MWCH


群発頭痛再考2023 -主に病態生理について-
2023/01/02

2023年お正月、コロナのクラスタ―発生。箱根駅伝をラジオで聞きながら、体調と相談しながら、地元の山(雷山、高祖山)を歩きました。
遠ざかっていた頭痛についてふと考えてみました。 考えた頭痛は、群発頭痛です。
群発頭痛と180度異なるものはRCICVS。
類似するのは片頭痛かな、片頭痛に近いのはRCVS、群発頭痛はRCVSに近いことになってしまいます。
そんなことはないね、群発頭痛はなんとなく中枢の中枢、RCVSは中枢の末梢で、正反対だとか、考えながら山を楽しく歩きました。
山ではとんでもないことを考えつきます。私の心臓はもう少しだけ大丈夫のようです。
頭痛山歩を離れていた間、病気になったり、リハビリの臨床認定医になったり、認知症の専門医になったり、それなりに楽しい時間を過ごしていました。
最近では、自分自身にも関係のあるストレスとか睡眠についてよく考えるようになりました。
どんなことを考えても、頭痛の問題に近づいてきます。

以前、群発頭痛の病態生理について、群発頭痛の不思議というタイトルで考えたことがあります。
そして群発頭痛での発汗メカニズムについて自説を述べたこともあります。 この説は、当初は気に入っていたのですが、恥ずかしくなったのですぐに消去しました。
群発頭痛の病態生理について、もう一度考えたいと思います。 どこまで辿りつけるかわかりませんが、2023年の目標にしたいと思います。さてさてどうなることやら。

尚、タイトルのMWCHは、Mysterious world of cluster headacheの略です。2014年に片頭痛の不思議な脳の世界を、Mysterious world of migraine brain(MWMB)と名付け、MWMBのコーナーを設けました。気に入っているので、これをもじりました。
背景は、早朝の燕岳から撮った晩秋の槍ヶ岳の写真です。


群発頭痛の病態を再考するための解剖図譜です
SCG:上頚神経節、TG:三叉神経節、PPG:翼口蓋神経節
GG:膝神経節、OG:耳神経節
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― 介入編 ―

総論
2014.02.02

総論として、二つの論文をとりあげます。二つの論文は、群発頭痛の病態生理と治療について述べてあり、病態生理について興味深い図が示されています。これらの図を紹介し、私なりに群発頭痛のシェーマを作っていきます。
出典文献を示します。

著者タイトル
1Wei DY, Goadsby PJCluster headache pathophysiology - insights from current and emerging treatments.Nat Rev Neurol. 2021 May;17:308-324
2Hoffmann J, May ADiagnosis, pathophysiology, and management of cluster headache.
Lancet Neurol. 2018 Jan;17(1):75-83

どちらの論文も、群発頭痛の病態生理を、①三叉神経血管路、②三叉神経自律神経反射、③視床下部の3つ挙げ、これらが相互に関係していると述べています。
二つの論文を一つにまとめ、ところどころに私の意見を追加します。
最大の問題は、群発頭痛の痛みの起源はどこという事です。

三叉神経血管路
三叉神経は偽単極性神経節を形成し、三叉神経節に細胞体を有します。三叉神経第1枝(眼神経)末梢では、C線維やAδ線維が豊富に存在し、硬膜血管や脳血管の神経支配を行っています。中枢では、三叉神経頚髄複合体(TCC)に到達します。
TCCは、三叉神経脊髄路核尾側亜核(TNC)と第1及び2頚髄後角から形成されています。TCCからは視床へ、視床から、感覚野や疼痛関連領域である前頭前野、島回、帯状回などに至ります。
Wei DYらは、軟膜、くも膜、硬膜血管への刺激(機械的、化学的、電気的)は、頭痛(headache pain)を引き起こし、上矢状洞付近への刺激は群発頭痛様の痛みを生じることを紹介しています。

三叉神経血管路
Wei DY, Goadsby PJらが報告した図です。
内容は、上記本文を参照してください。
視床から視床下部への経路も記載されています。
図には、TCCから視床下部への直接的な経路は示されていませんが、本文中には、三叉神経視床下部路の存在が明記されています。

