繰り返す頚部内頚動脈血管攣縮症候群 Recurrent Cervical Internal Carotid Artery Vasospasm Syndrome RCICVS |
RCICVS |
起: 20症例のまとめ |
簡易版 | RCICVS 名称について 参考にした出典文献 |
承: 考察 |
転: RCICVSに含めなかった類似疾患 |
結: RCICVSのまとめ |
2022脳卒中学会発表スライド |
繰り返す頚部内頚動脈血管攣縮症候群のコーナーを設けます。
世界で、報告は数十例ですが、実際にはもっと多いと思います。
私も、1例を経験しています。
これまでRCVSについてコーナーを設けていました。
RCVSは頭蓋内の血管攣縮ですが、頚部内頚動脈血管攣縮は文字通り、頚部の内頚動脈の血管攣縮です。
RCVSには、冠動脈や腎動脈、外頚動脈分枝にも血管攣縮を併発することが報告されています。頚部内頚動脈血管攣縮を避けて通るわけにはいきません。
私の知る限り、RCVSと頚部内頚動脈血管攣縮の併発は、現在のところ、報告されていないようです。今後、報告される可能性は考えられます。
興味深いことに、RCVSと頚部の内頚動脈の解離は多数報告されています。
ちょっとした胸苦しさを感じますが、どうでしょう。
私は、RCVS、頚部内頚動脈血管攣縮、頚部の内頚動脈の解離のすべての症例を別々に経験しました。3疾患をすべて経験した医者は少ないのかもしれません。
以前、RCVSの論文を片っ端から読んでいましたが、一寸違う論文も遭遇しました。
それが、繰り返す頚部の内頚動脈攣縮についてでした。その頃に、偶然その症例を経験しました。
その当時(2012年頃)、本HPで頚部内頚動脈血管攣縮について、簡単にふれました。その頃は、渉猟しえた範囲では、世界で報告された症例数も10例に届いていませんでした。
現在は報告例は増えてきています。残念ながら、case reportばかりです。
これらのcase reportを参考に、繰り返す頚部内頚動脈血管攣縮を少しでも解明していくために、新たなコーナーを作りたいと思います。
各々の論文を参照させていただきます。出典は下記に明記致します。
migrainous spasm(片頭痛に伴う血管攣縮)と明記されているもの、薬剤性の血管攣縮、コカインやマリファナなどによる血管攣縮は別個に扱います。
2012年に、一度、本疾患に触れました。その時に作成したものに手を加え、簡易版を示します。
恐らく、同じ疾患を報告しているであろうに、異なる名称で報告されており、大変、困った状況に陥っています。
統一された疾患名、診断基準が必要です。
現在までに、どの様な名称で報告されているでしょうか。報告例(抄録のみ、会議録のみは原則、省きます)をみてみましょう。古い順に並べます。
また、migrainous spasm(片頭痛に伴うスパスム)、薬剤性の血管攣縮、マリファナなどによる血管攣縮は別に扱います。
著者 | タイトル | |
1 | Arning C | Cervical carotid artery vasospasms causing cerebral ischemia Detection by immediate vascular ultrasonographic investigation. Stroke 1998; 29: 1063-1066 |
2 | 葛本佳正 | 喫煙が誘因と考えられた血管攣縮性脳梗塞の1例. 脳神経 2005; 57: 33-36 |
3 | Janzarik WG | Recurrent extracranial carotid artery vasospasms Report of 2cases. Stroke 2006; 37: 2170-2173 |
4 | Yokoyama H | Internal carotid artery vasospasm syndrome: demostration by neuroimaging. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2006; 77: 888-892 |
5 | Mosso M | Recurrent spontaneous vasospasm of cervical carotid, ophthalmic and retinal arteries causing repeated retinal infarcts: a case report. Cerebrovasc Dis 2007; 24: 381-384 |
6 | Yoshimoto H | Idiopathic carotid and coronary vasospasm: a new syndrome? J Neuroimaging 2011; 21: 273-276 |
7 | 林紀子 | 繰り返す両側内頚動脈血管攣縮に狭心症を伴った1例. Niche Neuro-Angiology Conference 2011 |
ここまでが、私が2011年に1症例を経験した時に検索し渉猟しえた分です。次からはそれ以降、2019年6月までのものになります。
著者 | タイトル | |
8 | Dembo T | Recurring extracranial internal carotid artery vasospasm detecting by intravascular ultrasound. Internal Med 2012; 51:1249-1253 |
9 | Moeller S | Extracranial internal carotid artery vasospasm due to sympathetic dysfunction. Neurology 2012; 78: 1892-1894 |
10 | 藤本道夫 | 特発性頚部内頚動脈血管攣縮に対する頚動脈ステント留置術の有用性. JNET 2013; 7: 24-31 |
11 | Wopking S | Recurrent Strokes due to transient vasospasms of extracranial internal carotid artery. Case Rep Neurol 2013; 5: 143-148 |
12 | Huisa BN | Spntaneous cervical internal carotid artery vasospasm. kokosiraberu Neurology:Clinical Practice 2014; ?: 461464 |
13 | Shimoda Y | Recurrent extracranial internal carotid artery vasospasm diagnosed by serial magnetic resonance angiography and superselective tranarterial injection of a calcium channel blockers. J Stroke Cerebrovas Dis 2014: 23: e383-3874 |
14 | Yoshimoto H | Idiopathic carotid and coronary vasospasm: a case treated by carotid artery stenting. Surg Neurol Int 2014; 5: S461-S464 |
15 | 笠原知樹 | 冠動脈攣縮にて加療中に一側頭蓋外内頚動脈血管攣縮発症した1例. 日本内科学会雑誌 2014; 103: 1177-1179 |
16 | Takeuchi M | Successful corticosteroid treatment of refractory spontaneous vasoconstriction of extracranial internal carotid and coronary arteries. The Neurologist 2016; 21: 55-57 |
17 | Takehira K | Treatment idiopathic recurrent internal carotid artery vasospasms with bilateral carotid artery stenting; a case report. Journal of neuroendovascular therapy 2017; 11: 246 |
18 | 舟生勇人 | 頭痛と片麻痺を繰り返す頚部内頚動脈攣縮の若年女性. 日本頭痛学会誌 2019;45: 530-535 |
上記の他にもpubmedにかからない多くの論文が報告されています。
論文の内容については、後で扱います。ここでは名称を考えます。次のような問題があります。
①特発性、idiopathic、spontaneous
②繰り返す、reflactory、recurrent、repeated
③部位の問題、extracranial、cervical
④coronary arteryの問題
①特発性、idiopathic、spontaneousなど表現について:
外傷性や薬剤誘発に対して、原因不明とうたいたいところだと思います。しかし、誘因に煙草をあげた論文もあります。そうすると、安易に特発性とはできません。ここでは、特発性という含みは残しながら、省きます。
繰り返しになりますが、現時点では、migrainous spasm(片頭痛に伴うスパスム)、薬剤性の血管攣縮、コカインやマリファナなどによる血管攣縮は別に扱います。
②繰り返す、reflactory、recurrent、repeatedなどの表現について:
繰り返す事は大変重要な点です。解離との鑑別に、診断に結びつく大切なヒントになります。
発作が一度のみのこともあるかもしれません。初回治療で正しいかどうかわかりませんがステント治療などを行なった場合、繰り返さないのかもしれません。
③部位の問題、extracranial、cervicalの表現について:extracranial、cervicalはいずれも甲乙つけがたく残したいところです。頭蓋外(extarcranial)で純粋に頚部(cervical)といえないcaseもあるのかもしれません。医学的ではありませんが、親しみやすさから頚部(cervical)とします。
④coronary arteryの問題について:coronary arteryのvasospasmは、併発することがあり、本疾患の特徴のひとつとして捉え、疾患名からのぞきます。
疾患名は、繰り返す頚部内頚動脈血管攣縮症候群
Recurrent Cervical Internal Carotid Artery Vasospasm Syndrome
略称はRCICVSとします。
略称はあまり長すぎるのは良くないと考え6文字としました。
RCVSに何かしら似たイメージにしたいと思いました。
名称や略称がひとまず決まったところで、特徴をみていきましょう。
上記18論文の19症例に私の経験した症例を加え、20症例で特徴を考えていきます。
起: 20症例のまとめ |
論文に報告された年齢は、24歳から55歳(平均年齢36.6歳)です。初発年齢は、12歳から48歳(平均年齢31.4歳)です。
性比は7:13で、女性(65%)に多く認められます。
初発年齢は、論文を読み、脳虚血症状や眼症状の出現時期としました。冠動脈スパスムの発症年齢は、初発年齢にはしませんでした。
もう少し、論文に報告された年齢と初発年齢をみてみましょう。
年齢をみてみるとあまり特徴がなく、若年から中年の疾患にみえます。
しかし、初発年齢をみると、20代と40代に2峰性のピークがあり、しかも20代に大きなピークがあることがわかります。
次に男女別の初発年齢を示します。
初発年齢は、男女とも20代にピークがあり、女性は40代にも小さなピークがあるようです。
各論文のデータを示します。
著者 | 年齢 | 性 | 初発年齢 | 診断がつくまで(年) | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 32 | 0 |
2 | 葛本佳正 | 31 | 男性 | 26 | 5 |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 30 | 0 |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 48 | 0 |
5 | Yokoyama H | 35 | 男性 | 20 | 15 |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 45 | 0 |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 39 | 女性 | 36 | 3 |
8 | 林紀子 | 35 | 女性 | 28 | 7 |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 24 | 0 |
10 | Moeller S | 25 | 男性 | 12 | 13 |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 47 | 0 |
12 | Wopking S | 34 | 女性 | 24 | 10 |
13 | Huisa BN | 55 | 女性 | 25 | 30 |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 25 | 0 |
15 | Yoshimoto H | 40 | 女性 | 29 | 11 |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 42 | 0 |
17 | Takeuchi M | 25 | 男性 | 23 | 2 |
18 | Takehira K | 40 | 男性 | 29 | 11 |
19 | 舟生勇人 | 33 | 女性 | 23 | 10 |
20 | 川口務 | 35 | 男性 | 25 | 10 |
備考:舟生先生の論文によると、症例7は、同一症例をYoshimoto先生から病態を、藤本先生から治療について報告されたようです。
RCICVSの特徴をみていきますが、各論文の論点が異なるので、一筋縄ではいきません。
論文では、字数制限等もあります。例えば、治療に論点を置いた論文では、症状や病態などの記載が少なくなるのは止むをえません。
今回の年齢に着目してみると、初発年齢から診断がつくまでに平均6.4年(0-30年間)かかり、10年以上かかったのが8症例あります。
診断が遅れる理由に、①本疾患の認知度が低い、②血管攣縮の時間が短いので検査をしてもわからないことが多い、③鑑別診断に内頚動脈解離があり、本診断に辿りつかないことも考えられる等が挙げられます。
今後、椎骨動脈解離などに有用なBPASのような、外径を容易に明瞭に表すことが検査方法の開発が望まれます。
この疾患は、spasmを繰り返すという特徴があります。驚くべきことに全例で繰り返すという特徴が報告されています。
回数は、5回以上が、16例です。5回が1例、3回が2例、2回が1例です。
5回以上と区切ったのには特別な理由はありません。はじめは、回数が多いという印象をもつため5回以上としました。
しかし、ステント治療により5回という症例が1例あります。
5回未満の3症例の内訳は、ステント留置により攣縮が起きなくなったものが1例、血管内治療後のフォローアップ期間が短いもの?が1例、脳神経関連の論文ではないので経過が十分に追えていないかもしれないものが1例です。
本疾患は、何回も繰り返すという特徴が挙げられます。
20例全てで繰り返すという特徴がみられました |
著者 | 年齢 | 性 | 初発 年齢 | 繰り返す | 回数 | 表現など | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 32 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
2 | 葛本佳正 | 31 | 男性 | 26 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 30 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 48 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
5 | Yokoyama H | 35 | 男性 | 20 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 45 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 39 | 女性 | 36 | 繰り返す | 5回以上 | ステント治療 |
8 | 林紀子 | 35 | 女性 | 28 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 24 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
10 | Moeller S | 25 | 男性 | 12 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 47 | 繰り返す | 3回 | ステント治療 |
12 | Wopking S | 34 | 女性 | 24 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
13 | Huisa BN | 55 | 女性 | 25 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 25 | 繰り返す | 3回 | 画像の変化が3回。 nicardipine 1mg動注、 効果あり |
15 | Yoshimoto H | 40 | 女性 | 29 | 繰り返す | 5回 | 5回、ステント治療 |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 42 | 繰り返す | 2回? | 備考 |
17 | Takeuchi M | 25 | 男性 | 23 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
18 | Takehira K | 40 | 男性 | 29 | 繰り返す | 5回以上 | ステント治療 |
19 | 舟生勇人 | 33 | 女性 | 23 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
20 | 川口務 | 35 | 男性 | 25 | 繰り返す | 5回以上 | 備考 |
何回も繰り返すという特徴があると、今度は、1回の時間は?、インターバルは?、繰り返す期間は?などの疑問が湧きます。これらについては後述します。
発症してから、診断がつくまで前述のように長い年月がかかっている場合も多くあります。
このような状況で、初発症状を考えるのも無謀かもしれません。以前の事を詳しく覚えていない方もいらっしゃるでしょうし、あまり思い出したくない方もいらっしゃるでしょう。
論文の記載を注意して考えみましょう。
脳虚血症状、網膜虚血症状、頭痛、その他に分けて考えます。
著者 | 初発 年齢 | 性 | 脳虚血 | 網膜虚血 | 頭痛 | その他 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | rt hemiparesis, rt sensory impairment | acute visual impairment with light flashes and dark spots in the left eye | followed by bilateral forehead pain | |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 一過性左片麻痺 | 右眼 一過性黒内障 | 記載なし | |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | mild lt brachiofacial hemiparesis | 記載なし | 記載なし | psychomotor retardation |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | lack of motivation, depressive mood, memory difficulties |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | rt hemiparesis | lt visual blurring | なし | |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 記載なし | acute monocular blindness | 記載なし | |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | なし | amaurosis fugax of the left eye | なし | |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 記載なし | 右眼の見えにくさ | 記載あやふや | |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 記載なし | transient rt visual blurring | なし | |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | lt hemiparesis | transient rt amaurosis | 記載なし | |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 構音障害 左顔面の軽度麻痺 | 記載なし | 記載なし | |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | lt brachiofacial hemiparesis | 記載なし | 記載なし | |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | unilateral right or left numbness and tingling | 記載なし | 記載なし | |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | transient dysarthria, lt hemiparesis | 記載なし | headache | |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | global aphasia, rt hemiparesis | 記載なし | 記載なし | |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 子供を落とす 右片麻痺か | 記載なし | 記載なし | 冠攣縮性 狭心症 41歳 |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | rt hemiparesis, aphasia | 記載なし | 記載なし | acute anterior myocardial infarction 19歳 |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | tremble of the rt hand and leg | vision of the lt eye reduced | 記載なし | |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | なし | 左霧視 左眼球の圧迫感 | 左頭部拍動性頭痛 | |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 一側の麻痺 失語症 | なし | 頭痛 |
