滑動性眼球運動のみの前庭リハビリテーションでは、前庭情報や頚部からの深部知覚の入力を伴わないため、視線を安定化させる効果は乏しい。一方、前庭動眼反射を誘導する前庭リハビリテーションは選択的に視線を安定させるために、前庭動眼反射の適応を誘導する前庭リハビリテーションのみでは前庭代償不全による慢性期の一側前庭障害患者の姿勢や歩行を改善する効果は乏しい。
前庭代償不全により前庭脊髄反射が十分に改善せず、姿勢や歩行が不安定な慢性期の一側前庭障害患者には、前庭脊髄反射の適応を誘導する前庭リハビテーションが有効である。
予後
出典:めまい診療ハンドブック 中山書店
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概念
頻度
原因
症状
検査
検査
検査
鑑別診断
治療
予後
出典:めまい診療ハンドブック 中山書店
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前庭神経核内耳の動脈小脳前・後脊髄小脳路
生理的眼球運動前庭にかかわる反射固視抑制
前庭代償前庭リハビリテーション

前庭神経核
2024/03/20

前庭神経核をみていきます。4つの亜核が存在します。
上核(Bechterew)
外側核(Deiterus)
内側核(Schwalbe)
下核(Roller)

前庭神経核の出力や入力をみてみます。眼筋運動神経核への出力は省いています。

                     

前庭核からの出力線維(遠心性線維)を示します。
1)外側前庭脊髄路を介して脊髄の運動ニューロンに終わります。特に伸筋の緊張を高めることによって立位の保持に貢献します。
2)前庭小脳線維を介して、小脳の片葉小節葉へ終わります。
3)内側縦束の上行部を介して同側あるいは反対の動眼神経核へ終わります。

                     

求心性線維を示します。
1)球形嚢斑の求心性線維は、前庭神経下核と外側核に終わります。
2)卵形嚢斑の求心性線維は、前庭神経下核の内側部、内側核の外側部、外側核に終わります。
3)三半規管の膨大部稜からの求心性線維は、前庭神経上核、下核の上部、外側核に終わます。

出典: プロメテウス解剖学アトラス(医学書院)

                     

1)前庭神経のうちいくつかの線維は、下小脳脚のそばを通る傍索状体路を経て小脳片葉小節葉へ直接向かっています。ここから室頂核を経て遠心性線維が鉤状束を経て、前庭神経核、前庭神経、迷路の有毛細胞に戻っています。
2)前庭神経上核、内側核、下核から片葉小節葉にはいり、これらの前庭神経核に遠心性線維を戻しています。そして、小脳網様体路や網様体脊髄路を介して脊髄前角細胞へ遠心性線維を出しています。
3)前庭神経外側核から外側前庭脊髄路が遠心性線維としてでており、同側の脊髄前索内のγおおびα運動覚に行っており、仙髄にまで達しています。この線維路により伸展反射は促進的影響を受け、平衡を保つのに必要な全身における筋トーヌスが保持されています。
4)前庭神経内側核からの遠心性線維は両側の内側縦束に入り、頚髄前角細胞に行き、さらに内側前庭脊髄路として胸髄上部に行っています。この線維は、頭をいろいろな位置に保つときに必要なそれぞれの項部筋のトーヌスに影響を及ぼしています。頭と同時に手も動かして平衡を保とうとします。
5)すべての前庭神経核は内側縦束を介して眼筋運動神経核と関連します。いくつかの線維はCajalの核群(間質核)やDarkschewitsch核へと行き、さらに視床まで行っています。

出典: 神経局在診断(文光堂)
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内耳の動脈
2024/03/02

内耳の栄養血管をみてみます。

上記とは別に、前前庭動脈から球形嚢への血液供給もある(後前庭動脈優位)。
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小脳
2024/03/02

小脳をチョッとみてみましょう。
プロメテウス解剖学アトラス(坂井建雄訳、医学書院)と神経局在診断(花北順哉訳、文光堂)を参考にします。

上小脳脚 主に小脳脚からの遠心性神経路を含む。いくつかの伝導路は上小脳脚交差で交差し、その後、下行脚(橋に向かう)と上行脚(中脳と視床に向かう)に分かれる。
構成線維起始終末部位
下行部室頂核と球状核網様体と前庭神経核(ほとんど対側性)
上行部歯状核赤核と視床(両方とも対側性)
前脊髄小脳路腰仙髄中間帯の2次ニューロン。下肢や体幹部の脊髄神経節からの固有感覚(筋紡錘、腱器官などからの感覚)を中継する。線維は脊髄内で交差し再び僑で交差して同側に戻る。虫部と前葉中間部(同側性:苔状線維として終わる)
中小脳脚 求心性神経路のみを含む
構成線維起始終末部位
橋小脳線維橋核、皮質橋線維が中継されて、橋小脳投射となる(中小脳脚線維の90%を占める)前葉と後葉の外側部(対側性:苔状線維としておわる; 反対側の歯状核に枝を出す)
下小脳脚 求心性および遠心性神経路を含む
構成線維起始終末部位
後脊髄小脳路胸髄核と胸髄。下肢の固有知覚と皮膚覚を中継する。伝導速度の大きな線維を含む。虫部とその近くの前葉、錐体とその近くの後葉(同側性:苔状線維として終わる)
楔状束小脳路楔状束核と副楔状束核。伝導速度の速い、上肢の固有感覚(副楔状束核)と皮膚覚(楔状束核)を中継する 機能的に後脊髄小脳路に相当する。前葉の後部(同側性:苔状線維として終わる)
オリーブ小脳路下オリーブ核複合体。下オリーブ核は、対側の小脳からの多数の投射(歯状核、下段参照)をはじめとして、感覚系、運動系から多数の 入力を受ける。小脳皮質の分子層(対側性:登上線維として終わる)
前庭小脳路半規管(前庭神経節)と前庭神経核。平衡覚や体の位置や動きの情報を直接的に(Cr.n.Ⅷの前庭神経による、同側性)、あるいは前庭神経核で一度中継して(両側性)、伝える。小節、片葉、前葉、虫部(両側性、左欄参照:苔状線維として終わる)
三叉神経小脳線維脳幹の三叉神経核群。頭部の固有感覚と皮膚覚を中継する。後葉の吻側部(同側性:苔状線維として終わる)
小脳下オリーブ核線維歯状核下オリーブ核(対側性)
出典: プロメテウス解剖学アトラス

次は、神経局在診断(花北順哉訳、文光堂)を参考にします。

小脳皮質への求心路
1) 同側の前庭神経核(一部は前庭器官から直接に)から
2) 同側の脊髄から
3) 対側の脳神経核(対側の大脳皮質)から
4) 対側の延髄のオリーブ核複合体から
オリーブ核からの線維は登上線維 climbing fibersで、小脳皮質のプルキンエ細胞に終わっている。そのほかの求心性線維は苔状線維 mossy fibersとなって、小脳皮質内の下流細胞に終わっている。
第3の求心性線維として縫線核(セロトニン)、青斑核(ノルアドレナリン)からの線維がある。

小脳核
1) 室頂核: 片葉小節葉(前庭小脳)のプルキンエ細胞から求心性線維を受ける。遠心性線維は、①前庭核へ向かう、②対側への小脳へ交叉し網様体と前庭核に向かっている。
2) 球状核と栓状核: 虫部・傍虫部(脊髄小脳)からの求心路、遠心路は対側への赤核へ
3) 歯状核: 小脳半球(大脳小脳)からが求心路、傍虫部からも。遠心路は、上小脳脚を通り、対側の赤核と視床へ。