シェーマを示します。
三叉神経末梢では、硬膜血管の関与が指摘されていることが多くあります。間中先生は2022年の頭痛学会の講演で、硬膜血管ばかりでなく頭蓋内血管や、硬膜外血管も関与すると示されていました。ここではその全てを図示してみました。Olesen先生も同じ意見のようです。

三叉神経血管路
三叉神経末梢の刺激は、三叉神経節、三叉神経頚髄複合体(TCC)へ。視床を経て脳皮質へ。

TCCからはPBNへの経路は重要なので、別の機会で考えます。


三叉神経自律神経反射
三叉神経終末が刺激されると、三叉神経自律神経反射が惹起されます。三叉神経終末からの刺激がTCCに伝わります。TCCから、上唾液核(SSN)へ、そこから翼口蓋神経節(PPG)にいたります。
ここで、シナプスを乗り換え、ここからの副交感神経節後線維は、涙腺、鼻腺、硬膜血管、脳血管、唾液腺などを神経支配し、流涙、眼球結膜充血、鼻汁、鼻閉などの自律神経症状を惹起します。さらに硬膜血管や脳血管の拡張がみられます。
三叉神経自律神経反射は、三叉神経血管路の賦活化に続発すると考えられています。三叉神経自律神経反射単独で群発頭痛の痛み発作を惹起するのは困難なようです。
群発頭痛において、三叉神経自律神経反射がなぜ惹起されるのかは不明です。可能性のひとつとして、中枢に原因を求める考え方があります。

三叉神経自律神経反射
Wei DY, Goadsby PJらが報告した図です。
緑色は上唾液核からの道筋です。涙腺や鼻腺だけではなく、硬膜血管や脳血管まで及んでいることが示されています。

シェーマを示します。

三叉神経自律神経反射
三叉神経末梢の刺激は、三叉神経節、三叉神経頚髄複合体(TCC)へ到達します。
そこから上唾液核(SSN)へ至り、翼口蓋神経節(PPG)から涙腺、鼻腺などに到達し自律神経症状(流涙、鼻汁、鼻閉など)を惹起します。

次のシェーマでは、上唾液核(SSN)から翼口蓋神経節(PPG)を経て硬膜血管への道筋を描いてみました。PPGからの副交感神経の道筋を考えると、三叉神経と重なる部分が多いですね、本当かなあ。硬膜の支配神経で別にあつかいます。

三叉神経自律神経反射
三叉神経末梢の刺激は、三叉神経節、三叉神経頚髄複合体(TCC)へ到達します。
そこから上唾液核(SSN)へ至り、翼口蓋神経節(PPG)から硬膜血管や脳血管へ到達し硬膜血管や脳血管の拡張が惹起されます。

視床下部
視床下部には、TCCから三叉神経視床下部路を経て上行性に信号が伝えられます。
逆に視床下部の傍脳室核(PVN)からは、下行性に上唾液核(SSN)に信号が伝わり、前述の副交感神経系を賦活化し、涙腺や鼻腺を刺激し自律神経症状(流涙や鼻汁・鼻閉など)が惹起されます。
Wei DYらは、視床下部から、直接的なTCCへの経路は示していません。

果たして視床下部からTCCの刺激がなく、痛みが生まれるのでしょうか?、上唾液核(SSN)から翼口蓋神経節(PPG)を経て副交感神経系が刺激され、硬膜血管や頭蓋内血管が拡張し、三叉神経系が賦活化され痛みが生じるのでしょうか。
SSNからTCCへの直接に刺激があるのでしょうか。
Hoffmann Jらは、視床下部から下行性のTCCへの経路を明確に記しています。

視床下部
Wei DY, Goadsby PJらの報告です

シェーマを示します。

視床下部
視床下部から、上唾液核(SSN)が賦活化されます。SSNから翼口蓋神経節(PPG)へ、三叉神経自律神経反射の経路を辿り、三叉神経頚髄複合体(TCC)に至ります。
シェーマでは、Hofmannらの図にある視床下部からTCCへの直接的な経路を追加しています。