初発症状は、脳虚血症状が14例(70%)、眼症状10例(50%)、頭痛4例(20%)となります。
但し、症状の有無の記載がないものを単純に症状なしとしてよいか疑問が残ります。
注目すべきは、頚部内頚動脈血管攣縮の初発症状は、必ずしも脳虚血症状ではないという点です。
網膜の虚血症状のみで発症することも多いようです。
初発症状で、頭痛に関する記載は少ないのは、本疾患において頭痛が若干、軽視されているのかもしれません。
精神症状のみで発症したものが1例あります。
頚部内頚動脈血管攣縮による症状出現以前に心筋の虚血の既往があるものが2例(10%)あります。
頚部内頚動脈血管攣縮の程度は、occlusionからsevere stenosisまで様々です。
初発症状で、脳虚血症状が認められなかったのは、初発時は若年者で、急激な血行動態に対しても対側や椎骨脳底動脈、leptomeningeal anastomosis、外頚動脈からの側副血行が対応しやすいということでしょうか。
全経過において、4大症候(脳虚血症状、網膜虚血症状、頭痛、coronary artery spasm(CAS))の出現頻度を示します
脳虚血症状の有無 | 網膜虚血症状の有無 |
頭痛の有無 | CASの有無 |
次に、初発症状以降、症状の変化をみてみましょう。
明らかに症状の増悪がみられたものは、8例(40%)に登ります。
症状の増悪については、はっきりと記載があるものが有、ないものが無、記載が不明瞭なものは記載無としました。
本HP管理人が悪化としたのは、運動麻痺を伴うようになった場合などに悪化と判断しました。
著者 | 初発 年齢 | 性 | 初発症状以降の全体的な変化 | 増悪の 有無 | 増悪についての記載など | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 5週間後に構音障害、13か月後に増悪。 精神症状も伴うようになった。 | 有 | more strongly pronounced than earlier episodes |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 11ケ月後、TIA(左片麻痺)と右視力低下が頻発。その後も左上下肢の麻痺と右視力低下を繰り返す | 記載 なし | |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 初発症状は左片麻痺であったが、2年後に右片麻痺と左眼の一過性視機能障害が出現、治療後も発作頻度は減らなかった。 | 記載 なし | |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 初回発作、migrainous headacheの後、血管攣縮を認め、50日間で5回の出現を認めた。治療により頻度は月に1度程度に減った。 | 記載 なし | |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 一側の麻痺を繰り返していた(つまり、右やら左やらということらしい)。治療によっても頻度変わらず。 | 記載 なし | |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 30ヶ月後と42ヶ月後にlt monocular blindnessを再発。但し、70ヶ月の経過観察中に無症候性の閉塞(5回)、狭窄(23回)を捉えている。 | 記載 なし | |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 2-3年にわたり月に1度程度、左の一過性黒内障があり、その後、右片麻痺が出現。その後、右片麻痺と一過性黒内障が出現。 | 有 | 悪化と明記はされていない。最初の数年間は目の症状のみであった。 その後に脳の症状を伴うようになった。 当方で症状の増悪と判断。 |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 月に1回程度の右眼の見えにくさに加え、頭痛を伴うこともあった。7年後、左半身の麻痺が出現。 | 有 | 悪化と明記はされていない。最初の7年間は目の症状と拍動性頭痛であった。 その後に脳の症状を伴った。 当方で症状の増悪と判断。 |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 初発は右眼の症状であったが、2か月後には頭痛を伴うようになり、左半身の感覚障害、麻痺を伴い、14ヶ症状月後には症状が悪化した。 | 有 | His symptoms were more stongly pronouced tha earlier episode and the symptoms did not improved |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 症状は、transient rt amaurosis and lt hemiparesis。これを12歳から繰り返した。 | 記載 なし | |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 構音障害と左顔面の軽度麻痺で発症。3ヶ月後には左片麻痺、14ヶ月後には左完全片麻痺 | 有 | 左記より当方で症状の増悪と判断。 |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | lt brachiofacial hemiparesisで発症したが4年7か月後にはparesis of rt hand and aphasia、10年8か月後、11年7か月後、11年10か月後にはtransient rt hemiparesis and aphasia | 記載 なし | |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 30年来、1側性のnumbness and tinglingがあった。transient rt hemiparesis and aphasia。その後、1年で約7回のTIA(lt hemiparesis and paresthesias) | 有 | 悪化と明記はされていない。30年間は1側の感覚障害のみであった。 その後に右片麻痺と失語症を伴うようになった。 当方で症状の増悪と判断。 |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | この症例を3回繰り返したというのには少し問題があるかもしれません。一過性の構音障害と左片麻痺で発症。day 0は右の頚動脈病変でしたが、day 12では右の病変は改善し、左の病変出現、day 14では右の病変が再度出現。この間、画像の変化は詳しいのですが、症状は記載されていないので不明です。 | 記載 なし | |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 右片麻痺と失語で発症後、4ヶ月後と6ヶ月後に右片麻痺と一過性の視力障害。 | 記載 なし | ステント治療 |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 駐車場に車が上手く止められない、抱いていた子供を落とすなどのz症状出現、1ケ月後はパソコンを上手く打てない、書字ができない、上手くしゃべれない、他覚的には右のバレー(+)、入院翌日には著明改善。 | なし | 経過観察期間がまだ短いかもしれない |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 右片麻痺で発症、その後は、右だったり左だったり1側の片麻痺を数回出現し、月に少なくとも1度は無気力な感覚を持つようになった。発症2年後に一過性の一側性の片麻痺を訴え入院した。 | 記載 なし | |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 29歳で左眼の視機能障害と右上下肢の感覚異常で発症、30歳からは発作の頻度が増え、麻痺、視機能異常、頭痛を伴うようになった。他医で片麻痺性片頭痛と診断されトリプタンが処方されてからは、さらに頻度が増え症状も増悪。 | 有 | 左記より、トリプタン内服以前より症状の悪化を認めていたと当方で判断。トリプタン内服によりさらに悪化の可能性。 |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 23歳で左霧視と眼球圧迫感、左の拍動性頭痛で発症、25歳頃から右片麻痺を伴うようになり、33歳で生理痛でピルを内服するようになり右半身の完全麻痺・感覚脱失を伴うようになった。 | 有 | 左記より、ピル内服以前より症状の悪化を認めていたと当方で判断。ピル内服によりさらに悪化の可能性。 |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 頭痛とTIAで近医受診、その後も、右片麻痺や左片麻痺、失語症、頭痛を繰り返していた。 | なし |
既往歴に片頭痛が有るのか否か、発作中に頭痛を伴うのかどうかをみてみます。
結果としては、既往に片頭痛があったものは3例(15%)で、ないものは6例、明らかな記載のないものは11例です。片頭痛の既往は、頚部内頚動脈血管攣縮に関係が無いようにみえますがまだ結論を出すには早いと思います。
発作中に、頭痛のあったものは9例(45%)、なかったものは1例、記載のなかったものは10例です。
頚部内頚動脈血管攣縮に頭痛を伴う頻度は高いようです。
但し、片頭痛の既往や発作中の頭痛については、記載のないものが前者では11例(55%)、後者では10例(50%)を占めており、頭痛は軽視されているかもしれません。
既往として片頭痛の有無 | 発作中の頭痛の有無 |
著者 | 初発 年齢 | 性 | 片頭痛の 既往の 有無 | 片頭痛の既往の記載 | 発作中の頭痛の 有無 | 発作中の頭痛の記載 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | なし | no history of migraine-like headache | 有 | followed by bilateral forehead pain |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 記載なし | 記載なし | ||
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 記載なし | 記載なし | ||
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 有 | She had a history ob bilateral pulsating headache for at least 10 years.… MOA(ICHD) | 有 | The stenoses were regularly accompanied by migrainous headache. |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 記載なし | 有 | ①left eye pain and decreased vision started and developed into a rt hemiparesis ②初診時は頭痛なし(明記) ③27歳(発症7年目)にカフェルゴット使用した際に心筋梗塞、カフェルゴットを使用したということは? 片頭痛をもっていた? ④最初の診断はhemiplegic migraine | |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 有 | Medical history revealed MOA | なし | There was no temporal correlation between the occurrence of vasospasm and migraine (data not shown). Oral isosorbide and diltiazem were discontineued after a few days due to intorerable headache. |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | なし | She had no history of migraine | 記載なし | 発症後、2-3年は頭痛なしと明記。その後の記載はない。 |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 記載なし | 有 | 7年前から、月に1回程度、右眼の見えにくさをきたしていたが放置。中略。翌日には症状消失。拍動性の頭痛を伴うことがあった。 | |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | なし | … nor a history of migraine-like headaches | 有 | ①this was followed by a right-sided pain in her forehead ② she developed a rt-sided pain from the retoro-orbita to the forehead |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 記載なし | 記載なし | ||
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 記載なし | 記載なし | ||
12 | Wopking S | 24 | 女性 | なし | she had no history of migraine headaches | 記載なし | |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | なし | no ・・,・・, or migraines | 記載なし | |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 有 | migraine like headache | 有 | she had a headache |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | なし | without migraine episodes | 記載なし | |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 記載なし | 記載なし | ||
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 記載なし | 記載なし | ||
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 記載なし | 有 | intermittent headache | |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 記載なし | 有 | 詳述① | |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | なし | 片頭痛の既往なし | 有 | 詳述② |
本疾患に関しての頭痛についての問題について考えてみましょう。
上記の論文の中で、考察で頭痛について述べているものは数編です。
Janzarik先生は、It is not clear whether ICA vasospasm are related to migraine or whether migrainous headache is an epiphenomenon of vasospasm.と述べています。頚部内頚動脈攣縮が片頭痛に関与するのか、あるいは片頭痛様頭痛はRCICVSのひとつのepiphenomenonであるのかは不明ということでしょうか。
Mosso先生は、RCICVSと片頭痛との関連について否定的な意見を述べています。理由として、当時のRCICVSの報告例は5例で、片頭痛の既往があったのはそのうちの2例のみであった点、頚部内頚動脈攣縮の時相と片頭痛の時相に関連が認められなかった点の2点をあげています。
反論を考えると、5例中2例という頻度は40%にのぼり、一般の片頭痛有病率と比較すると高率となります。時間的関係については自験例でも、シンプルな関係はみられませんでしたが、自験例では麻痺の前後に頭痛は出現していました。後述します。
Dembo先生はMosso先生の考察を引用されています。さらにRCICVSと生理との時間的関係はなかったことを報告されています。
舟生勇人先生の論文は、日本頭痛学会誌に寄稿されており、頭痛について詳細に考察されています。ここで紹介します。
舟井先生が報告された症例は、23歳より左眼球が外側へ押し出されたような強い圧迫感、左頭部拍動性頭痛とあります。
RCICVSの頭痛には、ふたつのタイプがあり、ひとつめは拍動性頭痛を繰り返しながら神経脱落症状を併発するようになるタイプ、もうひとつは頭痛の既往がなく、非拍動性頭痛と神経脱落症状を繰り返すタイプをあげています。
舟井先生が報告された症例は前者のタイプに相当します。
舟井先生は、RCICVSにみられる頭痛は、拍動性、非拍動性、両側性、片側性など種々のものがあり、特徴的ではなく、RCICVSによる頭痛と片頭痛の疾患概念は異なるものと指摘され、RCICVSによる頭痛は、国際頭痛分類(ICHD3)では、頚部頚動脈または椎骨動脈の障害による頭痛(6.5)に相当すると診断されています。
さらに、頚部内頚動脈血管攣縮に伴う頭蓋内の皮質動脈や外頚動脈の拡張などが拍動性頭痛に関与すると考察されています。治療は、攣縮に関する治療を優先し、疼痛に対してはアセトアミノフェン、NSAIDs、ステロイドなどが候補に挙げられると述べておられます。
相前後して、Takahira先生からセンセーショナルな報告がありました。両側の頚部内頚動脈血管攣縮に対してステント治療を行ったところ、両側の頚部内頚動脈血管攣縮はなくなり大脳半球の虚血症状はみられなくなったが、網膜の虚血症状と頭痛は、月に2-3回出現したままだというのです。
1例では何とも言えません、症例の蓄積が必要です。
頚部内頚動脈のステント治療により、頚部の内頚動脈血管攣縮がなくなったとして、網膜の虚血症状や頭痛が残るのは何故でしょうか。
Mosso先生が述べているように、内頚動脈血管攣縮の他に、眼動脈や網膜動脈にも血管攣縮が出現しているのであれば、網膜の虚血症状の説明はつきます。
頭痛はどうでしょうか。ステント治療は内張り治療です。内頚動脈の外側への刺激でしょうか、眼動脈などの問題でしょうか、それとも脳内に問題があるのでしょうか。
①RCICVSは片頭痛の既往がある人に多いのか:片頭痛の既往があったものは3例(15%)で、ないものは6例、明らかな記載のないものは11例です。記載のないものをどう取り扱うかで、結果は変わります。
11例を除いて考えると、9例中3例に片頭痛を認めたとすると33%と高率に認めることになります。逆に11例全てが頭痛なしとすると20例中3例(15%)に片頭痛の既往ありということで、日本人の片頭痛を有する頻度(1/8 12.5%)とに近い数字となります。この問題は、今後の検討項目でしょうか。
②発作中の頭痛について:頭痛のあったものは9例(45%)、なかったものは1例、記載のなかったものは10例です。
頚部内頚動脈血管攣縮に頭痛を伴う頻度は高いようです。記載のあるものに限ると、10例中9例に頭痛を認めています。90%、唖然とします。
頭痛外来に携わっている人であればお判りでしょうが、一般の医師にとって、頭痛は症状として軽視されがちです。
舟生先生以外の論文では頭痛の性状についての記載は、ほとんどありません。
しかし、痛む場所についての記載が散見されます。forehead、retoroorbit、眼球が押し出されたような、眼の奥などです。つまり、血管攣縮が生じている頚部とは異なるようです。
case 20の頭痛について:
頭痛ダイアリーをつけてもらい、整理。
頭痛の性状
1.頭痛は軽い頭痛と酷い頭痛があり、軽い頭痛は頻度が多い、酷い頭痛は月に1-2回。
2.持続時間は軽い頭痛は1-2分、酷い頭痛は長くて1-2時間。
3.痛む場所は目の後ろ、目玉。
4.ズキズキ?