上小脳脚、中小脳脚、下小脳脚を、神経局在診断(花北順哉訳、文光堂)の記載でみてみましょう。 上記のプロメテウス解剖学アトラスと比較しましょう。

                    
上小脳脚 上小脳脚は、小脳から出る遠心性線維のほとんどのものを含んでおり、これらの線維は深部白質内にある小脳核から出ている。求心性線維は少ないが前脊髄小脳路がある。
構成線維内容
遠心路対側の視床(視床外側腹側核(VL核)と中心核
遠心路対側の赤核
遠心路網様体
前脊髄小脳路この前脊髄小脳路は、後脊髄小脳路と同じ領域(脊髄小脳)に終わっている。これらの神経路は末梢からの固有知覚(筋紡錘、Golgi腱器官、関節受容器からの情報)を伝える
中脳蓋小脳路中脳蓋Tectumからのインパルスは中脳蓋小脳路となり、小脳虫部へ伝えられる。中小脳脚の真中部分を走行し、上小脳脚が上髄帆へと移行する部分に位置している。この線維は下丘からの聴覚性情報、上丘からの視覚性情報を伝えていると考えられている。
中小脳脚 求心性神経路のみがふくまれる
構成線維内容
橋小脳路橋小脳路の線維は、橋で交叉後、太い線維束となり小脳半球に進んでいる。これらの線維は、大脳のからの線維が脳橋のの神経核でシナプスを形成した後のものに相当している。脳橋にある核から出た直後に交叉する
モノアミン作動性経路縫線核からの求心性線維が中小脳脚を通り小脳へ向かっている
下小脳脚 求心性および遠心性神経路を含む
構成線維内容
後脊髄小脳路後核の基部にあるClarke柱(胸核)から生じている。この経路はもっぱら、下肢および躯幹の筋紡錘からのインパルスを前・後葉の傍虫部へ伝えている。
副楔状束からの経路胸核からの上の頚髄から由来した軸索は、楔状束の外側部分を上行し延髄にある副楔状束核でシナプスをかえて、後脊髄小脳路の軸索とともに小脳に達する。
オリーブ小脳路対側のオリーブからの軸索はオリーブ小脳路として、登上線維を介して、直接、小脳のすべてのプルキンエ細胞の樹状突起に達している(下オリーブ核の線維は主に大脳小脳へ投射しているが、一方、副オリーブ核からの線維は前庭小脳と脊髄小脳へ投射している。
前庭小脳路前庭神経および前庭神経核からの線維は片葉小節小葉と室頂核へ行く。
網様体からの線維
室頂延髄路下小脳脚を通る最大の遠心路である。前庭神経核へ向かっている。これにより、前庭小脳性の反射経路が出来上がっている。この反射経路により脊髄による運動機能に影響を与えている。
室頂核網様体路室頂核から網様体へでている
小脳下オリーブ路歯状核からオリーブへでている

わかりにくいので、もうひとつ、脳MRI(高橋昭喜、秀潤社)を参考にします。

求心路
1) 前庭小脳路:前庭神経節・前庭神経核→索状傍体→同側の小脳小片葉・室頂核
2) 後脊髄小脳路:脊髄のClarke核→後脊髄小脳路→下小脳脚→同側の小脳皮質)
3) 前脊髄小脳路:(脊髄で対側へ交叉)→前脊髄小脳路→(交叉)→上小脳脚→同側の小脳皮質
4) オリーブ小脳路:大脳皮質・中心被蓋路→下オリーブ核→(交叉)→下小脳脚→対側の小脳皮質
5) 橋小脳路:大脳皮質(主に前頭葉と側頭葉)→橋核→(交叉)→中小脳脚→対側の小脳皮質

遠心路
1) 歯状核赤核視床路:小脳皮質→小脳核(主に歯状核)→上小脳脚→上小脳交叉→赤核→視床(VA/VL)→対側の大脳皮質運動野
2) 小脳前庭路/小脳網様体路:室頂核→(索状体(非交叉性)、上小脳脚の鉤状束(交叉性))→同側・対側の前庭神経核、脳幹網様体


三冊の本で、同じところをみたのでなんとなくわかってきました。
大雑把に把握してみましょう。
中小脳脚は、橋小脳路(求心性線維)。のみと覚えてよさそう。
小脳からの遠心性線維はそんなに多くない。
上小脳脚
を通る遠心性線維は、対側の赤核や視床に向かうものと対側の前庭神経核・網様体に向かうもの(鉤状束)。
下小脳脚
を通る遠心性線維は、同側の前庭神経核・網様体に至るもの。
小脳へ求心性線維は多い。
上小脳脚
を通る求心性線維は前脊髄小脳路。
下小脳脚(索状傍体を含む)
を通る求心性線維は多いので覚えるのは難しい。後脊髄小脳路、前庭から、下オリーブから、あと、副楔状束、網様体から。三叉神経から小脳へ入るルートもあるらしい。

こんな感じでしょうか。

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前・後脊髄小脳路
2024/04/18

前・後脊髄小脳路は、脊髄の側索に存在します。筋、腱や関節からの求心性インパルスを小脳へ運ぶ線維は、意識に登らない運動調節に関与します。
前・後脊髄小脳路の2次ニューロンは、脊髄神経節の1時ニューロンの求心性線維から固有感覚の信号を受けます。
前脊髄小脳路の2次ニューロンは、後柱の中央部に位置し、これらの投射線維は同側及び対側を上行し、中脳の菱形窩の底を通って、小脳へ向かい、中脳で軸索は方向をかえ、上小脳脚と上髄帆を通り、小脳の虫部へ行きます。
後脊髄小脳路の2次ニューロンは、核柱である胸髄核(C8-L2)に存在します。この2次ニューロンは同側性に上行し、下小脳脚を通り小脳へ連絡します。

前・後脊髄小脳路は、同様の体部位局在配列をもち、前方から後方へ向かって胸髄、腰髄、仙髄の線維が通ります。頚髄から同様の機能を持つ線維は、楔状束を通過し、副楔状束核から楔状束核小脳路として小脳へ連絡します。これらの線維には後脊髄小脳路を通るものは含まれません。後脊髄小脳路には頚髄からの線維は含まれない

出典: プロメテウス解剖学アトラス
前脊髄小脳路後脊髄小脳路
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生理的眼球運動
2024/04/01

眼球運動の役割は、中心窩で指標を捉えることである。指標が動いても自分が動いても、中心窩から指標がずれてしまうため、眼球を動かして指標を捉えることが必要となる。眼球運動には下記に示す5つがあります。
網膜ブレの最大の原因は生体が動くことなので、前庭眼反射と視運動性眼振で固視がえられます。

生理的眼球運動について、角南貴司子先生の論文(阪市医誌 70:7-13,2021)、高橋真有先生の論文(Equilibrium Res 81:46-58, 2022)などを参考に考えて行きたいと思います。
2023年新潟で行われた日本めまい平衡医学会で今井先生の講演を拝聴しました。

出典:眼振・異常眼球運動ライブラリー 今井 貴夫先生

                    

上記の生理的眼球運動の分類を参考に眼球運動について整理していきます。遅い眼球運動は、滑動性眼球運動と眼振の緩徐相の動き、速い眼球運動は、衝動性眼球運動(saccade)と眼振の急速相という事ですね。

衝動性眼球運動(Saccade)
滑動性眼球運動(Smooth pursuit)
前庭動眼反射(Vestibulo Ocular Reflex VOR)
視運動性眼振(Optokeinetic Nystagmus OKN)
輻輳と開散
 

衝動性眼球運動(Saccade)は、注視点(中心窩)を急速に移動し、新たな目標物を中心窩で再び捉える眼球運動です。
これには、①視野の中に現れた物を反射的に見る場合(視覚誘導性saccade)と②空間的・時間的記憶によって見る(記憶誘導性saccade)があります。
反射性の視覚誘導性saccadeは後頭頂葉(IPL inferior parietal lobe)が重要とされ、記憶誘導性saccadeの開始には前頭前野(FEF frontal eye field)が関与しています。

 

Saccadeは、眼球の位置を別の位置に移動させるパルスと眼球の位置を維持するステップにより構成されます。
水平方向では、パルスの中枢はPPRFで、ステップの中枢は前庭神経内側核、舌下神経前位核、小脳片葉です。
垂直方向では、パルスの中枢はriMLFで、ステップの中枢はカハール間質核、小脳片葉です。

 

PPRFには水平性の衝動性運動パルスを引き起こす興奮性バーストニューロンが存在し、外転神経核に接続しています。抑制性バーストニューロンは対側の外転神経核と対側のバーストニューロンを抑制しています。
saccadeに関連して発火する細胞は、頭頂間溝外側壁の尾側のLIP(lateral intraparietal)野に位置します(上記ILPと同じか??)。これらの細胞は、視覚対象の網膜上の位置と眼位の両方の情報をもっていて、さらに運動情報もコードしているのではないかと考えられています。
ここからの信号が、同側の前頭眼野(8野)(FEF)に行き、そこから同側の上丘へ、さらに、水平系は対側の橋のPPRFを介して、垂直系は同側の中脳のriMLF(rostral interstitial nucleus of the MLF)を介して動眼運動神経核に至り。急速眼球運動を引き起こします。