視床下部から下行性のTCCへの経路について、尚、視床下部(PVN)からTCCへの経路については、Bursteinらや からの報告があり別に紹介します。


次にHoffmann Jらの図を示します。1枚の図で3項目全てを示しています。本文の内容は上述の通りです。

興味深いのは、三叉神経を切断しても、群発頭痛の発作は改善しなかったという論文が紹介されています。単純に考えると、痛みの原因が末梢に存在するのではないということ指摘しているのかもしれません。彼らの報告には、三叉神経脊髄路から視床下部への直接のルートは記載されていません。

群発頭痛の病態生理
Hoffmann J, May Aらの報告です。

以上より、視床下部を中心に考えると下行性に①三叉神経頚髄複合体(TCC)に行く経路と②上唾液核(SSN)に行く経路が考えられます。
①視床下部→三叉神経頚髄複合体(TCC)→上唾液核(SSN)→副交感神経→硬膜血管→三叉神経第1枝→三叉神経節(TG)→三叉神経頚髄複合体(TCC)→視床下部
②視床下部→上唾液核(SSN)→副交感神経→硬膜血管→三叉神経第1枝→三叉神経節(TG)→三叉神経頚髄複合体(TCC)→視床下部
群発頭痛は、いったい、どこから始まるのでしょうか。

総論のまとめとして、三叉神経血管路、三叉神経自律神経反射、視床下部をひとつにまとめてみます。

   

視床下部が、群発頭痛に関与しているという考え方の根拠には次のようなことが挙げられています。
1) 群発頭痛にサーカンディズムが影響している。
2) 群発頭痛に概年リズムをが影響している
3) PETやMRIで視床下部がの異常が認められている
4) 群発頭痛では神経内分泌の異常(メラトニン、オレキシン、ソマトスタチンなど)が関与していること
5) 群発頭痛に対してDBSが効果的であること
などです。

Wei DYらは、メラトニンについて次のように述べています。
視床下部の視交叉上核(SCN)は、光刺激を網膜から網膜視床下部路を介して受け取り、傍脳室核(PVN)に伝えます。
そこから脊髄のIMLに信号を伝え、上頚神経節を経て、節後交感神経は松果体を刺激しメラトニンが生成されます。
群発頭痛では血中や髄液中のメラトニン濃度は低下が報告されていますが、群発頭痛に対するメラトニン投与の治療効果はさまざまです。メラトニンについては別項で扱います。

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群発頭痛 視床下部・TCC仮説
2023/02/02

私なりの群発頭痛の仮説を述べたいと思います。
視床下部・三叉神経脊髄複合体(TCC)仮説です。
図に示します。すごくシンプルです。
視床下部に異常をきたし、三叉神経脊髄複合体を刺激して群発頭痛が生じるというのが、私が選んだ仮説です。
痛みはTCCで生じ、そしてTCCから自律神経症状が出現するという考えです。

視床下部が、三叉神経脊髄複合体を刺激して
群発頭痛が生じるという説です。

総論で述べたように、群発頭痛の病態仮説の現在の趨勢は、三叉神経血管路、三叉神経自律神経反射、視床下部の3つが関連して生じるということです。副交感神経の関与が重要とされています。
頭痛外来にみえる群発頭痛の患者さんは、頭がとても痛いといって、ネットで調べてみえることが大多数です。
頭痛の時に涙が出るとか、鼻汁がでるとかは、こちらから尋ねない限り、話すことは殆んどありません。つまり、訴えは頭痛なのです。