5.できればじっとしていたい。
6.光過敏あり。音や臭いの過敏はない。
頭痛と運動麻痺の時間関係
1.頭痛だけ。
2.運動麻痺→頭痛が多い。
3.頭痛→運動麻痺
4.運動麻痺だけ?
5.頭痛と麻痺が一緒に
脳虚血症状と眼の症状
1.眼の症状:まぶしい。頭痛とほぼ同じに?、右にも左にも。
2.運動麻痺:右にも左にもくる。30分以内。
3.運動麻痺に引き続いてふるえがくることがある。この時は、人に見られないように陰でじっとしている。
4.しびれなどもあるよう
5.言葉:言葉と脱力が一緒にくることはない?
その他
1.喫煙:喫煙でTIA症状がひどくなるのは自覚している。
2.胸の痛み:胸の痛みはある、マラソンの時のような苦しさ。気にしていない、何分も続くわけではない。
頚部内頚動脈血管攣縮は、coronary artery spasm(CAS)が共存することについては、Yoshimotoらが指摘し、Idiopathic carotid and coronary vasospasm:
a new syndrome? として報告しています。
ここでは、coronary artery spasmの共存について着目していきます。
20例中、12例(60%)にcoronary artery spasm(CAS)がみられました。
記載の明確なものに着目すると15例中12例(80%)ということになります。
頚部内頚動脈血管攣縮には、coronary artery spasm(CAS)が高率に併発することが示されました。
頚部内頚動脈血管攣縮の症候出現以前に、coronary artery spasm(CAS)が認められたものが
2例(10%)ありました(case16、case17)。
coronary artery spasm(CAS)の共存 |
著者 | 初発 年齢 | 性 | CASの 有無 (脚注) | 既往に 心筋 梗塞 狭心 症 の 有無 | 既往の心筋梗塞・狭心症の記載 | 発作中の胸痛の有無 | 発作中の CASの 有無 | 発作中のCASの記載 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 有 | 記載 なし | 記載 なし | 有 | temporal change in the EEG coronary artery spasmと明記 | |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 有 | 有 | 30歳の時、異型狭心症 | 記載 なし | 記載 なし | 経過中の胸部症状や 心臓検査の記載なし |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 記載 なし | 記載 なし | 記載 なし | 記載 なし | 経過中の胸部症状や 心臓検査の記載なし | |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | なし | 記載 なし | 記載 なし | なし | 心臓精査を行い異常なし | |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 有 | 記載 なし | 記載 なし | 有 | 27歳の時にカフェルゴットを内服し、心筋梗塞となった。 その時のMRIで左前頭葉に新しい脳梗塞を認めた。 | |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | なし | 記載 なし | 記載 なし | なし | 心電図、24時間心電図、経食道エコーで異常なし | |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 有 | 記載 なし | 有 (chest oppression) | 有 | AMI vasospastic angina CAG施行、Ach provocation test施行 cilostazol | |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 有 | 有 | 安静時狭心症 胸痛時ニトロペン頓用 | 有 胸痛 | 有 | 発作中に胸痛有、ニトロ使用した。 心電図は洞調律 |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 有 | なし | She was otherwise healthy, and there were neither vascular risk factor | 有 (chest oppression) | 有 | chest oppressionはあったが、心電図では異常はなかった |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 記載 なし | 記載 なし | 記載 なし | 記載 なし | 経過中の胸部症状や 心臓検査の記載なし | |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 記載 なし | なし | 高血圧、DM、脂質異常なし | 記載 なし | 記載 なし | 経過中の胸部症状や 心臓検査の記載なし |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | 記載 なし | なし | she had no other cardiovascular risk factors | 記載 なし | 記載 なし | 経過中の胸部症状や 心臓検査の記載なし |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 有 | 有 | non-ST elevation myocrdial infarction | 記載 なし | 記載 なし | 経過中の胸部症状や 心臓検査の記載なし |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 記載 なし | なし | she did not have any risk factors for cardiovascular disease | 記載 なし | 記載 なし | 経過中の胸部症状や 心臓検査の記載なし |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 有 | なし | without cardiovascular risk factors | 記載 なし | あり | 心電図や心エコーや心筋シンチで心筋梗塞を認め、冠動脈撮影では異常がなかったことからvasospasmによるものと診断された |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 有 | 有 | 冠攣縮性狭心症 | 記載 なし | 記載 なし | 冠動脈攣縮にて加療中に発症 |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 有 | 有 | coronary artery spasm | 有 chest pain | 有 | He had frequent chest pains by coronary artery spasms. He sufferer an acute anterior myocardial infarction … |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 有 | 有 | coronary vasospastic angina and myocardial infarction at the age of 32 years(coronary stenting) | 有 | 有 | anginal attack occured |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | なし | なし | なし | なし | 表の中にcoronary artery diseaseなしと明記 | |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 有 | なし | 有 胸部圧迫感 | なし | 心電図で異常なし |
(脚注):既往に異型狭心症などCASが強く疑われたもの、発作中にCASがが強く疑われたものを、本HP管理人の判断でCASありとしました。
case 5はカフェルゴット内服時に心筋梗塞となっており、CASありとするのは適当ではないかもしれません。
RCICVSにcoronary artery spasmが併発することを指摘した論文は多いのですが、踏み込んだ考察をしているものはあまりありません。考察でcoronary artery spasmを論じたものをみていきましょう。
Arning先生は、既にcoronary artery spasmの併発を指摘されています。
Yoshimoto先生は、idiopathic carotid and coronary vasospasm: a new syndromeとして、頚部内頚動脈血管攣縮とcoronary artery vasospasmの併発を一つのentityとして捉えた考え方を発表され、アセチルコリンテストでcoronary artery vasospasmを診断されています。残念ながら、どうして併発するのかは考察されていません。
一方、林先生は、systemicなvasospasmをきたす病態と捉えておられます。
Moeller先生の論文が、RCICVSの病態に最も踏み込んだ論文と考えられます。残念ながら、coronary artery spasmの併発がないので、病態のところで紹介します。
Wopkins先生や笠原先生らもMoeller先生の考え方に賛同されているようです。
笠原先生は冠動脈攣縮にて加療中に一側頭蓋外内頚動脈血管攣縮を発症した一例を報告し、その特徴として若年発症で、頭蓋外内頚動脈攣縮を繰り返し、冠動脈攣縮を併発することを指摘されています。
笠原先生は、病態生理は明らかでないとされていますが、交感神経刺激で血管攣縮を誘発し、自律神経障害に起因するとしたMoeller先生の報告を紹介されています。
ここでは、脳虚血症状について記載します。20例中18例に脳虚血症状を認めています。
そして、極言すると可逆性です。昔の言葉でいうと、TIAやRINDということでしょうか。通じますか。
脳虚血症状の有無 |
著者 | 初発 年齢 | 性 | 脳虚血症状の有無 | 脳虚血症状の記載 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 有 | rt hemiparesis, rt sensory impairment, aphasia |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 有 | 左片麻痺 |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 有 | lt hemiparesis, rt hemiparesis |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 記載なし | |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 有 | rt hemiparesis, varied |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 記載なし | |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 有 | re hemiparesi |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 有 | 左半身の脱力 |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 有 | lt hemiparesis lt side sensory impairment |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 有 | lt hemiparesis |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 有 | 構音障害 左顔面の軽度麻痺 |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | 有 | lt brachiofacial hemiparesis, rt hemiparesis, aphasia |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 有 | unilateral right or left numbness and tingling |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 有 | transient dysarthria, lt hemiparesis |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 有 | global aphasia, rt hemiparesis |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 有 | 子供を落とす 右片麻痺か、バレー徴候右陽性 |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 有 | rt hemiparesis,lt hemiparesis, aphasia |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 有 | lt hemiparesis rt hemiparesis, aphasia |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 有 | 右片麻痺 |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 有 | 一側の麻痺 失語症 |
脳虚血症状は、どうして起きるのでしょうか。一般的な常識でいくと、①hemodynamic factor、②spasmに伴う血栓塞栓ではないでしょうか。
常識は通じないかもしれません。
画像では、1)watershed infarction、2)small infactionが認められています。
特筆すべきは、梗塞によくみられる扇形の梗塞や広範な梗塞が認められたものは一例もありません。
発作は数時間から数日とされているのに、これはいったいどういうことでしょうか。
単純に側副決行が発達しているとは考えにくいような気がします。
私見ですが、その間、severe stenosisにみえる間も血流は保たれているのではないでしょうか。
SPECTなどによるrCBF studyは下記に示すように施行されていますが、施行症例は少ないようです。
spasmはあるが無症候性の場合は、rCBFはどのようになっているのでしょうか。
ここでは、網膜の虚血症状について記載します。
網膜の虚血症状は、20例中、11例(55%)にみられました。
記載の明確なものに着目すると12例中11例ということになります。網膜の虚血症状がなかった1例では眩しさを訴えていました。
眼が見えないという症状は、頭痛とは異なり、全ての科の医師にとって重要な症状となります。
網膜の虚血症状の有無の記載がない場合は、症状がないと考えた方がいいでしょう。
網膜の虚血症状の有無 |
著者 | 初発 年齢 | 性 | 網膜虚血症状の有無 | 網膜虚血症状の記載 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 有 | acute visual impairment with light flashes and dark spots in the left eye |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 有 | 右眼 一過性黒内障 |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 有 | vision problem of left eye |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 記載なし | |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 有 | lt visual blurring, varied |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 有 | acute monocular blindness |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 有 | amaurosis fugax of the left eye |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 有 | 右眼の見えにくさ |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 有 | transient rt visual blurring |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 有 | transient rt amaurosis |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 記載なし | |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | 記載なし | |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 記載なし | |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 記載なし | |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 記載なし | |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 記載なし | |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 記載なし | |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 有 | amaurosis fugax(rt or left) |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 有 | 左霧視 左眼球の圧迫感 |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | なし |
網膜の虚血症状に考察がなされている論文は2編あります。Mosso先生の論文とTakahira先生の論文です。各々を紹介します。
Mosso先生の論文:
Recurrent spontaneous vasospasm of cervical carotid, ophtalmic and retinak arteries causing repeated retinal infarcts: a case reportというタイトルからおわかりのように網膜の虚血について着目された論文です。
症例は45歳男性です。left monocular blindnessが3回生じています。初回と30ヶ月後と42ケ月後の3回です。眼動脈および網膜動脈の閉塞は4日で改善、内頚動脈閉塞は10か月(本当でしょうか)で改善と記載されています。
脳血管撮影およびエコーで左内頚動脈の閉塞(tapered occlusion)を認め、ophthalmic arteryとcentral retinal arteryの閉塞を認めています。
MRI(FAST fat suppression)では、壁内血腫を認めていません。3回の発作では、全て、頚部内頚動脈の閉塞を認めています。さらに眼動脈の閉塞を認めています。ophthalmoscopyが行なわれた42ヶ月後の発作ではretinal arteryのinferior nasal branchの閉塞を認めています。
42ケ月間で33回のエコー検査が行われています。無症候性の左内頚動脈閉塞は5回、無症候性の内頚動脈狭窄は、左が16回、右が7回認められています。
治療はCa拮抗剤(flunarizine)は無効で、nitoroglycerinは効果があったようです。しかし、副作用に耐えがたい頭痛が出現し中止しています。
その後の38ヶ月は予防薬なしに発作はなかったそうです。