 

saccadeに関わる小脳部位は、虫部Ⅵc、Ⅶ葉(oculomotor vermis)で、上丘からの入力を受けるその部位のプルキンエ細胞は、室頂核の後部(fastigial oculomotor region FOR)に投射しています。

衝動性眼球運動(Saccade)
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滑動性眼球運動はゆっくり動く対象物を中心窩に維持しながらその速度に合わせて眼球を滑らかに動かすシステムです。
追跡眼球運動に応じる細胞は、頭頂葉のMT野(middle temporal visual area) MST野(middle superior temporal area)、後頭頂葉連合野、前頭眼野が知られています。MT野とMST野を破壊すると、滑動性眼球運動と視運動性眼振(OKN)が障害されます。
MT野は主に滑動性眼球運動系の運動制御のため視覚情報を提供し、MST野は視覚情報を運動情報に転換する領域と考えられています。MT野、MST野から下降する線維は内包の後脚を通って、大脳脚より脳幹に入り、橋背外側核DLPN(Dorsolateral Pontine Nucleus)に入ります。ここから苔状線維を経由して小脳片葉、虫部Ⅵ‐Ⅷ葉に至り、さらに、前庭神経核から眼運動核へのfinal pathwayにはいります。。

 

前頭眼野の尾側領域に滑動性眼球運動系に関係する細胞があります。同側のMST野から入力を受け、同側の橋被蓋網様核(nucl reticularis tegmenti pontis)を介して、反対側の虫部Ⅶ葉に行き、そこから室頂核に行くと考えられています。
サルの両側片葉・傍片葉破壊では、サッケードには影響がなく、長期的に続く滑動性眼球運動系の速度の減少障害が生じます。

 

滑動性眼球運動(Smooth pursuit)
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視運動性運動系(Optokeinetic system OKR)は、視界のなかのものが動くことにより出現する生理的な眼振です。
例をあげると、走る列車の車窓から外の景色を見ている時に、眼の前を連続的に通過するものを追跡するゆっくしりた眼球の動き(進行方向と反対側への緩徐な眼球運動:緩徐相)と、引き続き、進行方向側へ急速な眼球運動(急速相)が生じます。

 

OKRは日常生活で網膜上に写された広い視野内の視覚像がぶれて動くのを防ぎ、安定した外界像を得るために必要です。

 

OKRには、立ち上がりの早い成分(直接経路)と遅い成分(間接経路)があります。直接経路(速い成分)は、追従性眼球運動系の機構を介するとされ、大脳皮質視覚領からMT/MST野、橋・小脳から前庭核に至ります。
間接経路(遅い成分)は、中脳の副視覚系(accessory optic system)を介するとされ、すなわち、外側膝状体外系です。視索核(NOT nucleus of optic tract 水平系)・AOT(accessory optic nucleus 垂直系)、橋被蓋網様核へ、そして前庭核へ至ります。下オリーブ核を介して対側片葉(腹側傍片葉)を介して前庭核へ至る登上線維がある。

 

直接経路は中心視野の刺激により誘発されます。間接経路は、網膜の中心窩だけではなく、辺縁部の動く刺激によるものです。速度蓄積機構(velocity storage sysem)により視運動刺激中に眼球速度を蓄積し、視運動刺激中の緩徐相速度を安定化させます。

 

OKR
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前庭動眼反射は、あとで原因既知のめまいの中枢でとりあげましたが、ここでもう一度記載します(重複になります)。
頭部を急速に回転した時に、その方向とは逆向きに三半規管で内リンパの流れが生じます。
その興奮が、眼球運動核に伝わるという反射です。

 

前庭半規管眼反射(外側半規管眼反射)
前庭半規管眼反射(外側半規管眼反射)では、例えば、頭を右側に振ると、それとは逆方向に内リンパ流が生じ、外側半規管の神経が興奮し、同側(右側)前庭神経核に入り、交叉して反対側(左側)の外転神経核に至り、反対側(左側)に偏倚させます。
そして、MLF を通り同側(右側)動眼神経核に至り、反対側(左側)に偏倚させます。

外側半規管眼反射

前庭半規管眼反射(後半規管眼反射)
後半規管が興奮すると同側前庭神経核に入り、そこから交叉して主として内側縦束(MLF)を上行し、反対側の滑車神経核や動眼神経核に至り、眼球を前庭神経核と反対側向きに回旋させ、下転(下眼瞼向き)方向への偏倚させます。

後半規管眼反射

前庭半規管眼反射(前半規管眼反射)
前半規管が興奮すると同側前庭神経核に入り、そこから交叉して主として内側縦束(MLF)を上行し、反対側の動眼神経核に至り、眼球を前庭神経核と反対側向きに回旋させ、上転(上眼瞼向き)方向への偏倚させます。
前半規管眼反射経路(上転方向)は、小脳によって抑制されますが、後半規管眼反射経路(下転方向)は小脳による抑制制御はありません。

前半規管眼反射

 