私が、視床下部・三叉神経脊髄複合体(TCC)仮説を選んだ理由を示します。

番号 内容
1 三叉神経を切断しても群発頭痛はよくならないことが報告されています。
三叉神経末梢の硬膜血管や脳血管で生じている刺激・痛みを伝える三叉神経を切断しても群発頭痛は治らない。つまり、痛みの原因は末梢に存在しないという事です。そんなに単純ではないかもしれません。
2 三叉神経脊髄複合体を刺激すると前額部の疼痛と自律神経症状が生じることが知られています。
3 視床下部から三叉神経脊髄複合体へルートが証明されています。
4 自律神経症状を全く伴わない群発頭痛が稀に存在することが知られています。
5 群発頭痛発作にみられる視床下部後域の異常がみられます。しかし、カプサイシンを前額部に塗布して、群発頭痛様の発作を生じさせた時のPET研究では、視床下部で異常は認められていません。
このことは、PETで認められる群発頭痛時の視床下部後域の異常は、末梢からの感覚の異常ではないことが示しています。つまり、視床下部後域の異常は群発頭痛の原因と考えられます。
6 群発頭痛の治療にDBSの効果が示されています。

私の結論をだしましたが、そう単純ではない筈です。
何故自律神経症状がでるのでしょうか。視床下部からTCCへの下行性の経路とは、逆にTCCから視床下部へ上行性の経路が存在します、つまりループを作っています。これをvertical loop(垂直ループ)と呼ぶことにします。

   

これに対応するのが、三叉神経自律神経反射です。これをhorizontal loop(水平ループ)として捉えます。

   

どうでしょう、この二つのループは見事にTCCで重なり合います。これが、視床下部・三叉神経脊髄複合体(TCC)仮説です。
図には、SSN、PPG、TGを加えました。peripheral effectorは、涙腺、鼻腺、硬膜血管などです。
TCCやSSNから視床下部への経路はフィードバックの可能性もあります。

   

もう少し、シンプルにしてみましょう。

   

視床下部からTCCへトップダウンの入力、そこから三叉神経自律神経への刺激が存在します。
Effectorの硬膜血管では、小さなループが存在します。この小さなループで痛みは激しくなります。

   

PPGからの副交感神経刺激(Ach VIP NO)、血管拡張(cranial vessels)、三叉神経逆行性・順行性の神経路や軸索反射など(CGRP関与)による激しい痛みへのspiral loopです。
痛みはTCCで生じ、TCCからSSN-PPGを経て、Effectorで自律神経症状が出現、さらに激しい痛みが生じるというspiral loopの考え方です。。

他にPBN、LC、PAG、Amy、Thなどの関与も考えられますが、ここではシンプルにここまでという事にします。

   

この図を用いて、私が視床下部・三叉神経脊髄複合体(TCC)仮説を選んだ理由の6項目を振り返りましょう。

続きは、作成中です。

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ホルネル様症状
2023/01/02

群発頭痛は、頭痛と副交感神経症状が主な症状です。
診断基準には、これらと別の症状が併記されています。
ホルネル様症状、発汗、落ち着きのなさなどです。
ここでは、ホルネル様症状について考えてみます。
最初にホルネル症候群について触れ、次に群発頭痛におけるホルネル様症状について考えます。

ホルネル症候群について
ホルネル症候群は次の4つの症状が挙げられています。昔、学生時代に覚えました。
① 縮瞳
② 眼瞼下垂
③ 無汗症
④ 眼球陥凹
です。

原因は、交感神経系の障害によって生じます。
ホルネル症候群をきたす交感神経系の障害きたす部位をみてみましょう。
一次ニューロンは、視床下部から、脊髄(Th1、Th2)の中間外側核(IML)までです。
二次ニューロンは、IMLから上頚神経節(SCG)までです。
三次ニューロンは、SCGから効果器(瞳孔散大筋、上・下眼瞼筋(ミューラー筋)、汗腺、血管)までです。
臨床の場で最も多くみるのは、延髄外側の梗塞、いわゆるワレンベルク症候群です、次に星状神経節ブロック、そして、内頚動脈の塞栓症・血栓症や内頚動脈解離などです。
延髄の梗塞は一次ニューロンの障害、星状神経節ブロックは二次ニューロンの障害、内頚動脈塞栓症・血栓症や内頚動脈解離は、内頚動脈神経叢、即ち三次ニューロンの障害ということになります。

   