片頭痛はあったそうですが、vasospasmと片頭痛のとの間に時間的相関はなかったそうです
Mosso先生は、上記の結果から、極めて興味深い考察をなされています。網膜の虚血症状は、ophtalmic artery、retinal artery、internal carotid arteryにvasospasmが及んだ時に出現し、internal carotid arteryのみのvasospasmでは網膜の虚血症状は出現しなかった。
つまり、vasospasmが、ophthalmic arteryやretinal arteryにまで及んだ時に網膜の虚血症状が出現し、内頚動脈のみのvasospasmは、頻度が多く、網膜の虚血症状を伴わないと結論しています。
この症例が、8.1.1 一酸化窒素(NO)供与体誘発頭痛を併発していたことは大変興味深いと思います。
Takahira先生の論文:
Takahira先生の論文は頭痛のところでも紹介しました。
その症例では、①ステント留置の術後に徐脈のコントロールのため、ドーパミンを使用し、右目の視野の異常が出現したこと、②頚部内頚動脈のステント治療により、頚部の内頚動脈血管攣縮は消失したが、、網膜の虚血症状が出現する発作は変化がなく残存したことなどが報告されています。
①については、精査をおこない、内頚動脈や眼動脈の狭窄や閉塞はなく、fluorscein angiographyでも異常はなく、posterior ischemic optic neuropathyと診断されています。強いて問題点をあげるならば、精査が少し遅れて行われたようです。
posterior ciliary arteryは、視神経の前領域を貫流しており、posterior ciliary arteryを除いた視神経を灌流する血管のvasospasmによるposterior ischemic optic neuropathyと考えられたようです。②についての直接的な考察はなかったようです。
私には、Mosso先生の考察がシンプルで理解しやすかったです。
喫煙歴が明記されているものは10例(50%)です。そのうち、5例で発症後に喫煙をやめていますが症状は繰り返しています。
葛本先生が、喫煙が誘因と考えられた血管攣縮性脳梗塞の1例を報告されています。
その論文の中で、ニコチンの関与について考察されています。
そのほかに、喫煙により、症状が頻回となったとする報告や、case20のように喫煙でTIA症状がひどくなるのは自覚している症例もあります。。
喫煙が直接関与しているのか、あるいは間接的に関与しているのか、あるいは関係していないのかは現在のところ不明です。
喫煙歴の有無について |
著者 | 初発 年齢 | 性 | 喫煙の有無 | 喫煙についての記載 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 有 | moderate consumption of nicotine, 1996年11月からはnon smoker |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 有 | 喫煙が誘因と考えられた血管攣縮性脳梗塞の1例として報告し、 ニコチンについて詳細な考察有り |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 記載 なし | |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 記載 なし | |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 記載 なし | |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 記載 なし | |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 有 | habitually smoke 10 cigarettes per day 喫煙をやめても症状(amaurosis fugax)は出現した |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 有 | 喫煙は1日20本程度と生活歴に記載。その他の記載はない |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 有 | habitually smoking 20 cigarettes per day 喫煙をやめてもvasospasmは出現した |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 記載 なし | |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 記載 なし | |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | 有 | regular nicotine consumption 当初は、喫煙は関係あるようであったが、やめても発作は出現した |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 有 | she had an active 40-pack-year smoking story |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 記載 なし | |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 記載 なし | |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | なし | タバコは吸わない |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | なし | he was a nonsmoker |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 有 | He had smoked 20 cigarettes/day for nine years, but stopped smoking 11 years ago. Smoking/overworking increased the frequency of attacks. |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 有 | 喫煙6本/day |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 有 |
葛本先生が、喫煙が誘因と考えられた血管攣縮性脳梗塞の症例を報告し、ニコチンはアセチルコリンのニコチン受容体に結合し、少量では交感神経刺激作用を有し血管収縮をきたす、あるいは、血管内皮由来のNOの障害などを考察されています。
以降、積極的に先生の意見を支持する報告はありません。
喫煙を中止しても、発作は出現したとする報告が多数みられます。
この事は、喫煙が環境因子の一つとは考えられても、直接的な原因ではないことを示しているのかもしれません。
しかし、coronary artery spasmの病因の環境要因として、循環器病の診断と治療に関するガイドラインに一番に記載されているのは喫煙です。
タバコの煙には種々のフリーラジカルが含まれており、これらのフリーラジカルはNOを不活化し、血管内皮細胞を直接障害するそうです。
冠攣縮性狭心症の治療には禁煙は必須とのことです。
その他の因子として、cardiovascular risk、ピル、その他の薬剤を取り上げてみました。
特記事項はないようです
横になっているといいような記載が2例でありました。。
著者 | 初発 年齢 | 性 | cardiovascular risk の既往(脚注) | ピルについて | その他の薬剤 | その他 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | なし No vascular risk factors were presents. | なし | なし | |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | なし | 記載なし | ||
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | healthy | 記載なし | ||
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | なし no cardiovascular risk | 記載なし | なし | |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 記載なし | 記載なし | 立位で麻痺は増悪するが、起立性低血圧はなかった | |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | なし neither vascular risk factors・・ | 記載なし | ||
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | なし | 記載なし | なし | |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | なし neither vascular risk factors | なし | なし | |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 記載なし | 記載なし | ||
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | なし 高血圧、糖尿病、脂質異常なし | 記載なし | なし | |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | なし no cardiovascular risk factors | 記載なし | 記載なし | |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 有 脂質異常、うっ血性心不全 | なし | 記載なし | |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | なし no cardiovascular risk factors | 記載なし | 記載なし | |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | なし without cardiovascular risk factors | 記載なし | 記載なし | |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | なし | 記載なし | 有(Ca拮抗剤ベニジピン) | |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 記載なし | 記載なし | ||
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 有 脂質異常、高血圧 | 記載なし | 有(antiplatelet, calcium antagonist, a nitrate analogue) | |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | なし | ピルで悪化? | 記載なし | 横になって休むと自然軽快 |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | なし | なし |
(脚注)coronary artery spasm関係は別項で取り扱っています。
罹患が一側か両側かを示します。
これは、画像についてです。症状が一側であっても、画像で両側の場合は両側としています。
また、一側性であったものが改善し、他側に血管攣縮がみられた場合も両側性としています。
一側性(同じ側のみ出現)したものは6例(30%)、両側性が14例(70%)です。
本疾患は、他の疾患とは異なり、単純に一側性とか両側性とか単純に区分することは難しく、一側(a側)で出現し、これが改善したと思ったら他側(b側)に出現し、もう一度、元の側(a側)に出現した等のパターンもみられます。
著者 | 初発 年齢 | 性 | 一側(固定)、 片側(変化)、 両側か | ||
1 | Arning C | 32 | 女性 | 両側 | 症状は1側(変化)のみであったが、入院中のエコーでは両側であった。 |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 両側 | 症状は右側血管の症状のみ |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 両側 | 右側から両側 |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 両側 | 右側から両側、そして左へ。いろいろ |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 両側 | 症状の出る側は、その度毎に、変化 |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 両側 | 症状が出るのは左眼のみ。閉塞するのは左。 |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 一側、左側のみ | |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 両側 | 当初は一側のみであった。症状は右側血管の症状のみ |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 一側、右側のみ | |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 両側 | |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 一側、右側のみ | |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | 両側 | |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 両側 | 両側一度にくることは? |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 両側 | 右から始まり左へ。さらに右へ 24日間で変動する |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 一側、左側のみ | |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 一側、左側のみ | |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 両側 | transient hemiparesis in rt or lt |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 両側 | |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 一側、左側のみ | |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 両側 |
両側性が多いのですが、不思議なことに四肢麻痺とか両側のamaurosis fugaxが同時に出現などの表現は1例もありません。片麻痺がその都度、変化するなどの表現です。
年齢が若く側副血行が良好なことが影響しているのでしょうか。
持続時間は、数時間から数日とする報告が多いようです。
持続時間が短いので、MRI、MRA、エコー検査を至急、施行するひつようがあります。時間がたつと改善し、病変を捉えられなくなってしまいます。
重複する症例があります。
著者 | 初発 年齢 | 性 | 持続期間の 記載の有無 | ||
1 | Arning C | 32 | 女性 | 有 | 2時間(初回)から数日(2回目) |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 記載があるが推定が必要 | ①症状が出現したMRAでは右内頚動脈狭窄を認めたが、2週間後の脳血管撮影では狭窄は認められなかった。 ②入院当日に両側内頚動脈狭窄を認めたが、第5病日には消失していた。 |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 有 | 数時間から数日(within hours to days) |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 有 | 1-3日(time flowの図有) |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 有 | 3-7日 |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 有(治療後) | 3-4日(transdermal nitoroglycerin)、 10-15分で改善(sublingual nitroglycerin) 70ヶ月にわたる経過あり 持続時間として上記を記載したが、これ以外にophtalmia arteryとretinal arteryは4日で閉塞が改善したが、頸動脈は10ヶ月で改善したとの記載もあり |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 有 | 1日、翌日のDSAでは狭窄は消失 |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 有 | 症状は翌日には消失(右眼の症状)、 症状は数日で消失(アスピリンとヘパリンで治療後) |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 有 | 症状は4日後に消失、MRAを8日後に施行し、この時に狭窄は消失 |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 有 | 数時間持続した |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 記載があるが推定が必要 | 2週間で症状は完全に消失 |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | 十分な記載なし | short episode |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 有 | 入院までの4回の発作は10-15分、 それ以前は、5-10分で消失 |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 有 | 24日間で変動する (詳細な画像変化の記載有り) |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 有 | 2日で改善 |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 記載があるが推定が必要 | 入院時のMRAで狭窄を認めたが、5日後のMRAでは狭窄は消失していた。 |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 有 | 3 days later vasospasms continued for the periods of 1day to 1week(Ca拮抗剤、亜硝酸剤使用) |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 有 | Tremble persisted for 1day, and the ocular symptom persisted for 3 to 4 days. |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 有 | 30分から半日 |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 有 | 数時間から数日 |
わかりにくいので、数十分、数時間から数日、10日以上に分けてみましょう。
ほとんどが持続時間は数時間から数日です。