参考文献を下記に示します。角南貴司子先生の論文と高橋真有先生の論文です。


最初に角南貴司子先生の論文(阪市医誌 70:7-13,2021)の論文をみます。
眼球運動の役割は中心窩で視標を捉えることである.視標が動いても自分自身が動いても中心窩から視標がずれてしまうため眼球を動かして視標を捉えることが必要となる.眼球運動は主に 1)衝動性眼球運動,2)追跡眼球運動(滑動性眼球運動),3)視運動性眼振,4)前庭眼反射, 5)輻輳・開散運動,により構成されている.また,眼球運動は速い目の動きと遅い目の動きに大きく分かれる.速い目の動きは衝動性眼球運動と眼振の急速相に見られ,遅い目の動きは追跡眼球運動(滑動性眼球運動)と眼振の緩徐相に見られる.視覚情報を正確に取り込むために対象が網膜上で静止して視 線が保持されることが必要である.網膜ブレの最大の原因は生体が動くことなので,前庭眼反射と視運動性眼振で補償することにより固視が得られる。
1)衝動性眼球運動(saccade)
衝動性眼球運動は視線を新たな視標に向ける時に生じる 眼球運動で,素早く周囲を見渡したり,文字を読んだりする時に出現する.眼球の位置を早く別の位置に移動させる パルスと,眼球の位置を維持するステップにより構成されている. 水 平 方 向 の パ ル ス の 中 枢 は 橋 の 傍 正 中 橋 網 様 体 (paramedian pontine retricular formation; PPRF),垂直方向のパルスの中枢は中脳の内側縦束(medial longitudinal fasciculus; MLF)に存在する.ステップの機能は神経積 分機能とも言われ,水平方向のステップは前庭神経内側核 と舌下神経前位核がその中心的役割を果たし,垂直方向の ステップはカハール間質核が中心的な役割を担っている. PPRF には水平性の衝動性眼球運動パルスを引き起こす バーストニューロンが存在する. 興奮性バーストニューロンは直接,外転神経核に接続 し,抑制性バーストニューロンは対側の外転神経核と対側 のバーストニューロンを抑制している.橋の正中の背側縫 線核にあるオムニポーズニューロンは,衝動性眼球運動時 以外は常に活動しており,衝動性眼球運動の発現にはバー ストニューロンの興奮とオムニポーズニューロンの抑制が 同時に生じなければならない.上丘は視覚情報と運動情報 を統合した眼球運動信号を脳幹に送り,上丘は網膜からの 直接入力と反対側視野全体を担当する視覚野からの入力を 受けている.2つの大脳領域が上丘を制御しており,一つ は後頭頂葉の外側頭頂間溝野(lateral intraparietal area; LIP)で記憶誘導性衝動性眼球運動をつかさどる.もう一つは前頭眼野で,LIP より密接に衝動性眼球運動に関連し ている.前頭眼野は2つの経路で上丘を制御している.一つは(1)直接に上丘中間層に投射し,もう一つは(2) 黒質網様部を抑制する尾状核に興奮性シナプスを形成して いる.前頭眼野の運動関連ニューロンが活動すると,上丘 ニューロンを興奮させると同時に黒質の抑制から解放することにより眼球運動を誘発する.前頭眼野には視覚刺激に 応答して衝動性眼球運動時に活動する視覚性ニューロン,行動する上で意味のある衝動性眼球運動を起こす前にのみ 発火する運動関連ニューロン,視覚誘導性衝動性眼球運動の前に活動する視運動性ニューロンが存在する.
運動ニューロンがバーストニューロンからしか信号を受けていなければ,弾性復元力により衝動性眼球運動の開始 点に徐々に戻る.速度情報を位置情報に時間積分して変換する神経積分器により眼球が開始点に戻らず新しい位置に 保持される.これをステップと言う.水平方向のステップ については前庭神経内側核と舌下神経前位核と小脳片葉に より行われており,垂直方向のステップについてはカハー ル間質核と小脳片葉により行われている.
2)滑動性眼球運動( pursuit)
滑動性眼球運動はゆっくり動く対象物 の網膜上の速度,加速度成分を検出して,対象物を中心窩 に維持しながらその速度に合わせて眼球を滑らかに動かす システムである.追跡眼球運動の経路は視覚野より MT/ MST 野,前頭眼野を経由して背外側橋核,そして小脳の 虫部と片葉,前庭神経核をへて眼球の運動神経核へと至 る.MT 野と MST 野のニューロンは,眼球運動速度と網 膜像速度を加算して,空間内での目標物速度を計算する. 前頭眼野は追跡眼球運動の開始に重要な役割を担っており,前頭眼野を刺激すると追跡眼球運動が生じることが報告されており,前頭眼野が損傷されると追跡眼球運動は低下する.ヒトでは大脳皮質,小脳,脳幹にある追跡眼球運 動の経路のいずれの部位が損傷されても適切な追跡眼球運 動ができなくなる.その代わりにターゲット速度よりも遅い不完全な追跡眼球運動と小さな衝動性眼球運動を組み合 わせてターゲットを追うようになり,ガタガタとした目の 動きになる.
3)視運動性眼振(optokinetic nystagmus; OKN)
OKN は自分自身が等加速度で動く時に生じる眼球運動 で,視覚刺激の動く方向への眼球の偏位(緩徐相)と眼球 位置を戻すための速い眼球運動(急速相)から成り立っている.急速相が脳幹の神経機構で反射的に制御されているのに対し,緩徐相は検出した視覚刺激の動きをキャンセル するように眼を動かし,視界のブレを防ぎ,安定した視覚 が保てるように制御されている.OKN は外側膝状体,橋被蓋網様核から前庭神経核を経由する間接経路と,大脳皮 質視覚領から MT/MST 野,橋・小脳から前庭神経核を経由する直接経路がある.直接経路は中心視野の刺激で誘発され,定速度視刺激 OKN の刺激開始直後に見られる早い反応を起こす.直接経路の障害により追跡眼球運動の障害とともに OKN 開始時に見られる早い応答が消失する.間接経路は周辺視野の刺激のみで誘発される.間接経路は速 度蓄積機構(velocity strage mechanism)で視運動刺激中に眼球速度を蓄積し,視運動刺激中の緩徐相速度を安定化させる.末梢前庭障害および小脳障害では視運動性眼振の緩徐相の速度の低下が起こり,中脳障害では垂直性 OKN の解発が不良となり,橋の障害では水平性OKNの解発障害が生じる.
4)前庭眼反射 VOR
前庭眼反射は頭が動くときに視覚情報を網膜上で正確に とらえるための眼球運動である.頭を回旋することにより半規管が刺激され頭部回旋と反対向きに眼球の回旋が生じる.頭部を左に回旋すると左の外側半規管では膨大部に向かうリンパ流が生じ,外側半規管では向膨大部流で半規管感覚細胞の脱分極が生じる.前庭神経-前庭神経核に興奮が伝わり,同側の動眼神経核と対側の外転神経核に興奮が 伝わる.これにより眼球は右に回旋する.半規管系前庭神 経核ニューロンと比べて耳石系前庭-動眼ニューロンは著しく少ないとされている.卵形嚢の選択的刺激で,両眼とも眼球の上端が対側へ回転する回旋運動が生じ,球形嚢の選択的刺激で眼球が上転する.
5)輻輳・開散運動
近くの対象物を見る時には両眼が内転し,遠くの対象物 を見る時には外転する.輻輳と共に眼球の毛様体筋が収縮 してレンズ調節が行われる.共に中脳の動眼神経核領域の ニューロンにより制御されている.


次に高橋真有先生の論文を参考にします。Clinical Neuroscience 37:953-957,2019とEquilibrium Res 81:46-58, 2022からです。
前庭動眼反射VOR系(vestibuloocular system)
前庭動眼反射(VOR)の神経経路が明らかとされた。
前庭小脳は旧小脳と呼ばれ、虫部第Ⅹ葉(小節、nodulus)とⅨ葉(虫部垂、uvula)の後部、および半球の片葉(flocculus)であり、これらには前庭1次神経と前庭神経核からの入力が入る。
片葉Purkinje細胞からVOR系の前庭核細胞への抑制が解析された。前庭1次神経入力が前庭核を介して動眼神経核に伝えられるのに対し、前庭1次神経がその側枝を片葉に出し、Purkinje細胞が、前庭動眼反射の3-neuron arcの働きを調整している。前庭系の苔状線維系でみられた前庭核への入力についてはまだよくわかっていない。
小脳障害でVOR系が異常をきたす所見は、visual suppressionの現象である。
暗所で温度眼振誘発中に、一点を固視させると、眼振の発現が抑制される現象をvisual suppressionという。
小脳片葉の一側障害、両側障害で、温度眼振に対してvisual suppressionの減少がみられる。
虫部小節の破壊では、velocity storage mechanism(速度保持機構)が障害されることがわかっており、前庭後眼振や視運動性眼振が誘発されにくくなる。

視運動性眼球運動系(optokinetic system OKR)
視運動性眼球運動系(OKR)は、鉄道眼振として知られ、電車の乗客が外の景色を見ている時、進行方向と反対側への緩徐な眼球運動(緩徐相)に引き続き、進行方向側へ急速な眼球運動(急速相)が起こる。 OKRは、日常生活で網膜上に投影された広い視野内の視覚像がぶれて動くのを防ぎ、安定した外界像を得るために重要である。外界の像が全体としてぶれるような状況は、頭や体を動かした時に起こり、この時、頭部の動きを感知して前庭系が働き、VORが起こり網膜像のぶれを補正するが、ゲインが十分でなく補正できない。OKRはこれを補うように同じ方向に働いている。
刺激方法として、白黒の縞模様のドラムの中心に被験者を置き、ドラムを回転させると回転方向に緩徐相が起こる。一定時間回した後にドラム回転刺激中に真っ暗にして視覚刺激がないのにもかかわらず、眼振が継続する(optokinetic after nystagmusu OKAN)。
また長い間、からだが等速回転した後に止まると、半規管刺激による回転後眼振が起こる。これは体の回転開始時に起こる眼振とは反対方向であり、網膜上に起こる像のずれは逆方向の視運動性眼振を誘発し、このOKRで回転後眼振を抑える働きをしている。
このようにVORとOKRは頭部の回転時に起こる網膜上のずれを減少させ正確な視覚を保証するように共同して働いている(compensatory eye movement)。これは緩徐相に相当するが、急速相は緩徐相をリセットする働きを持っている。
VORおよびOKRの急速相からサッケード系が、緩徐相から滑動性眼球運動系が発達してきていると考えられている。
OKRには立ち上がりの速い成分と遅い成分がある。OKN緩徐相速度の初期急速増加は、大脳皮質経路の直接経路が関与し(両側MST medial superior temporal野を破壊するとOKNの速い成分・追従性眼球運動が障害される)、遅い成分と定常状態は、視索核(NOT)を経由する経路が関与している。
この遅いほうのOKRの成分(間接経路)を誘発する視刺激は、網膜の中心窩だけではなく辺縁部への動く刺激によるものである。その脳幹での経路は、視神経から対側の中脳のAOT(accessory optic nucleus 垂直系)、NOT(nucleus of optic tract 水平系)に入り、そこから同側の前庭核を介して、眼運動細胞に行く系と、ここから同側下オリーブ核の背側帽(dorsal cap)を介して、対側片葉(腹側傍片葉)を介して前庭核に至る登上線維系が知られている。
一方、OKRの立ち上がりの速い成分(直接経路)は、対側の外側膝状体-視覚野17野-大脳皮質上側頭溝前壁にあるMT(middle temporal)野-MST野、背外側橋核(DLPN)を通り片葉(腹側傍片葉)を介して、前庭核-外転神経核に至る。
この速い大脳を介する系と次に述べる滑動性眼球運動系、共通の系を多く持つ。MT/MST野では、それぞれの運動で活動する細胞にはかなりの違いがある。
小脳障害では、OKNの異常がしばしば観察され、病側への緩徐相が障害される(小脳障害だけでは、急速相は障害を受けない)。このOKNの障害は、急速増加の成分が消失し、速い刺激速度での反応が減少するが低い刺激速度での緩徐な増加の成分とOKANに異常は生じない。正常者では、OKRは100°/病魔で追跡可能であるが、20-40°/秒の刺激で頭打ちになり追跡できなくなる。