もう少し、解剖をみていきましょう。
交感神経系の中枢は、視床下部のどこでしょう。いわゆる中枢性自律神経系(CAN)になります。視床下部のどこでしょうか。PVNとされています。
PVNから脳幹を下降し、脊髄(Th1、Th2)の中間外側核(IML)に到達します。
IMLの脊髄レベルは、Th1、Th2レベルが中心ですが、C8 やTh3まで入れるテキストもあるようです。
瞳孔散大筋に行く線維と汗腺や上・下眼瞼筋(ミューラー筋)に行く線維とは、脊髄レベルが異なるそうです。
Th1レベルからは瞳孔散大筋へ、Th2レベルからは前額部の汗腺、上・下眼瞼筋(ミューラー筋)へ到達します。脊髄のレベル診断や神経根のレベル診断が可能だということになります。
上頚神経節から内頚動脈や外頚動脈に行く線維は異なっており、上頚神経節のなかで神経の局在があるそうです。
上頚神経節から内頚動脈神経叢は上行します。内頚動脈神経叢は頭蓋内に入って、頭蓋内動脈を支配します。いわゆるextrinsic innevationです。

群発頭痛に関係しそうな上頚神経節からの交感神経系を4つ示します。
① 三叉神経第一枝に沿って、上眼窩裂を通過し、長毛様神経となり、毛様神経節を通過し瞳孔散大筋に到達します。
② さらに内頚動脈を上行し、眼動脈に沿って眼窩内に入り、上・下眼瞼筋(ミューラー筋)を神経支配します。前額部内側の汗腺などを支配します。
③ その他に、深錐体神経を経て翼口蓋神経節へのびる交感神経も存在します。
④ 上頚神経節から外頚動脈に分布する交感神経は、外頚動脈に沿って、前額部内側以外の顔面・頭部の汗腺を支配します。

   
群発頭痛に関係するSCGからの交感神経系
①上眼窩裂から瞳孔散大筋へ、
②眼動脈にそって、ミューラー筋へ、
③深錐体神経、
④外頸動脈神経叢へ

群発頭痛におけるホルネル様症状について
群発頭痛では①縮瞳と②眼瞼下垂が診断基準に挙げられています。
どのレベルで、交感神経は障害されているのでしょうか。
点眼薬に対する反応から群発頭痛における交感神経系の障害部位は第3次ニューロンとされています。多くの論文では、海綿静脈洞や錐体部の頚動脈管で、内頚動脈が拡張し、内頚動脈神経叢が引き延ばされたり、圧迫されたり、交感神経障害が生じると考えられています。本当にそうでしょうか。
各々の論文を読みたかったのですが、本文をfreeで読めるものはほとんどありません。ネットではabstractを読めるくらいです

   
SCG以降の3次ニューロンの障害と考えられていますが、
本当にそうでしょうか。

   
水平ループと垂直ループで描いてみました

参考文献を示します。

著者タイトル
1原 直人ホルネル症候群: up date. Brain Medical.2012 24:167-173
2Drummond PDMechanisms of normal and abnormal facial flushing and sweating
Crinical Autonomic Disorders,2nd ed.,edited by P.A.Low 1997.p715-726

つづく

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群発頭痛における発汗
2012年、副交感神経迷入・交感神経乗っ取り説(すぐに取消)から
2023年、発汗も副交感刺激症状だった説へ
2023/02/16

群発頭痛における病態、今回は発汗についてです。
現在(2023年)の考えについて述べる前に、約10年前(2012年)に考えたことについて述べます。
本HPで【群発頭痛の不思議③】として、群発頭痛では、発汗(交感神経の機能亢進症状)がどうして出現するのか、というテーマをとりあげたことがありました(内容がpoorだったので、多分2週間くらいで取り消しました)。 その頃の記載をふりかえってみましょう。