著者 | 初発 年齢 | 性 | 数10分 | 数時間から数日 | 10日以上 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 2時間(初回)から数日(2回目) | ||
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | ①症状が出現したMRAでは右内頚動脈狭窄を認めたが、2週間後の脳血管撮影では狭窄は認められなかった。 ②入院当日に両側内頚動脈狭窄を認めたが、第5病日には消失していた。 | ||
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 数時間から数日(within hours to days) | ||
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 1-3日(time flowの図有) | ||
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 3-7日 | ||
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 10-15分で改善(sublingual nitroglycerin) | 3-4日(transdermal nitoroglycerin) | |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 1日、翌日のDSAでは狭窄は消失 | ||
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 症状は翌日には消失(右眼の症状)、 症状は数日で消失(アスピリンとヘパリンで治療後) | ||
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 症状は4日後に消失、MRAを8日後に施行し、この時に狭窄は消失 | ||
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 数時間持続した | ||
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 2週間で症状は完全に消失 | ||
12 | Wopking S | 24 | 女性 | short episode | ||
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 入院までの4回の発作は10-15分、 それ以前は、5-10分で消失 | ||
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 24日間で変動する | 24日間で変動する (詳細な画像変化の記載有り) | |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 2日で改善 | ||
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 入院時のMRAで狭窄を認めたが、5日後のMRAでは狭窄は消失していた。 | ||
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 3 days later vasospasms continued for the periods of 1day to 1week(Ca拮抗剤、亜硝酸剤使用) | ||
18 | Takehira K | 29 | 男性 | Tremble persisted for 1day, and the ocular symptom persisted for 3 to 4 days. | ||
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 30分から半日 | 30分から半日 | |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 数時間から数日 |
いつからということは、症状がでて診断がつくまでの期間とほぼ同じことですが、響きが違うのでここでとりあげます。
そして治療後のフォローアップ期間を示します。
論文を読んでいて、よく月に1度という表現がでてきます。ピックアップしてみます。なにかしらの表現で、月に1回という表現がでてくる症例は7例(35%)あります。
著者 | 年齢 | 性 | いつから (年前から) | 1ヶ月に1度と いう表現の 有無 | フォローアップ 期間 | フォローアップ 期間の 状況 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 0 | なし | 12ヶ月 | The patient was free of complaints with the exception of 3 very short attacks of visual impairment. |
2 | 葛本佳正 | 31 | 男性 | 5 | なし | 退院後の フォローの 記載はない | |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | 0 | なし | 数週間 | Ca拮抗剤を試してみたが、ICA vasospasmの頻度は変わらなかった。 |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 0 | 有 治療後 | 数週間 | methylpredonisoloneをtaperingしたら、再発したので、経口プレドニンを再開したら、migrainous headashe with concomitant vcasospasm of the ICAの頻度は著明に減少し月に1回程度となった |
5 | Yokoyama H | 35 | 男性 | 15 | 有 almost monthly | 2002年2月から2003年10月(約1年9か月) | 星状神経節ブロックで一過性の効果は認めたが、予防効果はなく発作の頻度に変化はなかった。 |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 0 | なし | 70ヶ月 | 42-70ヶ月の38ヶ月間は、治療せず発作はなかった。 |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 39 | 女性 | 3 | Y報告:なし 月に数回 藤本報告:有 月に1回程度 1-2回/月 | Y報告:数ヵ月 藤本報告:2年 | Y報告:amaurosis fugax, paresisは続いていた 藤本報告:虚血発作は完全に消失 |
8 | 林紀子 | 35 | 女性 | 7 | 有 7年前より月に1回程度 | 妊娠9週6日めから妊娠41週出産までの記載 | 出産終了後の記載はない |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 0 | なし | 退院後の フォローの 記載はない | |
10 | Moeller S | 25 | 男性 | 13 | なし | フォロー期間の 明確な記載はない | α1ブロッカーによりspasmは減少し、症状の頻度は減った |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 0 | なし | 2年間 | 症状の再発なし |
12 | Wopking S | 34 | 女性 | 10 | なし | フォロー期間の 明確な記載はない | 2011年以降発作はない |
13 | Huisa BN | 55 | 女性 | 30 | なし | 12ヶ月 | 約7回のTIAあり |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 0 | なし | フォロー期間の 明確な記載はない | フォローアップ期間の悪化はない |
15 | Yoshimoto H | 40 | 女性 | 11 | なし | 24ヶ月 | ステント治療後、obvious cerebral ischemic attack or ICA vasospasm have not been detected わざわざ脳虚血発作と記載してあるところがきになります。症状としては眼の症状もありましたから(HP管理人私見) |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 0 | なし | 入院期間のみの記載。退院後の フォローの 記載はない | 退院時は良好 |
17 | Takeuchi M | 25 | 男性 | 2 | 有 at least once in a month | 4年間 | ステロイド治療を行なってから2回短い発作があったほかは症状はなく普通の社会生活を送った |
18 | Takehira K | 40 | 男性 | 11 | 有 once or twice a month | 6ヶ月 | 脳虚血症状はなかったが、頭痛や目の症状は月に2-3回出現した |
19 | 舟生勇人 | 33 | 女性 | 10 | 有 月に約1回 多いと月に2-3回、少ないと半年に1回 | フォロー期間の 明確な記載はない | ロメリジン内服を継続しているが完全寛解には至っていない |
20 | 川口務 | 35 | 男性 | 10 | なし | 4年 | 経過観察のみ |
月に1度という表現をみると、生理の影響が考えられますが、どうでしょうか。Dembo先生は生理とは関係なかったと報告していますが・・・・。
診断がつくまでに、時間が経過しているときが多く、初診時の急性期脳梗塞、陳旧性脳梗塞、その後の経過中の脳梗塞を分けて考えるのに意味があるのかどうかわかりません。
初診時に急性期脳梗塞があったものが10例、初診時に陳旧性脳梗塞を認めたものが5例、経過中に脳梗塞(急性期・陳旧性を問わず)を認めたものが7例です。
全経過を通じて、脳梗塞像を認めなかったものは2例(Mosso先生の症例、舟生先生の症例)の2例です
初診時の急性期脳梗塞 | 初診時の陳旧性脳梗塞 |
その後の経過中の脳梗塞 | 全経過での脳梗塞 |
特筆すべきは、脳梗塞像は、watershed infarction像やsmall infarction像が殆んどです。扇形の梗塞像や広範な脳梗塞像の記載は1例もありません。
著者 | 初発 年齢 | 性 | 初診時に 異常なし | 初診時に 拡散強調画像で 新しい脳梗塞 | 初診時に 陳旧性脳梗塞 | 経過中の脳梗塞 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 異常なし 1995.5 | 13か月後に左頭頂葉にextensive subcortical infarction | ||
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 異常なし 1997.6 | 右前頭葉に陳旧性脳梗塞 2002.5 | ||
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | Rt MCAのanterior territoryに脳梗塞 拡散強調画像か否か不明 | |||
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | subacute infarction in the lt basal ganglia | |||
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | 左前頭葉に脳梗塞 2002/8初診時 この脳梗塞は右記 | 27歳の時、エルゴタミン製剤を使用し心筋梗塞になった時、脳MRIで、左前頭葉に新しい脳梗塞 | ||
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 記載なし cervical MRI有 | |||
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | なし 2007.2 | 左大脳に小さな脳梗塞あり 2007.2 | 拡散強調画像で、左大脳に新鮮脳梗塞 2007.5 | |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 右中心前回付近に脳梗塞(拡散、FL) 2009.6 | |||
9 | Dembo T | 24 | 女性 | 異常なし 2005.5 | 拡散強調画像では異常なし、FLでは右大脳の中大脳動脈内に信号を認めた 2005.8 新鮮脳梗塞 2006.5 | ||
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 急性脳梗塞(Rt MCA-ACA watershed) | 両側に陳旧性脳梗塞あり | ||
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 拡散強調画像で右頭頂用に急性期脳梗塞 | CTで右島回に陳旧性脳梗塞 | ||
12 | Wopking S | 24 | 女性 | MCA領域に脳梗塞(古いものかどうか不明) 1999.7 | DWIで病変なし 2004.2 新たな脳梗塞出現 2010.3-2011.2-2011.5 | ||
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | multiple areas of nonspecific subcortical white matter changes in internal watershed distribution | |||
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 拡散強調画像で rt frontal operculumにspotty acute infarction | |||
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 拡散強調画像で lt cerebral hemisphereにfresh infarction | |||
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 拡散強調画像で 左前頭葉皮質に高信号域 | |||
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | acute cerebral infarcts in both the frontoparietal lobes | |||
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 32歳の時、fresh infarctions in the rt cerebral hemisphere | |||
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 異常なし | |||
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 両側大脳半球に小さな陳旧性脳梗塞 |
MRAやエコー、DSAなどで診断されています。閉塞とか高度狭窄、a filiform stenosisなどと表現されています。
解離との鑑別に、MRIなどで壁内血腫がない点を挙げた症例が10症例あります。
MRIなどで壁内血腫がないことを明記 |
著者 | 初発 年齢 | 性 | MRA | 壁内血腫 | エコー | DSA・血管撮影 | ||
1 | Arning C | 32 | 女性 | 記載なし | a filiform stenosis of Lt ICA 1996/12 入院中だったので、やっと捉えることができた | 悪化を避けるため施行せず | 18時間後に狭窄は消失 | |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | Rt ICA 狭窄 数珠状に似た部分もあり | 記載なし | 2002.5入院時には両側に病変を認めているがは、5日後MRAで改善 | ||
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | distal occlusion of the Rt ICA | 壁内血腫なし(MRA) | occlusion of the Rt ICA | distal occlusion of the Rt ICA | |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | filiform stenosis of both submandibular ICAs | 壁内血腫なし(MRI) | narrowing, high grade stenosis | 記載なし | 2日(1-3日)で改善 outer vessel diameter was siginificantly reduced during stenosis |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | stenosis | 記載なし | stenosis | 記載なし | 星状神経節ブロックで改善 |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | occlusion stenosis | 壁内血腫なし(fat suppression technique FAST MRI) | occlusion stenosis 繰り返し施行 | a tapered occlusion of the Lt cervical ICA | 4日で改善 |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | stenotic lesion of the Lt ICA | 藤本道夫 ②では壁内血腫なし(MRA) | Lt ICA stenosis 繰り返し施行 | ICAstenosis | 翌日改善 繰り返し、藤本道夫 ②でステント治療 |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 右ICA閉塞 両側ICA狭窄 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | Rt ICA stenosis | 記載なし | 高位なので通常のエコーでは捉えられない IVUS:解離も動脈硬化もなく外径も著明に細くなっている | a filiform stenosis | 症状は4日後、8日後に施行したMRAで狭窄は改善 |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | demonstrate vasospasm CE-MRA | 記載なし | vasospasm | vasospasm | |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 右ICA閉塞 | 壁内血腫なし MRA | CTAとともに経過観察 | 右ICA狭窄、右MCA閉塞 | UK&PTA |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | MRAとエコーでフォロー | 壁内血腫なし T1 weighted fat-supression images | proximal occlusion of both ICAs and retrograde flow in both supratrochear arteries | three days later, DSA showed a recanalization of the Lt ICA and a persistent occluion of the Rt ICA | 3日 |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | high grade stenosis of the Rt ICA MRA, 3DCTA | 記載ないが、3DCTAの元画像が示されており、それをみると壁内血腫はなさそうである。 | 記載なし | 施行されており、MRAでみられたRt ICAの狭窄は改善しており、Lt ICAの狭窄が出現している | |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | Rt ICA occlusion | 記載なし | 記載なし | 施行し、狭窄など確認 | Rt ICAの狭窄は6日で改善したが、12日目にはLt ICAの狭窄がみられた |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | stenotic lesion in the cervical segment of the Lt ICA | 記載なし | 記載なし | 狭窄や改善を認めている | 2日で改善 |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 左内頚動脈狭窄 | 記載なし | 記載なし | 5日目に施行し狭窄は消失 | 5日 |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | severe stenosis of Lt ICA | 壁内血腫なし(MR) | 49th dayにはエコーとMRAで両側のvasospasmを捉えた | 記載なし | MRAで3日後にはLtICAには異常なし、RtICAにsevere stenosis |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | high grade stenosis of Rt ICA | 壁内血腫なし(3D-time-of-flight(TOF)MRA) | 記載なし | STENT施行時に | 32歳の時の発作ではmarked stenosis at the cervical segment of Rt ICAは2-3日続いた |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 左内頚動脈高度狭窄あるいは閉塞 | 記載なし | 記載なし | 左内頚動脈高度狭窄 | 翌日には改善 |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 両側内頚動脈高度狭窄 | 壁内血腫なし(MRI) | 施行せず | 両側内頚動脈高度狭窄は改善 | 3日後に施行したDSAおよびMRAでは改善 |