滑動性眼球運動系(smooth pursuit system)
滑動性眼球運動系は、ゆっくりと移動する小さな視覚対象を眼で継続的に追うときに起こる眼球運動で、運動を起こす刺激は動いている視対象の物体の速度で、これに等しい眼球運動がおこる。
動く指標なしに随意的にスムースな運動をさせても静止した眼前の線分をスムースに追うように命じても、眼球運動はスムースにならず階段状波形を示す。
この波形は指標追跡検査で小脳障害患者によくみられる階段状波形といわれるSPの異常とよく似ている。
このSPはOKRと似ているが、大きな違いは中心窩をもつ霊長類にしか存在しない。SPは40°/秒ほどまでしかスムースに指標を追うことができない。(OKRは100°/秒以上が可能)
網膜の中心窩からの入力は、対側の外側膝状体-視覚野17野-MT/MST野に至る。MT野の細胞には、眼球運動に先行して発火するものもあるが、ほとんどが指標の網膜像の動きを反映した活動を示すことから、MT野は、滑動性眼球運動系の運動制御のための視覚情報を提供していると考えられ、一方MST野の細胞は、視覚入力に応じるのみならず、運動情報をもつものが多く存在し、特に滑動性眼球運動系に応じて反応する細胞は、受容野が小さく中心窩を含んでおり、OKRを示す細胞とは異なる性質をもっている。MST野には実際、両側MSTを破壊するとサッケード以外の滑動性眼球運動系、OKRの速い成分、追従性眼球運動が障害されるので動きの視覚情報を眼球運動のコマンド信号へと変換する役割をもち、運動制御の信号はより下流の橋核から反対側の片葉・腹側傍片葉から脳幹の前庭核などの標的細胞に至る系で作られると考えられている。
前頭眼野の尾側領域に滑動性眼球運動系に関係する細胞がある。同側のMST野から入力を受け、同側の橋被蓋網様核(nucl reticularis tegmenti pontis)を介して、反対側の虫部Ⅶ葉に行き、そこから室頂核に行くと考えられる。追従性眼球運動、OKR、滑動性眼球運動系はかなり共通の経路をもっているが、少しずつ異なる特徴をもっている。
サルの両側片葉・傍片葉破壊では、サッケードには影響がなく、長期的に続く滑動性眼球運動系の速度の減少障害がおこる。

サッケード眼球運動系(saccadic eye movement system)
サッケード(saccade)は、視覚対象に急速に視線を切り替える時、終わるまで停止させることのできない速い随意性眼球運動である。運動を誘発する刺激は、指標の位置変化であり、随意的に運動速度の調節はできず、運動の遂行にとって指標は不要である。両側MST野の破壊ではサッケードは影響されず、サッケードに販連して発火する細胞は、頭頂間溝外側壁の尾側のLIP(lateral intraparietal)野に位置する、これらの細胞は、視覚対象の網膜上の位置と眼位の両方の情報をもっていて、さらに運動情報もコードしているのではないかと考えられている。
ここからの信号が、同側の前頭眼野(8野)(FEF)に行き、そこから同側の上丘へ、さらに、水平系は、対側の橋のPPRF、垂直系は、同側の中脳のriMLF(rostral interstitial nucleus of the MLF)を介して動眼運動神経核に至り。急速眼球運動を引き起こす。
サッケードに関わる小脳部位は、虫部Ⅵc、Ⅶ葉(oculomotor vermis)で、上丘からの入力を受けるその部位のプルキンエ細胞は、室頂核の後部(fastigial oculomotor region FOR)に投射している。
ここから脳幹への経路は、omnipause neuronやinhibitory burst neuronへの経路が推定されているが定かではない。
小脳障害でみられる典型的なサッケード系異常は、左右側方注視眼振である。
その特徴は側方視の方向に急速相をもつ眼振が一過性に起こり徐々に衰退して終わる。鼻指試験におけるterminal tremorに相当すると考えられている。脳幹病変でも注視眼振は起こるが、側方注視する限り減衰はしない。同様な現象でrebound nystagmus(反跳眼振)がある。これは側方注視をさせた後、しばらくしてから正面視に戻させると戻した方向に減衰する眼振が出るものである。また、側方視させたときにdysmetriaがみられる。これはhypermetria、hypometriaいずれの場合もある。これは、虫部Ⅵc、Ⅶ葉と室頂核の病変と考えられる。

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前庭にかかわる反射
2024/03/06

前庭動眼反射(Vestibulo Ocular Reflex VOR)
前庭からの情報が前庭神経核を経由し、動眼神経核、滑車神経核、外転神経核から外眼筋を支配して、眼球運動を調整する。
前庭頚反射(Vestibulo Collic Reflex VCR)
前庭からの情報が前庭神経核を経由し、内側前庭脊髄路を通って頚髄に至り、頭部を安定させる。同時に、CORとともに眼球のブレを調整する。
前庭脊髄反射(Vestibulo Spinal Reflex VSR)
前庭からの情報が前庭神経核を経由し、腰髄まで軸索投射され、前庭脊髄路として姿勢保持と平衡維持に関与する。これは外側前庭脊髄路を構成し、頚部・四肢の伸筋群を支配して、抗重力筋を活性化する。
頚眼反射(Cervico Ocular Reflex COR)
上部頚椎からの情報が前庭神経核を経由し、動眼神経核、滑車神経核、外転神経核から外眼筋を支配して眼球運動を調整する。
前庭自律神経反射
前庭からの情報が自律神経系に入力され、めまい、頭痛、嘔吐などの自律神経症状が生じる。

 

前庭動眼反射は、あとで原因既知のめまいの中枢でとりあげ、生理的眼球運動でもとりあげ、ここでもう一度記載します(再重複になります)。
頭部を急速に回転した時に、その方向とは逆向きに三半規管で内リンパの流れが生じます。
その興奮が、眼球運動核に伝わるという反射です。

 

前庭半規管眼反射(外側半規管眼反射)
前庭半規管眼反射(外側半規管眼反射)では、例えば、頭を右側に振ると、それとは逆方向に内リンパ流が生じ、外側半規管の神経が興奮し、同側(右側)前庭神経核に入り、交叉して反対側(左側)の外転神経核に至り、反対側(左側)に偏倚させます。
そして、MLF を通り同側(右側)動眼神経核に至り、反対側(左側)に偏倚させます。

外側半規管眼反射

前庭半規管眼反射(後半規管眼反射)
後半規管が興奮すると同側前庭神経核に入り、そこから交叉して主として内側縦束(MLF)を上行し、反対側の滑車神経核や動眼神経核に至り、眼球を前庭神経核と反対側向きに回旋させ、下転(下眼瞼向き)方向への偏倚させます。