2012年9月の記載です。
群発頭痛の症状は、一側の眼窩付近の激しい頭痛が1-2時間出現し、これは1-2ヵ月の間ほぼ毎日続きます。痛みの他に①眼球結膜の充血、流涙、②鼻閉、鼻漏、③縮瞳、眼瞼下垂、④発汗などの随伴症状があります。
①眼球結膜の充血、流涙、②鼻閉、鼻漏は副交感神経の機能亢進症状、③縮瞳、眼瞼下垂は交感神経の機能低下症状と考えられています。
④発汗は交感神経の機能亢進症状と考えられています。
群発頭痛の自律神経症状は、副交感神経症状が主体です。副交感神経症状のひとつとして、内頚動脈が拡張し、周囲の交感神経を圧迫し交感神経機能低下症状をきたすという考えがあります。
では、どうして交感神経の機能亢進症状である発汗は起きるのでしょうか。

群発頭痛では痛みが激しい為、その他の症状を詳しく話してくださる患者様はあまりおられません。
こちらから尋ねると自律神経症状についても話をしてくださいます。しかし、発汗についての訴えは少ないようです。
ある日、群発頭痛発作時に頭や首などから発汗が凄くて枕やベッドのシーツが濡れてしまうほどと訴えられる群発頭痛の患者様が受診されました。
交感神経が機能低下するのに発汗するのは何故?という疑問がまた浮かび上がってきました。
答えをみつけることができません、周りに尋ねる人もいません。いろいろな本を読んでもピンとくる答えはありません。

2012年7月の猛暑日に、郭公の鳴き声を聞きながら、いつもの裏烏帽子(当時住んでいた佐世保)の縦走中に急坂を登っていると、前額部から汗が吹き出し、頬などの顔面から、上半身、背中、大腿の裏も汗でびっしょりです。
いつものように、登山中の思考が始まりました。発汗は交感神経の機能亢進症状で・・・、と考え始めました。交感神経は、第8頚髄及び第1-2胸髄の側角から節前ニューロンがでて、上頚神経節に至り、ここから、節後ニューロンとなり上行します。
総頸動脈は、内頚動脈と外頚動脈に分かれ、内頚動脈周囲に存在する交感神経は前額部内側の汗腺を支配します。外頚動脈周囲に存在する交感神経は、前額部以外の頬や顔面・頭部の汗腺を支配します。

私の前額部の滴り落ちる汗は、内頚動脈周囲の交感神経系が頑張っているのだなあと考えていると、ふっと変な考えが浮かびました。
末梢神経系では、いろいろな神経の交通が知られています。たとえば、前腕で正中神経から尺骨神経に入る交通枝が知られています。そんなイメージを持ち込んでみました。
私が考えたのは、副交感神経が途中から交感神経に迷入しているとしたら?という、副交感神経迷入・交感神経乗っ取り説です。
もし副交感神経が迷入していても、汗腺は交感神経絶対優位ですから、特に問題は生じないと思います。しかし、群発頭痛では交感神経が機能低下の状態となります。副交感神経興奮のインパルスが、空虚となった交感神経を乗っ取り、効果器(汗腺)を刺激し、発汗するのではないか、などと考えているうちに思考は止まってしまいました。
以上が2012年9月の群発頭痛の不思議③の記載分です。

通常の発汗。SCGからの交感神経節後ニューロンからAch分泌され発汗する。
副交感神経迷入・交感神経乗っ取り説

当時は、とても気に入っていたのですが、すぐに嫌になり本HPから取消ました。
副交感神経迷入・交感神経乗っ取り説では、前額部の発汗は説明できるのですが、頭部全体や頚部の発汗は説明できません。
あれから約10年たちますが、今では、次のように考えています。
とてもシンプルです。発汗も副交感刺激症状だった説です。
一般的には、さまざまな臓器では、自律神経系は交感神経系と副交感神経系の二重コントロールといわれています。
しかし、ほとんどの教科書には汗腺は交感神経(のみ)によりコントロールされています。但し、顔面の汗腺について述べた教科書はまずありません。論文レベルになります。
そこでの記載もさまざまですが、一般的に前額部内側の汗腺は内頚動脈周囲の交感神経支配、その他の部位は外頸動脈周囲の交感神経支配とされます。