RCICVSの攣縮の部位(高位)は重要と考えられます。
RCICVSの攣縮の部位(高位)は、舟生先生はC2レベル、Shimoda先生はC1-C2レベル、多くの先生が分岐後 2-4㎝のところに存在したと報告しています。
著者 | 初発 年齢 | 性 | 部位 | sheme | 追加事項 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | a filiform stenosis of Lt ICA 4cm cranial of its origin | 右ICA狭窄の直接的な狭窄は捉えられなかったが、supratrochear a の逆行(側風血行)を認めた | |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 部位(高さ)の記載なし 画像は正面像のみ。ICA頚部高位のようである | ||
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | distal occlusion of the Rt submandibular ICA | ||
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 部位(高さ)の記載なし エコーで推定難しい | ||
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | stenosis appeared to start a little distal to the carotid bifurcation in the petous segment 2003.10 | ||
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 部位(高さ)の記載なし DSA画像をみると、ICA分岐2㎝程度のようである | ||
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | cervical segment of Lt ICA | ||
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 部位(高さ)の記載なし MRAで推定難しい | ||
9 | Dembo T | 24 | 女性 | a filiform stenosis of th Rt ICA about 4cm above the origin | ||
10 | Moeller S | 12 | 男性 | the intermediate portion between 2cm cranially of the carotid bulb and the skull base | ||
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 部位(高さ)の記載なし DSA画像をみると、C2付近のようである 記載ではsevere stenosis of the cervical Rt ICA | ||
12 | Wopking S | 24 | 女性 | 部位(高さ)の記載なし MRA画像をみると、ICA起始部からようであるが不明。経過観察のMRAでは分節状に残存しているのはpetorous partのように見える | ||
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | a high grade stenosis of the Rt ICA 2cm distal to the carotid bifurcation | ||
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | segmental narrowing at the contralateral extracranial ICA at the C1-2 junction | ||
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 部位(高さ)の記載なし MRAやDSAをみるとcervical segmentの高位 | ||
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 部位(高さ)の記載なし MRAをみるとcervical segmentの高位のようにみえる | ||
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 部位(高さ)の記載なし MRAをみるとICA分岐起始部に近いようにみえる | ||
18 | Takahira K | 29 | 男性 | ①部位(高さ)の記載なし MRAをみるとICA分岐起始部から4㎝程度にもみえる②かなり高い所にもみえる(Fig4)③vasospasm in the petrous segment of the Lt ICA(Fig5) | ||
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 第2頚椎の高さ | ||
20 | 川口務 | 25 | 男性 | ICA分岐3㎝程度 |
頚部内頚動脈の血管攣縮像の程度に比較すると症状が比較的軽度で、脳梗塞像も限局またはwatershed infarctionです。
脳血流検査量の検査結果を知りたかったのですが、データとしては十分ではありませんでした。
症状が比較的軽度であることから、検査が行なわれなかったのかもしれません。
著者 | 初発 年齢 | 性 | SPECTなど脳血流量検査 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | 記載なし |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 記載なし |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | when both ICA were affected at the same time, intracranial blood flow was reduced (perfusion MRI) |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | 記載なし |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | right brain hypoperfusion HAPAO-SPECT |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | 記載なし |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | 記載なし |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | 記載なし |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | marked reduced intracranial blood flow in the Rt ICA region (Xe CT) |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | 記載なし |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | 記載なし |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | 記載なし |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | 記載なし |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | 異常なし 123I IMP SPECT |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | 記載なし |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | 4日目に施行したアセタゾラミド負荷による脳血流の増加に左右差はなかった SPECT |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | 記載なし |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 記載なし |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | 記載なし |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 施行せず |
血管炎や自己免疫疾患などを否定し、解離との鑑別が肝要となります。
繰り返すこと、壁内血腫がないことなどが決め手になります。壁内血腫は経時的に信号が変化し、いつも容易にとらえることができるわけではありません。
正確に診断できるのは、Dembo先生が報告されたIVUSよる診断ではないでしょうか。この方法では、血管内腔から外膜まで形態を正確に把握できます。
RCICVSと解離との鑑別には、血管内の形態だけではなく、外膜までの構造を知る必要があります。BPASのような容易な方法はないでしょうか。
シェーマ |
左:内頚動脈 中央:RCICVS 右:内頚動脈解離 |
著者 | 初発 年齢 | 性 | 初回診断は | RCICVSの診断に至った根拠(HP管理人の論文を読んでの感想) | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | inflammatory lesion | 当初、MRAやエコーで異常をとらえることができず、inflammatory lesionと考えた。 入院中にやっと(9回目)、エコーでa filiform stenosisを認め、18時間後には改善していた。①同じ場所に繰り返し生じたということ、②18時間という短時間でstenosisが改善したことは、動脈硬化や解離にはみられないのではないか。 |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | 当初はTIAでフォローされ、血管撮影で、狭窄性病変を捉えることができた時は、数珠状に似た形態を持っていたことからFMD | 11ヶ月後の血管撮影で改善していたことからFMDは否定的と考え、可逆的変化から、右ICA攣縮症と診断。 |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | dissection of the Rt ICA | 当初、壁内血腫がないにもかかわらず、解離と診断。血管攣縮と診断する根拠は、①MRで壁内血腫がない、②エコーで両側のICAでrecurrent high-grade stenosesを認め、これは数時間から数日で自然に改善する |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | bilateral dessection of the ICAs with underlying FMD | 血管攣縮と診断する根拠は、①MRで壁内血腫がない、②エコーで両側のICAでrecurrent high-grade stenosesを認め、これは数時間から数日で自然に改善する、③エコーで狭窄が出現した際に、血管外径も有意に減じた点 |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | hemiplegic migraine | MRA及びエコーで狭窄・改善を短期間に繰り返したことのようである その他に血液生化学検査・髄液検査・遺伝子精査で、内科的な疾患の鑑別も述べている |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | vasospasm | a tapered occlusionは解離に類似するが、壁内血腫なし(FAST-cMRI)という点と、改善するということなどからspasmと診断したようである |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | vasospasm | 短期間(1日)で改善したこと、解離は改善するには数週間かかるので異なる、他の内科的な疾患を否定 藤本②論文では壁内血腫もなし |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | vasospasm | これまでの経過、画像所見より血管攣縮と診断と記載あり 繰り返すということと短期間に改善ということか 他の内科的な疾患を否定 |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | vasospasm | IVUS使用 |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | vasospasm | 経過、画像所見からか |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | vasospasm | 繰り返す狭窄性病変、数時間から数日で改善する、CTAやエコーで壁内血腫なし 他の内科的な疾患を否定 |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | vasospasm | 繰り返す狭窄性病変、数時間から数日で改善する、CTAやエコーで壁内血腫なし 他の内科的な疾患を否定 |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | vasospasm | 繰り返す狭窄性病変、数時間から数日で改善する、CTAで壁内血腫ないようにみえる |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | dissection | 両側内頚動脈がCTAとMRAでdynamicに変化する、繰り返す、数時間から数日で改善するということか |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | vasospasm | 繰り返す狭窄性病変、数時間から数日で改善する 他の内科的な疾患を否定 |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | vasospasm | 繰り返す狭窄性病変、他の内科的な疾患を否定、血栓症、塞栓症、凝固能異常が否定的で脳血管攣縮がまず考えられたと記載あり |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | vasospasm | 繰り返す狭窄性病変、数時間から数日で改善する、CTAやエコーで壁内血腫なし 他の内科的な疾患を否定 |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | 繰り返す狭窄性病変、数時間から数日で改善する、CTAやエコーで壁内血腫なし 他の内科的な疾患を否定、遺伝子検索(antiphospholipid antibody syndrome, angitis syndrome, hemiplegic migraine)でも異常なし | |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | vasospasm | 繰り返す狭窄性病変、数時間から数日で改善する |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 前医ではhemiplegic migraine vasospasm | 繰り返す狭窄性病変、数時間から数日で改善する、MRIで壁内血腫なし 他の内科的な疾患を否定 |
20例の症例をみると、permanet neurological deficitsが残存した症例はないようです。これを鵜呑みにすると大変なことになると思いますが、極端な言い方をすると自然に治る病気のようです。
これが事実であれば、副作用や合併症のリスクを考えるとなにも治療する必要はないのかもしれません。
しかし、脳虚血症状や網膜の虚血症状を訴え、内頚動脈のsevere stenosisが認められる患者を目の前にして、自然に治るから大丈夫と泰然としていられる人(医者)はいないのではないでしょうか。
本疾患の治療については、①血管攣縮が生じなくする予防治療、②血管攣縮が生じた場合の治療が必要となります。
血管攣縮が生じた場合は、狭窄によるhemodyanamic factor とembolic factorに対して考える必要があります。
①(血管攣縮が生じなくする予防治療)が完璧に成し遂げられれば、②(血管攣縮が生じた場合の治療)を考える必要はなくなります。
ステント治療は別に取り扱います。ステント治療以外の治療で効果があったのは、下記の表で◎で示します。
ステロイド治療(Janzarik WG ② case 4、Takeuchi M case17)、星状神経節ブロック(Yokoyama case 5)、亜硝酸剤(Mosso case6)、α1ブロッカー(Moller)などです。
星状神経節ブロックの効果は一過性であり、亜硝酸剤は頭痛の副作用のため中止となっています。
抗凝固剤および抗血小板剤は、脳梗塞予防ということになります。脳血管攣縮改善を目的としたものに、Ca拮抗剤、亜硝酸剤、αブロッカー・βブロッカーなどがあげられます。切り札的なものはないようです。
ステロイドが効果あるのはアレルギーが関与しているものではないかと考察されているようです。(Takeuchi M case 17)
著者 | 初発 年齢 | 性 | 抗凝固剤 | 抗血小板剤 | Ca拮抗剤 | 亜硝酸剤 | αブロッカー βブロッカー | ステロイド | 他治療 | ステント治療 | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | ○ heparin | ○ prednisone 当初、血管炎と考えたので | ||||||
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | ○ アスピリン、チクロジピン | ○ | 禁煙 | |||||
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | ○ | ○ | ◎ パパベリン動注は短期間のみ効果あり | |||||
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | ○ | ○ フルナルジン | ◎ 経口ステロイド | マグネシウム | ||||
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | ○ | ○ | ○ | 抗てんかん剤など多剤使用したが効果なし ---- ◎ 星状神経節ブロック効果あり しかし予防効果なく頻度は減らない | ||||
6 | Mosso M | 45 | 男性 | ○ ワーファリン | ○ | ◎ 副作用で中止 | |||||