後半規管眼反射

前庭半規管眼反射(前半規管眼反射)
前半規管が興奮すると同側前庭神経核に入り、そこから交叉して主として内側縦束(MLF)を上行し、反対側の動眼神経核に至り、眼球を前庭神経核と反対側向きに回旋させ、上転(上眼瞼向き)方向への偏倚させます。
前半規管眼反射経路(上転方向)は、小脳によって抑制されますが、後半規管眼反射経路(下転方向)は小脳による抑制制御はありません。

前半規管眼反射
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前庭脊髄反射と前庭頚反射
頭部の動きや傾きを耳石器・半規管が検知し、前庭脊髄反射を通じて頚部や四肢・体感の伸筋に伝えて、身体のバランスを維持する。静止時のバランス維持には主に耳石器が関与し、頭部の回転運動の際には主に半規管が関与する。
一側の前庭器は、主に同側の筋緊張を高める作用を有している。前庭脊髄反射の経路には、内側前庭脊髄路と外側前庭脊髄路があり、前者は頚部に出力し、後者は下肢に出力する。

骨格筋の運動ニューロンは、脊髄前角Ⅸ層に存在する。各筋の運動神経核の配列には、一定の傾向があり、内側に体幹筋と四肢の近位筋、外側に四肢の遠位筋の運動ニューロンが位置している。
前庭神経核は、橋・延髄移行部に存在する大きな核であり、大部分は一次前庭神経が投射する。前庭神経核は、外側核、内側核、上核、下核に分類される。
外側核は脊髄のみに投射しており、上核は眼球運動系にのみ投射する。内側核と下核は、眼球運動系と脊髄の両方に投射する。
前庭脊髄路には、主に外側核から起こる外側前庭脊髄路と、主に内側核と下核から起こり内側縦束(MLF)を下降する内側前庭脊髄路がある。
外側前庭脊髄路は主に同側を下降し、頚髄・胸髄・腰髄のすべての脊髄レベルに投射する。内側前庭脊髄路には同側を下降するものと反対側を下降するものがあり、大部分が上部頚髄レベルに投射する。

外側前庭脊髄路と内側前庭脊髄路の比較
外側前庭脊髄路は、主に耳石器からの一次前庭神経からの入力を介在ニューロンを介して受ける。作用は興奮性のみで、同側の頚髄から腰髄の全髄節レベルに投射し、同側の四肢の伸筋、すなわち抗重力筋に強い興奮作用を及ぼし、体平衡の維持に重要な役割を果たす。 一方、内側前庭脊髄路は、頚部への回転加速度入力を感知する半規管入力を一次前庭神経から直接受けることが多い。ニューロンの枝には興奮性のものと抑制性のものがある。起始細胞から頚髄への投射様式としては、同側性のものと対側性のものの両方がある。ほぼ全てが頚髄レベルに終わっており、前庭(半規管)頚反射に深く関与している。

前庭神経核は小脳皮質(片葉・小節)と関係が深いことが知られている。片葉の破壊により前庭性眼振の姿勢抑制(visual suppression)が障害される。
脊髄運動系への小脳からの投射様式は、内側前庭脊髄路と外側前庭脊髄路で異なる。内側前庭脊髄路では、前庭小脳(片葉・小節)からの投射を受け、外側前庭脊髄路は、前庭小脳からではなく、小脳前葉虫部(Bゾーン)からの投射を受ける。

外側前庭脊髄路の作用(前庭脊髄反射
外側前庭脊髄路の機能は、下肢に対して強い作用を及ぼすことが明らかであり、同側の伸筋に直接的な興奮性入力があり、屈筋には2シナプス性に抑制性入力がある。
すなわち外側前庭脊髄路の作用は、同側の抗重力筋が興奮して体重を支え、そちら側に倒れることを防ぐということである。急性の末梢前庭障害でみられる患側への転倒傾向は、外側前庭脊髄路の機能障害によると考えられる。

内側前庭脊髄路の作用(前庭頚反射、前庭半規管-頚反射)
内側前庭脊髄路は、半規管頚反射に重要な役割を果たしている。頚部の運動ニューロンへ、左右6個の半規管からの入力がある。半規管頚反射の神経回路の基本は、興奮性の前庭神経核-頚運動細胞の結合は対側投射であり、抑制性の前庭神経核-頚運動細胞の結合は同側投射であり、いずれも2シナプス性である。さらに対側性の抑制性結合(3シナプス性)も存在する。
筋の活動がその回転加速度刺激によって誘発される代償性の頭部運動に寄与する。
内側前庭脊髄路は、頚髄レベルに終わっており、体幹や下肢の筋の運動ニューロンに直接的な入力を及ぼすことはない。
しかし、頭位の保持をつかさどり、姿勢の立ち直り反射や空間識の形成に重要な役割を担っており、小脳や大脳前庭野を介して、間接的に体幹や下肢の筋緊張に影響を与え、体平衡の維持に関わっている。

外側前庭脊髄反射と内側前庭脊髄反射の比較
外側前庭脊髄路
(LVST)
内側前庭脊髄路
(MVST)
受容器耳石半規管
一次前庭神経投射(-)(+)
起始核外側核(ダイテルス核)内側核、下核
作用興奮性興奮性、抑制性
投射様式非交差性(同側性)交差性、非交差性(両側性)
投射レベル上肢、体幹、下肢頚部
小脳からの抑制前葉虫部(Bゾーン)前庭小脳
機能同側上・下肢伸筋に興奮作用前庭頚反射

前庭脊髄反射:前庭神経外側核から外側前庭脊髄路が遠心性線維としてでており、同側の脊髄前索内のγおおびα運動覚に行っており、仙髄にまで達しています。この線維路により伸展反射は促進的影響を受け、平衡を保つのに必要な全身における筋トーヌスが保持されています。

前庭頚反射:前庭神経内側核からの遠心性線維は両側の内側縦束に入り、頚髄前角細胞に行き、さらに内側前庭脊髄路として胸髄上部に行っています。この線維は、頭をいろいろな位置に保つときに必要なそれぞれの項部筋のトーヌスに影響を及ぼしています。頭と同時に手も動かして平衡を保とうとします。

外側前庭脊髄路と内側前庭脊髄路
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前庭抑制
2024/07/14

人には固視機能があり平衡系に関与しています。前庭性眼振は固視により抑制されることが知られています。 その抑制の程度を調べるのは、visual suppression testです。これは、視覚系と前庭系が小脳を介して相互に干渉することを利用しています。小脳の片葉・小節、橋、下頭頂葉の障害で固視抑制の減少・消失がみられます。

出典:イラスト めまいの検査 改定第3版 診断と治療社 p54-55 2017
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前庭代償
2024/04/12

静的前庭代償と動的前庭代償
静的前庭代償
前庭神経核ニューロンの内在的な自然発火は、平衡の維持に重要な役割を果たしている。
一側末梢前庭機能が障害がされると、障害側の前庭神経核ニューロンの自然発火は、入力がなくなるため著明に低下する。同時に障害側の前庭神経核ニューロンによる健側の前庭神経核ニューロンに対する前庭神経核間の交連線維連絡を介した抑制がなくなるため、健側の前庭神経核ニューロンの自然発火が亢進する。その結果、左右の前庭神経核ニューロンの活動性の不均衡が生じる。
めまい症状を発するとともに眼振や平衡失調が生じる。眼振や平衡失調などの静的症状が生じ、中枢前庭系による静的前庭代償が誘導される。

静的前庭代償の初期過程では、亢進した健側の前庭神経核ニューロンの自然発火が、前庭神経核の交連線維抑制系と前庭小脳・前庭神経核抑制系により抑制され、左右の前庭神経核ニューロンの活動性の不均衡が是正される。
静的前庭代償の後期過程では、低下した障害側の前庭神経核ニューロンの自然発火が回復し、初期過程で生じた健側の前庭神経核への抑制がなくても左右の前庭神経核ニューロンの活動性が均衡する。障害側の前庭神経核ニューロンの自然発火の回復には、細胞膜特性の変化が関係している。その結果、急性期の平衡障害が改善し、静的前庭代償が完成する。