群発頭痛発作時には、前額部内側の汗腺を支配している内頚動脈周囲の交感神経は抑制されています。
群発頭痛の自律神経症状は、一般的に三叉神経自律神経反射(水平ループ)による副交感神経症状、それに伴う交感神経機能低下と捉えられています。
大切なのは、汗腺への交感神経系のニューロトランスミッターも副交感神経系のニューロトランスミッターもアセチルコリン(Ach)で同じだという事です。
交感神経系が抑制されます。汗腺に到達しているわずかな副交感神経系のみです。三叉神経自律神経反射により副交感神経系が異常興奮をきたします。副交感神経からAchをリリースされ、発汗するというすごく単純な考えです。
発汗も副交感神経興奮症状ではないでしょうか。

発汗も副交感刺激症状だった説

では、頭全体や頚部からも発汗をきたした群発頭痛の患者さんはどう考えるといいのでしょう。
群発頭痛では、交感神経系の抑制されている前額部内側では、交感神経系は空虚になっており、副交感神経系の刺激により発汗します。
しかし、前額部内側以外の頭部や頚部では、外頚動脈周囲の交感神経系のントロールが優先され、発汗に異常はみられません。多くの群発頭痛の患者では、前額部内側のみの発汗になるのだと思います。
ただし、交感神経系のコントロールを上回るような副交感神経の異常刺激では、前額部以外の顔面・頭部の発汗が生じることがあるのではないでしょうか。 という結論です。

汗腺は、飽くまで交感神経のみの支配だとする意見もあるかもしれません。その場合には汗腺近傍の皮膚血管(これも交感神経支配優位)に対する副交感神経異常刺激という事でよいと思います。


前額部内側の汗腺へ
交感神経系
PVN→IML→SCG→汗腺
強引に副交感神経系の汗腺へのルートを描いてみました。
SSN→PPG→汗腺

発汗も副交感刺激症状だった説
交感神経3次ニューロンは障害を受け、
三叉神経自律神経反射により副交感神経が賦活。発汗。
三叉神経系は描いていません。

発汗も副交感刺激症状だった説
視床下部から、TCCへ。TCCからSSNへ。SSNからPPGへ。PPGから効果器へ。dural vessel拡張。発汗。
三叉神経系は描き加えましたが、交感神経系は描いていません。

   
水平ループと垂直ループに辿りつきました。

もうひとつの疑問は、単純に三叉神経自律神経反射のみ考えていいのでしょうか。
視床下部による上唾液核のコントロールを考えておく必要があります。


以上、面白い仮説に辿りつきました。
と思っていたら、残念ながら、同じような考えは何十年も前にDrummond先生の発表があったようでした。
大発見と思ったのに残念。

Drummond先生は、30年以上前にたくさんの論文を発表されていました。
この図をみると汗腺は交感神経のみの支配のようです。迷入はないけれど、乗っ取り説のようですね。
著者タイトル
1Drummond PDMechanisms of normal and abnormal facial flushing and sweating
Crinical Autonomic Disorders,2nd ed.,edited by P.A.Low 1997.p715-726
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― メラトニン編 ―

群発頭痛は、1日に1度、夜(眠ってから)、年に1度から2度、季節の変わりめ、男性(5:1)に多い、好発年齢は20歳から40歳(60歳頃には消失)などの特徴があります。これらの事から、群発頭痛の病態生理に視床下部の関与が考えられています。

群発頭痛は睡眠中に起こりやすいのであれば、睡眠の機序を知ったほうがいいと思います。
ほんのちょっとだけ、睡眠の世界へ入ってみます。
睡眠と覚醒は、シーソーゲームです。
睡眠中枢と覚醒中枢がお互いを抑制します。

睡眠中枢と覚醒中枢のシーソ-

睡眠中枢は、VLPO(腹側外側視索前野)でニューロトランスミッターはGABAです。
覚醒中枢は、TMN(結節乳頭体核)(ヒスタミン:HT)、LC(青斑核)(ノルアドレナリン:NA)、Rache(縫線核)(セロトニン:5HT)です。
こんな感じになります。