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | ○ アスピリン、シロスタゾール | ○ diltiazem、benidipine | ○ αブロッカー doxazosin | 藤本道夫 ②報告でステント(Precise) | ||||
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | ○ verapamil | △ 胸部圧迫感に対して効果あり | ||||||
9 | Dembo T | 24 | 女性 | ○ | ○ βブロッカー | isosobide 動注効果なし ☆ balloon angioplasty | |||||
10 | Moeller S | 12 | 男性 | ○ | ◎ α1ブロッカー prazosin | ||||||
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | ○ アスピリン、チクロジピン | ○ | MCA閉塞:UK動注 ◎ ICA狭窄:PTA後、アルガトロバン、エタラボン | Easy Wallstent | ||||
12 | Wopking S | 24 | 女性 | ○ | ○ | ○ | |||||
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | ○ | ○ | ○ | |||||
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | ○ | ○ | fasdil動注:効果なし ○ Ca拮抗剤動注:効果あり nicardipine | |||||
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | ○ warfarin | ○ diltiazem | Carotid Wallstent 再発するのでCarotid Wallstentを追加 | |||||
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | ○ クロピトグレル、アスピリン | ○ | ||||||
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | ○ | ○ | ○ | ◎ steroid pulse therapy oral corticosteroid | ||||
18 | Takehira K | 29 | 男性 | ○ アスピリン、シロスタゾール | ○ | ○ | Precise ProRX | ||||
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | ○ | ○ | Ca拮抗剤動注 | |||||
20 | 川口務 | 25 | 男性 | 禁煙指導 |
渉猟した範囲内で4例がステント治療を受けています。症例数が少ないので各々をみていきましょう。
著者 | 年齢 | 性 | |||
7 | 藤本道夫 ② | 46 | 女性 | Precise | 高度狭窄が認められ、症状が24時間以上継続したため、緊急でステント留置が行なわれています。 PTA(1気圧で拡張が得られ、2気圧まで拡張)、2個のself expandable stent(6x30mm 9x40mm)を留置。但し、側頭骨直下の数㎜はステントで覆うことができなかったそうです。 2年間のフォローアップで虚血発作は出現していない。 |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | Easy Wallstent | 繰り返す頚動脈狭窄症に対して、予防的にステント留置が行なわれました。この時点では狭窄はなく、PTAは必要なく、Easy Wallstent RP(6x36mm)が用いられ、頚部内頚動脈のpetrous portion直下から頚部内頚動脈全域に留置されたそうです。 |
15 | Yoshimoto H | 40 | 女性 | Carotid Wallstent 再発するのでCarotid Wallstent追加 | 繰り返す頚動脈狭窄症に対して、予防的に頚動脈分岐部にステント留置が行なわれた。 しかし、その後も、発作を繰り返し、7か月の間に2回、画像で内頚動脈血管攣縮を確認されたそうです。血管攣縮の部位は、petrous segmentの直下だったそうです。 その部位にステントを留置し、その後の24カ月は、脳虚血発作や内頚動脈血管攣縮は出現していないどうです。 問題点として、①prepetrous portionのステント留置、②若年者に対するステント治療の安全性などを列挙されています。 |
18 | Takahira K | 40 | 男性 | Rt:Precise ProRX Lt: Precise ProRX | 繰り返す頚動脈狭窄症に対して、予防的に頚動脈分岐部にステント留置が行なわれた。右はPrecise ProRX(6x30 10x40mm)、左はPrecise ProRX(6x30 10x40mm)。 右の術後に、右眼の視野の異常が出現しています。 6ヶ月のフォローアップ期間中に脳虚血発作は出現していませんが、頭痛と眼の症状は月に2-3回出現しているそうです。 |
Takahira先生の報告はショッキングです。
ステント治療は、頚部内頚動脈攣縮による脳虚血発作に対しては効果があっても、頭痛や網膜虚血症状には効果がないということを示しているのではないでしょうか。
1例のみで全ての事が説明できるわけではありません。しかし、1例を貴重な症例として考えてみると、RCICVSは単なる頚部内頚動脈攣縮ではないということになります。
permanet deficitsの有無とRCICVSの発作は生じなくなったかという点について、論文を読んで記載していきます。
診断・治療後の発作頻度について |
著者 | 初発 年齢 | 性 | permanet neurological deficitsの有無 | RCICVSの発作は生じなくなったか | コメント | |
1 | Arning C | 32 | 女性 | なし | 12ヶ月で、短時間の網膜症状が3回 | |
2 | 葛本佳正 | 26 | 男性 | なし | 記載なし | |
3 | Janzarik WG ① | 30 | 男性 | なし | 同じように発作が出現している | |
4 | Janzarik WG ② | 48 | 女性 | なし | 月に1回程度と著明に減少 | |
5 | Yokoyama H | 20 | 男性 | なし | 同じように発作が出現している | |
6 | Mosso M | 45 | 男性 | なし | 38ヶ月経過をみて発作はなし | |
7 | Yoshimoto H 藤本道夫 ② | 36 | 女性 | なし | Yoshimoto報告:同じように発作が出現している 藤本②報告:2年間発作なし | 藤本②報告:ステント |
8 | 林紀子 | 28 | 女性 | なし | 同じように月に1回程度発作出現 | |
9 | Dembo T | 24 | 女性 | なし | 記載なし | |
10 | Moeller S | 12 | 男性 | なし | 発作は減少した | α1拮抗剤prazosin |
11 | 藤本道夫 ① | 47 | 女性 | なし | 2年間発作なし | ステント |
12 | Wopking S | 24 | 女性 | なし | 記載なし | フォロー期間が記載していないので、2011.5から発作は生じなかったと記載があるものの記載なしに分類 |
13 | Huisa BN | 25 | 女性 | なし | 同じように発作が出現している | |
14 | Shimoda Y | 25 | 女性 | なし | 記載なし | フォロー期間が記載していないので、発作は生じなかったと記載があるものの記載なしに分類 |
15 | Yoshimoto H | 29 | 女性 | なし | 24か月、脳虚血症状やMRAでvasospasmなし | ステント 脳虚血症状はなしという表現 網膜虚血症状は残ったのか |
16 | 笠原知樹 | 42 | 女性 | なし | 記載なし | |
17 | Takeuchi M | 23 | 男性 | なし | 4年間で2回、短い発作が出現 | ステロイド治療 |
18 | Takehira K | 29 | 男性 | なし | 6ヶ月で、脳虚血症状の出現はない。ただし、月に2-3回、頭痛と網膜虚血症状は出現 | ステント |
19 | 舟生勇人 | 23 | 女性 | なし | 同じように発作が出現している | |
20 | 川口務 | 25 | 男性 | なし | 同じように発作が出現している |
うすい緑は発作が起きなくなったもの、うすい黄色は発作頻度が変わらないもの、うすいピンクは頻度が治療後も全く変わらないものを示しています。
病態生理について、記載があるものはあまりありません。
①葛本佳正のニコチン仮説、②Moeller先生の交感神経説のふたつのみのようです。
血管攣縮ですから、1)交感神経の関与、2)酸化ストレスの関与、3)血管内皮の異常などが、すぐに病態生理の候補にあがると思います。
葛本佳正のニコチン仮説については、喫煙のコーナーで紹介しました。
ここではMoeller先生の交感神経説を紹介します。出典を再度示します。
Extracranial internal carotid artery vasospasm due to sympathetic dysfunction. Neurology 2012; 78: 1892-1894
症例は25歳男性。12歳の時から右の一過性黒内障、左片麻痺を繰り返して起こしていました。発作は数時間。今回の画像検査では、右側の急性期脳梗塞、両側の陳旧性脳梗塞(いずれもwatershed)、エコー検査では、重度の左頚部内頚動脈血管攣縮と軽度の右頚部内頚動脈血管攣縮を認めています。発作後は無症状です。
狭窄は、頸動脈分岐2㎝後と頭蓋底の間のintermediate ICA portionに認められています。
Autonomic testing:として、CPT(cold pressor test): increasing sympathetic cardiac and vasomotor activityとMDB(metronomic deep breathing): activating parasympathetic cardiovascular modulationを行っています。
CPTスタート後、left ICA peak flow velocityは180から550cm/sに上昇し、ICAは局所的にsubtotal narrowingを伴い、MCAは76cm/sからほとんどno flowとなっています。しかし、この間、無症状です。引き続き1分間に6回の深呼吸を6分間行い、副交感神経を刺激します。するとICAの血管攣縮は回復し、MCAは60cm/sに戻っています。
数日後、この検査の時よりも酷いvasospasmが出現し、α1 blockerであるプラゾシンを投与しvasospasmは改善しています。
これらの結果により、Extracranial internal carotid artery vasospasmは交感神経系の賦活により惹起されることが示されました。Moeller先生は、vasospasmはsympathetic vasomotor stimuliに対する感受性の亢進によるものではないかと考え、①adrenergic vasomotor receptorの感受性の亢進や②交感神経系の亢進などを指摘しています。
また、α1 blockerであるプラゾシンが効果があることもこの機序を支持しています。
Moeller先生は、Extracranial internal carotid arteryのvasospasmがintermediate ICAに限局していることについて、ICAの発生の起源が関与していると考えています。
root of ICA: third aortic arch
intermediate portion of ICA: dorsal aorta
distal portion of ICA: first aortic arch
sympathetic vasomotor innervationの発生はICAの発生に似ているそうです。
vasospasmがintermediate ICAに限局するのは、この限局した領域のsympathetic nerve terminalやvasomotor receptorの過剰な出現によるものではないかと考えています。
(補足)循環器病の診断と治療に関するガイドライン2013年版をみてみます。寒冷昇圧試験CPT(cold pressor test)は、安静時に右手を手首まで2分間浸して血圧、心拍数の変動を評価する検査だそうです。
冠動脈攣縮による狭心症の誘発頻度は54-100%だそうです。
尚、Takahira先生の症例でCPTが行なわれていますが、内頚動脈攣縮は起きませんでした。
承: 考察 |
内頚動脈の部位について | 成因について 交感神経系の関与 | 血管攣縮は分岐2-4㎝に起きるのは何故か | 年齢・性比 |
何故、繰り返すのか | 頭痛の原因は 頚部内頚動脈攣縮か | 網膜虚血の原因は 頚部内頚動脈攣縮か | 脳虚血は 何故、広範な脳梗塞とならないのか |
cardiac artery vasospasmをきたすのはなぜか | より正確な診断を目指して | 治療の未来像 | ひと夏の夢 |
血管攣縮の原因を考える際、その部位(高位)も重要です。しかし、頚部内頚動脈の頚部は、比較的あいまいな表現です。
ここでは、頚部の定義についてふれておきます。最初に井上先生の論文(頭蓋外内頚動脈の微小外科解剖.顕微鏡下手術のための脳神経外科解剖Ⅷ. p3-8)を参考にさせていただきます。
内頚動脈は、頚部(cervical)、錐体部(pyramidal)、海綿状脈洞部(cavernous)、脳部(cerebral, cisternal)に分類されます。
頚部(cervical): 内頚動脈は、甲状軟骨の上縁で、総頸動脈から起こります。内頚静脈の内側、咽頭の外側に沿って、頭蓋底に達します。この部分が頚部の内頚動脈です。
錐体部(pyramidal)::頭蓋底に到達した内頚動脈は、頚静脈孔の前方に存在する頭蓋底入口部から頸動脈管(carotid canal)を経て、petrous apexに存在する頭蓋内出口部(破裂孔)まで走行し、この部分が錐体部の内頚動脈になります。
これ以降は海綿状静脈洞部、それ以降が脳部となります。
錐体部の内頚動脈は、carotid canal部分は骨膜で覆われ、その周囲には静脈叢があり、上頚部交感神経節から交感神経線維が上行します。
錐体部の内頚動脈は、錐体骨内を垂直に入り、genuに到達します。この間を垂直部(vertical portion)と呼び平均10.5mmだそうです。その後、genuから中頭蓋窩を平行に走り、petrous apexの破裂孔から海綿静脈洞に入る部分を水平部(horizontal part)と呼び平均20.1㎜だそうです。
前の方からみてみるとこんな感じで、carotid canalもこのようになります |
図に頚椎を描き加えると上図のようになります。
日本人の総頸動脈から内頚動脈と外頚動脈の分岐部は、C3椎体下端付近とされています。
RCICVSの攣縮の部位(高位)は、舟生先生はC2レベル、Shimoda先生はC1-C2レベル、多くの先生が分岐後 2-4㎝のところに存在したと報告しています。
図にすると下図のようになります。
RCICVSの成因として、Moeller先生が指摘した交感神経系について考えたいと思います。
内頚動脈や脳血管の交感神経系の節後神経の起始部は、上頚神経節であることは私でさえ知っています。
上頚神経節(superior cervical ganglion SCG)について整理してみます。
とても興味深い報告があります。峯田洋子先生の論文と十時忠秀先生の論文です。
内頚動脈と外頚動脈は、上頚神経節(SCG)のみから投射を受け、総頚動脈遠位部はSCG、MCGから、中間部はSCG、MCG、SG(stellate ganglion)から、近位部はMCG、SGから投射を受けていたそうです。さらに、これらの動脈は両側性支配(同側性優位)であったそうです。
心臓の交感神経支配は両側性で、中頚神経節(middle cervical ganglion)MCGの関与が大きく、SGの遠心性線維は洞房結節、心房に終始していたそうです。洞房結節に至る線維は右のMCG及びSGが多く存在していたそうです。
RCICVSの出現部位がC2レベル付近、上頚神経節がC2付近、何か関係があるのでしょうか。そして、同側性優位の両側性支配、症状が一側から対側に移動したり、両側だったり、なんとなく理解できます。
著者 | タイトル | |
1 | 峯田洋子 | イヌの外頚動脈・内頚動脈・総頚動脈および大動脈に分布する交感神経節後線維の起始について.麻酔 1992: 41:547-553 |
2 | 十時忠秀 | 星状神経節の解剖.ペインクリニック学会誌 1994: 1:3-11 |
superior cervical ganglionについては、ネットでsymapathetic chainというものがヒットしました。
これを参考にさせていただきます。それ以上の出典はよくわかりません。
SCGからの節後線維が内頚動脈を司っています。では、SCGへの節前線維の起始部はどこでしょうか。
SCG: superior cervical ganglion, SG: stellate ganglion |
SCGへの節前線維の起始部は、Th1-2(3)レベルの脊髄側角IMLです。IMLの中枢はどこでしょうか。
Neural control of the heart. Palma JA. Americal Academy of Neurology 2014; 83: 261-271の論文を参考にシェーマを作ってみましょう。
IMLには、扁桃体と視床下部やPAGから連絡があります |
頚部内頚動脈血管攣縮の部位(高位)は、舟生先生はC2レベル、Shimoda先生はC1-C2レベル、多くの先生が分岐後 2-4㎝のところに存在したと報告しています。
この項は、かなり後から記載しているので、記載の順が前後しています。
RCICVSの原因が交感神経系、特にCANの関与ということを考えるようになったころ、弾性型血管と筋型血管という分類が頭の中でふらふらと浮かんできました。
そして、エルゴタミン製剤による頚部内頚動脈血管攣縮の論文をよみ、血管攣縮は、筋型血管で生じているのではないかと考えるようになりました。
初発年齢は20代が多く、女性に多いという特徴があります。
女性に多いことを考えるとまずエストロゲンの関与が考えられます。上記の20例のケースをまとめた後、1篇の論文が飛び込んできました。
入手困難で、佐藤先生に別刷を送っていただきました。お忙しい中、対応して頂きありがとうございました。
著者 | タイトル | |
Sato K. | Recurrent cervical internal carotid artery vasospasm relating to menstruation with endothelial dysfunction. Journal of the Neurological Sciences 2016; 365: 72-73 |
RCICVSの20例では、全例で繰り返す、しかも何度も繰り返すという特徴がみられました。
論文を読んでみて、数十年にわたり月に数度繰り返すものと、一度起きると頻回に繰り返すものがあるようでした。この点はもう一度、論文をみなおす必要があります。
では、繰り返すのは何故でしょうか。
これがわかれば、この疾患の謎がきっと解けたことになるでしょう。
解明の糸口は、①エストロゲン、②交感神経の関与、③頭痛の存在などがあげられます。
頭痛は、頚部内頚動脈の攣縮によって生じるのか。
①頭痛は、頚部内頚動脈の攣縮によって生じるわけではない。
②頭痛は、頚部内頚動脈の攣縮によって生じるかもしれない。
①頭痛は、頚部内頚動脈の攣縮によって生じるわけではない。このことは、Takahira先生の報告に答えがあるのではないかと考えました。
Takahira先生の症例は、両側の頚部内頚動脈血管攣縮に対してステント治療を行ったところ、両側の頚部内頚動脈血管攣縮は生じなくなったが、網膜の虚血症状と頭痛は、月に2-3回の頻度で出現したままだというのです。
まだまだ検討が必要です。症例の蓄積が待たれます。
②頭痛は、頚部内頚動脈の攣縮によって生じるかもしれない。このことはどうでしょう。このことは、舟生先生がおっしゃっておられるように、国際頭痛分類第3版に照らし合わせ、6.5頚部頚動脈または椎骨動脈の障害による頭痛の診断基準に合致します。
未知の疾患はまだあると思います。症例20の頭痛をもう一度みてみましょう。
頭痛の性状
1.頭痛は軽い頭痛と酷い頭痛があり、軽い頭痛は頻度が多い、酷い頭痛は月に1-2回。
2.持続時間は軽い頭痛は1-2分、酷い頭痛は長くて1-2時間。
3.痛む場所は目の後ろ、目玉。
4.ズキズキ?