① 前庭神経核間の交連線維抑制
前庭神経核間の交連線維はGABA作動性で相互に抑制性の調節が行われている。一側の末梢前庭神経の障害により、障害側前庭神経核ニューロンの自然発火が低下すると、健側前庭神経核ニューロンへの交連抑制入力が減少する。その結果、健側前庭神経ニューロンの自然発火が亢進すると同時に障害側前庭神経核ニューロンへの交連抑制入力が増加し、その活動性がさらに低下する。
静的前庭神経代償の初期過程では、健側前庭神経核ニューロンにおけるGABA A受容体の機能的up regulationが惹起され、亢進していた健側前庭神経核ニューロンの自然発火が低下する。一方、障害側前庭神経核ニューロンのGABA A受容体の機能的down regulationが惹起され、障害側前庭神経核ニューロンの自然発火が回復する。
② 前庭小脳-前庭神経核抑制
正常小動物では前庭小脳は同側優位に内側前庭神経核を抑制している。しかし、一側末梢前庭機能障害では、前庭小脳は内側前庭神経核への抑制パターンを変化させ、亢進した健側内側前庭神経核を強く抑制し、抑制された障害側の内側前庭神経核の抑制を軽減させることがわかった。その結果、前庭神経核間の活動性の左右差が是正され、静的前庭代償の初期過程が進行する。

動的前庭代償
動的前庭代償は、内耳からの前庭入力がなくなった障害側の神経核ニューロンの回転刺激に対する反応性が回復することで達成される。
これには健側の前庭神経核ニューロンからの交連線維を介した入力が重要である。
前庭神経核には、規則的にtonicに自然発火するtype Aニューロンと不規則にphasicな自然発火するtype Bニューロンがある。
動的前庭代償では、障害側の前庭からの入力がないため、障害側の前庭神経核においてtonicな動特性をもつtype Aニューロンが増加する。一方、健側の前庭神経核では、前庭からのtonicな規則的で求心性神経の割合が減少し、phasicで不規則な求心性神経の割合が増加するため、phasicな動特性をもつtype Bニューロンが増加する。
増加した健側の前庭神経核におけるtype Bニューロンにより、交連線維を介した障害側の前庭神経核ニューロンの活動性が変調する。このように、左右の前庭神経核ニューロンの動特性が変化することで、動的前庭代償が引き起こされ、前庭動眼反射の利得の低下や左右差が回復すると考えられている。
動的前庭代償により頭部運動などに伴う前庭動眼反射の利得や左右差の回復は数週間以上かけて進んでいく。しかし、加速度の大きい頭部運動や高周波数の回転刺激に対する前庭動眼反射は、動的前庭代償によっても完全に回復しない。臨床的にも自発眼振などの静的症状はよく代償されるが、頭振後眼振などの動的症状は代償されにくい。

前庭代償を観察しようとする場合、カロリックテストで外側半規管機能および上前庭神経機能、cVEMPで球形嚢および下前庭神経機能を検索する。
静的前庭代償を評価する検査として、フレンツエル眼鏡下での自発眼振、重心動揺検査がある。SVVは静的前庭代償過程で経時的に修正されていく。
動的前庭代償を評価する検査として、回転検査によって前庭動眼反射の利得をみるVOR検査がある。

出典:内科 127:1249-1252, 2021 北原糺先生
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前庭リハビリテーション
2024/04/16

1.動的前庭代償を促進する平衡訓練
運動:
① 頚部の動きを伴う歩行や加速減速を伴う歩行を行う
② 起立して歩行、方向転換や円周歩行を行う
メカニズム:
歩行により動的前庭代償が促進される。歩行に半規管刺激(頭部の動き)や耳石器刺激(加速減速を伴う歩行)を付加すると、前庭代償が促進される。動的前庭代償は健側の前庭情報により進行するためである。
効果:歩行の安定

2.前庭脊髄反射(半規管脊髄反射)の適応を誘導する平衡訓練
運動:
 頭部をpitch方向またはroll方向に動かしながら歩行を行う。
メカニズム:
姿勢制御は、半規管脊髄反射のうち、主に前半規管脊髄反射と後半規管脊髄反射で行われ、外側半規管脊髄反射の関与は乏しい。おって、pitch(上下垂直回転)またはroll(左右傾斜回転)方向に動かしながら前半期間及び後半規管を刺激する歩行により、前庭脊髄反射の適応を誘導する。
効果:歩行の安定
※外側半規管の出力は胸髄レベルまでのため、外側半規管脊髄反射は主に頚部の前庭脊髄反射に関与している。

3.前庭脊髄反射(耳石器脊髄反射)の適応を誘導する平衡訓練
運動:
(垂直(鉛直)軸を意識しながら)立位で頭部と体幹を前後または左右に傾け、身体を安定させるようにする。開眼→閉眼と次第に負荷を加える。
メカニズム:
前庭脊髄反射は最も重要な立ち直り反射であり、低周波数の姿勢制御は主に耳石器脊髄反射で行われる。前庭脊髄反射は静止した状態では起こらないため、頭部を体幹とともに前後左右にゆっくりと傾けることで低周波数の前庭脊髄反射の適応を誘導する。空間での垂直(鉛直)軸を意識しながら傾け、立ち直りを促進する。また、視覚情報を遮断した条件で頭部を体幹とともに前後左右に傾けると、前庭脊髄反射が強化され、その適応が効率的に誘導される。
効果:姿勢の安定

4.感覚代行を誘導する平衡訓練
運動:
(足底から床から感覚を意識しながら)立位で身体を安定させるようにする。閉脚→次足→単脚直立、開眼→閉眼、床→クッションの上で直立と次第に負荷を加える
メカニズム:
低下した前庭情報を体性感覚情報で代行することにより、感覚情報の重み付けの変化を誘導する。一側末梢前庭障害患者の姿勢制御は急性期には体性感覚依存であるが、慢性期になると視覚依存になることが報告されている。姿勢制御が視覚依存になると、動きのある視覚刺激になどによりめまいを訴え、姿勢が不安定になる。足底の感覚に意識を集中させることにより中枢神経系でのsensory reweightingを誘導し、姿勢制御を視覚依存から体性感覚依存に変化させる。
効果:姿勢の安定
※脊髄小脳(虫部、中間部)の最も大きな重要な脊髄からの体性感覚入力である。虫部からの出力は、室頂核を経て両側性に脳幹網様体と外側前庭神経核に投射し、体幹及び四肢近位部の抗重力筋に強い影響を及ぼしている。

5.前庭動眼反射(半規管動眼反射)を適応を誘導する平衡訓練
運動:
① 頭部をyaw方向またはpitch方向に回転させて固定指標(earth fixed)を固視し、次に頭部と反対方向にyaw方向またはpitch方向に動く指標を固視する。ゆっくりとした頭部回転から開始し、次第に周波数を増加させて1Hz(1秒間に1回)以上の高周波数で頭部を回転させる。
② 固定指標(earth fixed)を固視しながら歩行を行う。
メカニズム:
① 網膜上の指標像のズレ(retinal slip)が大きいほど前庭動眼反射の適応が誘導されやすいため、頭部と反対方向に動く指標を固視すると適応が誘導されやすい。適応の誘導には周波数特異性があるため、頭部回転の周波数を変化させる必要がある。
② 歩行時には頭部も動くため、固定指標を固視しながら歩行を行うと、前庭動眼反射の適応が誘導される。周辺視野が視運動性眼振を誘発する刺激となり、効果的に前庭動眼反射の適応が誘導される。
効果:頭部運動に伴う視線の安定化の改善

6.慣れを誘導する平衡訓練
運動:
めまいを誘発する頭部や身体の動きを繰り返す。動きのある視覚刺激によりめまいを生じる場合、めまいを引き起こす視覚刺激を繰り返し受ける。
メカニズム:
慣れを誘導してめまい症状を軽減する。末梢前庭の反応性低下(response decline)と中枢神経系の脱感作(desensitization)、統合(integration)、再構築(reconstruction)が関与していると考えられている。
効果:めまいに伴うQOLの低下を改善

出典:前庭リハビリテーションガイドライン
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原因既知のめまい
2024/02/16

中枢神経

中枢神経系関連のめまいについて、城倉健先生の論文から考えていきます。
眼球運動と眼振
水平方向
前庭半規管眼反射
Vestibular systemが関与する水平方向の眼球運動は、前庭器(外側半規管)から同側前庭神経核に入り、交叉して反対側の外転神経核に至り、反対側に偏倚させます。
内耳(末梢前庭)や延髄(前庭神経核)の障害によりこの経路が障害されると、眼球は患側に偏倚し、健側向き眼振が生じます。