覚醒睡眠

睡眠中枢のスイッチを押すのは、アデノシンなどが考えられています。
覚醒を推し進めるOrexinオレキシンです。存在部位はLHA(視床下部後部外側)です。
レム睡眠に関係するのはMCH(メラニン凝集ホルモン)(視床下部後部外側)です。また、PPT(脚橋被蓋核)(Ach)、LDT(外側被蓋核)(Ach)、PBN(結合腕傍核)、SLD(下背外側被蓋核)が、レム睡眠onに関与しています。レム睡眠offには、DpMe(中脳深部核背側部)、vlPAG(中脳水道周囲灰白質腹外側部)が関与しています。

覚醒:オレキシンの役割睡眠

メラトニンはまだ登場していません。

サーカディアンリズムとは、circ(おおよそ)、dies(日)から由来しています。
サーカディアンリズムは約24時間周期の概日リズムを示し、その中枢は、視交叉上核(SCN)です。SCNは、shell(背内側部)とcore(腹外側)から構成されます。SCNのshellでは、時計遺伝子による24時間周期の自律的なリズムが生み出されます。正確には24時間ではなく、少し延びていて25hr周期を刻みます。
SCNのcoreには、網膜から、光情報を受けて、外の環境の24hr周期に同調しますす。
光刺激を、網膜の光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive retinal ganglion cell: ipRGC)が受け取り、網膜視床下部路を介し、視床下部の視交叉上核(SCN)に入力します。
SCNからPVNへ、PVNから脊髄のIMLへ、IMLからSCGを松果体へ、随分遠回りをして信号が伝えられていきます。松果体ではメラトニンが産生され、夜にピークがみられます。メラトニンが24hrへの同調に重要な役割を果たしています。
どうして眠るのか、どうして起きるのか、レム睡眠は何のためにあるのか、全くわかっていません。

覚醒と睡眠:光刺激が松果体に到達する経路:メラトニン

睡眠についてはこれくらいで切り上げたいと思います。

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― ちょっとだけ解剖編 ―

外頸動脈&硬膜の神経支配
2023/03/02

外頸動脈周囲の神経叢は、前額部内側以外の頭部、顔面の汗腺の交感神経支配をしています。
外頸動脈の枝、外から見えるのは、浅側頭動脈(STA)です。
マイケルジョーダンがSTAを怒張させ、汗を吹き飛ばしながら、ジャンプ、滑空し豪快なslam dunkを決めていたのが思い出されます。あとは後頭動脈くらいでしょうか。
では、表面の外頸動脈を示します。

表面の外頸動脈

外頚動脈の神経叢をイメージして、黄色にしてみました。

外頸動脈の神経叢をイメージしました。顔中が交感神経系で埋め尽くされます。

次にSTAをカットし反転させ、開頭してみます。
中硬膜動脈が認められます。

中硬膜動脈です

顔面の三叉神経支配の領域はよく知られています。
では、硬膜の支配神経はどうでしょうか。
あまり、記載はありません。
幸い、Sobottaの解剖テキストに記載がありました。
みてみましょう。

唯一、探し出せた硬膜の神経支配です。

中硬膜動脈に沿った三叉神経第二枝、第三枝領域が側頭・頭頂など大部分をしめます。
前頭部の硬膜は、内頚動脈から多くを還流されるようです。
内頚動脈から眼動脈が分岐し、眼動脈から前篩骨動脈・後篩骨動脈が分岐します。
前篩骨動脈・後篩骨動脈が、頭蓋内に入り、前頭蓋窩から前頭部、そして、大脳鎌へ分岐します。
前頭蓋窩は、痛覚に過敏な部位として知られています。そしてこの領域からの痛みは、眼周囲・前頭部に放散することが知られています。
前硬膜動脈刺激では眼窩部に痛みが生じるそうです。
上矢上洞の痛みも、眼周囲・前頭部に放散することが知られています。

頭蓋底の硬膜動脈を示します。赤は内頚動脈の眼動脈から。オレンジは中硬膜動脈、黄色は内頚動脈ILT、紫は椎骨動脈から、水色は後頭動脈、緑はAPAです。
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2023/01/02

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