外側半規管眼反射

前庭神経核(外側半規管眼反射経路)は、同側小脳から抑制性の制御を受けています。
小脳から前庭神経核への抑制が障害されると、患側の前庭神経核が小脳から脱抑制され、末梢前庭や前庭神経核の障害とは逆に,眼球は健側に偏倚し,患側向き眼振が生じます。

小脳による右外側半規管眼反射経路の抑制

前庭耳石器眼反射
前庭には、回転加速度(角加速度)を感知する半規管前庭系の他に、重力や直線加速度を感知する耳石器前庭系が存在します。
耳石器眼反射は,重力に対して眼球を地面方向に偏倚させる作用を持ちます。
延髄病変では,方向交代性向地性眼振【右下頭位で眼球が左向き(天井向き)に偏倚して右向き(地面向き)眼振が生じ、左下頭位で眼球が右向き(天井向き)に偏倚して左向き(地面向き)眼振】が生じることがあります。
小脳障害では、逆に方向交代性背地性眼振【右下頭位で左向き眼振、左下頭位で右向き眼振となる】が出現することがあります。 これらの眼振は,頭位変換(回転加速度)ではなく重力で誘発されているため、耳石器眼反射の関与が考えられます。 延髄病変による方向交代性向地性眼振は耳石器眼反射の直接障害、小脳病変による方向交代性背地性眼振は耳石器眼反射の脱抑制によって生じると考えられています。


垂直/回旋方向
Vestibular system の眼球運動の回旋成分は、末梢前庭器(垂直/回旋性の前半規管と後半規管)から同側前庭神経核に入り、そこから交叉して主として内側縦束(MLF)を上行し、反対側の滑車神経核や動眼神経核に至り、眼球を前庭神経核と反対側向きに回旋させる作用を持ちます。
末梢前庭器から延髄の前庭神経核までの病変では、眼球は患側に回旋偏倚して健側向き回旋性眼振が生じ、交叉後の橋や中脳の病変では、眼球は健側に回旋偏倚して患側向き回旋性眼振が生じます。

後半規管眼反射

前半規管眼反射

垂直成分は、上転(上眼瞼向き)方向への偏倚は前半規管眼反射に由来し、下転(下眼瞼向き)方向への偏倚は後半規管眼反射に由来します。
前半規管眼反射経路(上転方向)は、小脳によって抑制されていますが、後半規管眼反射経路(下転方向)は小脳による抑制制御がありません。
中脳から橋上部の病変により前半規管眼反射経路が直接障害されたり、延髄病変により前半規管眼反射経路が過抑制されたりすると、眼球は下眼瞼方向に偏倚し、上眼瞼向き眼振が出現します。
橋病変により後半規管眼反射が両側性に直接障害(内側縦束病変)されたり、小脳病変により前半規管眼反射経路が両側性に脱抑制されたりすると、眼球は上眼瞼方向に偏倚し、下眼瞼向き眼振が生じます(後半規管眼反射経路は小脳抑制がないため小脳病変でも脱抑制されません)。
垂直/回旋方向の耳石器眼反射については、ほとんどわかっていません。

小脳による両側前庭半規管眼反射経路の抑制

めまいの慢性化
前庭代償とその破綻
一側の急性末梢前庭障害では、前庭神経核への入力が低下するため、左右の前庭神経核活動の不均衡が生じます。この前庭神経核の不均衡は、左右の前庭神経核間の相反抑制作用により一層増悪し、激しいめまいや平衡障害を来します。
こうしためまいは,小脳が健側前庭神経核を抑制し、前庭神経核間の不均衡を是正するために、比較的速やかに軽減します(前庭代償)
前庭代償では、前庭神経核間の相互作用により、低下した患側前庭神経核活動の回復も促されます。
前庭神経核に入力する前庭神経節細胞自体が障害されたり、末梢前庭機能が変動していたりすると、この前庭代償がうまく働かず末梢性めまいは慢性化します。 また、中枢性めまいでも、脳幹小脳による前庭代償機転がうまく働かないため、めまいが慢性化する場合があります。

正常な状態。
右 末梢前庭障害小脳が健側前庭神経核を抑制し、
前庭神経核間の不均衡を是正

延髄外側梗塞
急性期にはめまいはしばしばみられます。
このめまいは、通常は時間と共に軽減しますが、一部の患者では、長期間遷延したり、逆に時間と共に悪化したりすることがあります。
このめまいの遷延化の機序は、梗塞による前庭神経核の機能低下ではなく、前庭代償(小脳による前庭神経核の抑制)が破綻し、前庭神経核機能(速度蓄積機構を含む半規管眼反射)の小脳からの脱抑制による病的亢進であることが報告されています。
こうした延髄外側梗塞後慢性めまい患者では、患側VORの直接障害による健側向き眼振ではなく、顕著な患側向き眼振が常時出現していると述べられています。
振子様回転刺激によるVOR測定では、患側の利得低下はなく、逆に異常に充進しています。この結果は、延髄外側梗塞後のめまい慢性化のメカニズムが、患側VORの直接障害ではなく、小脳からの抑制線維の障害によるVORの脱抑制によります。
実際に非侵襲的な脳の賦活法である反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)で小脳を賦活し、強制的にVORを抑制すると、延髄外側梗塞後慢性めまいが軽減したと報告されています。
脳幹や小脳の病変による慢性めまいに対する治療戦略は、VOR機能を高めるのではなく、薬物や磁気刺激によりVOR機能を抑制する必要があると報告されています。

右 延髄梗塞。急性期、健側への眼振。小脳が健側前庭神経核を抑制し、
前庭神経核間の不均衡を是正
右 延髄梗塞。
めまいは慢性期に改善。
右 延髄梗塞。慢性期にめまい遷延
小脳からの脱抑制によるVOR亢進

大脳の病変によるめまいの慢性化
頭部運動を伴う随意的な眼球運動の際にVORが強く出現すると、逆に視標を注視し続けることが困難になります。注視の際はVORが抑制されます(VS-VOR)。
  VS-VORは、大脳が小脳を介したVOR抑制的制御機構を調節し行われます。この大脳によるVOR制御は、脳の広い範囲の複数の部位が関与しています。
大脳の多発性脳梗塞や白質変化(慢性虚血性変化)が進行すると,慢性めまいを来します。
大脳白質性病変による慢性めまいは、これらの病変による脳幹小脳の平衡維持反射の制御破綻が生じていると考えられています。


慢性中枢性めまいの考え方
身体の平衡維持に関与するVORは脳幹反射であり、小脳により抑制的に制御されています。そして、この小脳による脳幹反射の抑制的制御は、大脳がより高次から制御されています。 脳幹や小脳の病変によるめまい慢性化には,脳幹反射の小脳からの脱抑制が関与します。また、大脳の病変によるめまい慢性化には、小脳による脳幹反射抑制機構の大脳による制御不全が関係しています。 慢性めまいの生理学的指標も全く異なり,脳幹や小脳の病変ではVOR利得が充進し、大脳病変ではVSVOR率が低下する(図7)。 高齢者では、末梢前庭の機能低下もしばしば伴います。慢性化した中枢性めまいの病態は、末梢前庭からの入力を基にした脳幹反射の機能、この脳幹反射を抑制的制御する小脳の機能、そして小脳の抑制的制御を調整する大脳の機能のそれぞれを考えるべきだと述べられています。

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2024/02/16

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頭痛といえば、片頭痛。
緊張型頭痛は片頭痛のようなもの、群発頭痛は片頭痛のようなもの、もちろん、その他の一次性頭痛も片頭痛のようなもの、ってかなり強引。
RCVSやRCICVSを考えた頃から、片頭痛はRCVSの軽症、RCVSは片頭痛の重症で、片頭痛もRCVSも同じものじゃないかと考えるようになりました。
頭の中では否定し、心の中では肯定していました。

そんな私が、頭痛とめまいの交差点について考えて行きます。
片頭痛とめまい、めまいと片頭痛、一緒にあっていいじゃない。

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頭痛とめまいの交差点
概念
頻度
原因
症状
検査
検査
検査
鑑別診断
治療
予後
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