5.できればじっとしていたい。
6.光過敏あり。音や臭いの過敏はない。
頭痛と運動麻痺の時間関係
1.頭痛だけ。
2.運動麻痺→頭痛が多い。
3.頭痛→運動麻痺
4.運動麻痺だけ?
5.頭痛と麻痺が一緒に
脳虚血症状と眼の症状
1.眼の症状:まぶしい。頭痛とほぼ同じに?、右にも左にも。
2.運動麻痺:右にも左にもくる。30分以内。
3.運動麻痺に引き続いてふるえがくることがある。この時は、人に見られないように陰でじっとしている。
4.しびれなどもあるよう
5.言葉:言葉と脱力が一緒にくることはない?
その他
1.喫煙:喫煙でTIA症状がひどくなるのは自覚している。
2.胸の痛み:胸の痛みはある、マラソンの時のような苦しさ。気にしていない、何分も続くわけではない。
私が問診をしたのは8年前です。その時に地方の勉強会で発表したスライドを参考にしました。
頭痛と運動麻痺のところをみてみると、Mosso先生が論じていらっしゃるように、頭痛と運動麻痺の時間的関係は無関係のようです。むしろそれ以上で、頭痛だけという記載もあります。
酷い頭痛は月に1-2回で、1-2時間。痛む場所は眼の後ろ、目玉(患者の表現)です。できればじっとしていたい、光過敏など片頭痛ににた訴えもありますが、どうしても頭痛外来ではこのような事をきいてしまいます。
脳虚血症状としては、運動麻痺、震え、言葉の障害です。眼の症状は網膜虚血症状というよりも眩しさを訴えています。
ここで、強調したいことは、脳虚血症状や網膜虚血症状と同じように、頭痛もひとつの症状として存在しているのではないかということです。
私は、内頚動脈にシビアな血管攣縮が起きれば、網膜の虚血症状が出現しても当たり前だとばかり思っていました。
いくつかの問題提起がありました。
この問題については、【網膜虚血症状について】で一応の結論を出しました。
Mosso先生のophtalmic artery・retinal artery・ICA vasospasm説とTakahira先生のposterior ischemic optic neuropathy説です。
Takahira先生の論文は興味深く、ステント治療後も、頭痛と網膜症状は残ったとするものでした。
Mosso先生は、より頻度の多い内頚動脈のみの血管攣縮では網膜虚血症状は起こらず、内頚動脈に加え眼動脈や網膜動脈にも血管攣縮が出現した場合に網膜虚血症状が出現すると考えておられるようです。明快です。
シェーマで表します。
内頚動脈のみの血管攣縮では網膜虚血症状は出現しない | 内頚動脈に加え眼動脈や網膜動脈にも血管攣縮が出現した場合に網膜虚血症状が出現する |
Takahira先生の症例を考えてみます。Takahira先生もMosso先生のようにえ眼動脈や網膜動脈に血管攣縮が起きているのではないかと考えられましたが、数日後の検査では各々の血管に既に血管攣縮はなく、posterior ischemic optic neuropathy説を唱えられました。
私なりに考えてみて、検査が少し遅かったからではないかと考え、Takahira先生の症例をMosso先生の説に従って、シェーマを作ってみます。Takahira先生の症例では、ステント留置後も網膜の虚血症状が月に2-3回出現しているそうなので、Mosso先生の説は合点がいきます。
頚部内頚動脈にステントを留置しても、眼動脈に攣縮が出現すれば、 網膜虚血症状が出現するのではないでしょうか。 |
IML→SCG→内頚動脈と眼動脈ということでしょうか |
上記のシェーマを描いた後、眼動脈や網膜の血管攣縮の論文はないのかなあとネットをみていたら、一つの論文が目につきました。紹介します。
著者 | タイトル | |
Shim DH | Vasospastic amaurosis fugax diagnosed by cerebral angiography J stroke Cerebrovascular Dis 2015; 11: e323-5 |
症例は65歳、男性。2年来、繰り返す左の視力障害です。頻度は1日に2回から週に5回、持続時間は5分。痛みはありません。既往に高血圧があり、喫煙歴あり、May-Turner症候群があります。MRIやMRA、眼科診察で異常はなかったそうです。また、心エコーやホルター心電図でも異常はなかったそうです。
眼動脈や網膜動脈精査のため、DSAが行なわれています。左内頚動脈のDSAで、左内頚動脈の血管攣縮と左眼動脈の血管攣縮が出現したそうです。カテーテルを総頚動脈まで降ろすと内頚動脈や眼動脈の血管攣縮は解除されたそうです。この事象は再現性があったそうです。
そして、患者は、DSA中にいつもと全く同じ眼の症状が出現したと言ったそうです。治療はニモジピン90㎎を投与し、その頻度は著明に減少したそうです。
論文を読んでイメージ図を示します。
内頚動脈からのDSA 頚部内頚動脈と眼動脈の攣縮 | カテーテルを総頚動脈におろすと頚部内頚動脈と眼動脈の攣縮は改善 |
私見:この症例は、RCICVSである可能性が高いのではないでしょうか。
そして、カテーテルによる機械的刺激により、頚部内頚動脈と眼動脈に血管攣縮を惹起したと考えられます。
カテーテルによる機械的刺激は頚部内頚動脈に加わっているので、頚部内頚動脈に血管攣縮が惹起されるのは理解できます。しかし、眼動脈の血管攣縮はどう説明すればいいのでしょうか。
短絡的には、頚部内頚動脈の交感神経刺激が眼動脈の交感神経刺激を引き起こしたのではないでしょうか。
さて、この症例を、RCICVSの特徴と比較してみます。
年齢・性比 | 繰り返すという特徴 | 初発症状 | 全体的な症状の変化 |
年齢は24歳から55歳 初発年齢は12歳から48歳 性比は7:13 | 全例 | 脳虚血症状が14例(70%) 眼症状10例(50%) 頭痛4例(20%) | 症状の増悪8例(40%) |
65歳、男性 初発は63歳 | 日に2回から週に5回 | 網膜虚血症状 | 症状の悪化なし |
頭痛について | coronary artery spasm | 脳虚血症状 | 網膜虚血症状 |
既往に片頭痛:3例(15%) 発作中に頭痛:9例(45%) | 12例(60%) | 18例(90%) | 11例(50%) |
なし | 記載なし | 記載なし | あり |
喫煙について | cardiovascular risk ピル、その他の誘因 | 罹患側は、 一側か両側か | 持続時間など |
10例(50%) | 一側のみ:6例(30%) 両側:14例(70%) | 数10分:3例 数時間から数日:18例 2例 | |
あり | 血管撮影で誘発 | 一側のみ | 5分 |
いつから、 1ヶ月に1度という表現など | 脳画像(MRI) | 画像(血管攣縮) | 血管攣縮の部位 |
1ヶ月に1度という表現:7例(35%) | |||
2年前から | なし | DSAで確認 | 頚部内頚動脈と眼動脈 |
画像(脳血流) | 初回診断、RCICVSの診断に至った根拠 | 治療 | ステント治療 |
4例(20%) | |||
施行なし | Ca拮抗剤 | なし | |
予後 | 病態生理について | ||
良好 | |||
良好 |
この症例はRCICVSに相当するのではないかと考えます。まとめた20症例と明らかに異なるのは①年齢、②動脈硬化性疾患の併発です。持続時間も5分と短いようです。
しかし、20症例のまとめといってほんの20症例です。ある報告があるとそれに追随する報告が続くので、1例1例を吟味して検証していく必要があります。
RCICVSでは、画像では、1)watershed infarction、2)small infactionが認められています。
何故、広範な脳梗塞とはならないのでしょうか。頚部内頚動脈攣縮はシビアのようにみえても、functional failureにはいたっても、membrane failureにまでは至らないということでしょうか。
cardiac artery vasospasmをきたす機序が交感神経系の関与だとします。
心臓の自律神経系は複雑です。
十時先生の論文を思い出してみます。心臓の交感神経支配は、両側性で、中頚神経節(middle cervical ganglion)MCGの関与が大きく、SGの遠心性線維は洞房結節、心房に終始していたそうです。洞房結節に至る線維は右のMCG及びSGが多く存在していたそうです。
シェーマで表すとこんな感じでしょうか。
IML→MCG(SG)→Heartということでしょうか |
全てが、IML→SCG、MCG(SG)→内頚動脈、眼動脈、心臓と一つの流れでつながりました。
その根幹は?もちろんIMLではありません、CANということでしょうか。
血管炎や自己免疫疾患、外傷などを除外し、最終的に大切なのは解離性病変との鑑別です。
今回のシリーズでは、①壁内血腫の有無などで解離性病変を否定、②繰り返すことで攣縮を想起といったパターンが多いようです。
つまり、除外診断に近い感じです。
必要なのは、椎骨動脈解離で利用されるBPASのようなものでしょう。
Dembo先生のIVUSで示されたような攣縮の画像が最も優れていると思います。
誰もが容易に診断できる、血管の全層が正確で鮮明な画像を描出できる検査(MRIまたはCT)が必要だと思います。
血管内腔をみる検査では、鑑別は困難です。 |
CAN→IML→SCG、MCG(SG)→内頚動脈、眼動脈、心臓という経路の仮説が正しければであれば、この経路を断ち切る方法がよいと考えられます。
内頚動脈や眼動脈をターゲットとするならば、SCGを自己でブロックするデバイスが開発されればよいのではないでしょうか。
あるいはCANをターゲットとすのであれば、パーソナルタイプのTMSとかどうでしょうか。
2019年 夏。終わってしまいました。
お昼休みに、会社の机からみる空の色も少しずつ秋色になってきました。
今回は、こんな感じで終わってみたいと思います。
CAN→IML→SCG、MCG(SG)→内頚動脈、眼動脈、心臓 |
上記により、頚部内頚動脈血管攣縮、眼動脈血管攣縮、coronary artery spasmと考えます。
頭痛の原因ですね。pain matrix、 CAN(central autonomic network)などの中枢説でしょうか、それとも末梢説でしょうか。
転: RCICVSに含めなかった類似疾患 |
migrainous vasospasm | エルゴタミン製剤によるvasospasm | マリファナ | 1回の発症により悪化した症例の報告 |
エルゴタミン製剤は少しだけ使ったことがあります。
私が、頭痛を専門的に治療を開始した時にはトリプタン製剤が既に販売されており、私のほうから患者さんにエルゴタミン製剤をすすめたことはありません。カフェルゴットは既に販売中止されていました。クリアミンがあるだけです。
だからというわけでもありませんが、エルゴタミン製剤について詳しい知識があるわけではありませんでした。血管が異常に収縮するというくらい知識です。
エルゴタミン製剤によるvasospasmの世界にちょっとだけ入ってみましょう。
著者 | タイトル | |
1 | Altuna-Azkargorta M | Carotid ergotism with retinal ischemia American Academy of Neurology 2018; 8: 153-155 |
2 | Senter HJ | Cerebral Manifestations of Ergotism Stroke 1976; 7: 88-92 |
3 | Liegl CA | Ergotism: case report and review of the literature Int J Angiol 2016; 25: e8-e11 |
1の論文の症例:33歳女性で、dohydroergotitamine(0.5mg)内服。
その前に数日間でgrapefruit seed consumption(Vit V 3000mg/100ml natural bioflavonoids 400mg/100ml)を推奨量の10倍を内服したそうです。
その後、網膜虚血による右目の黒内障が出現しています。画像では両側の頚部内頚動脈狭窄(bilateral progressive filiform stenosis)が認められています。
24時間後には自然に改善しています。エコー検査では動脈壁は正常で動脈硬化や解離などは認められていません。
その数時間後に両側の腸骨動脈と大腿動脈のfiliform stenosisが認められています。
考察では次のように述べられています。
ergotism(エルゴタミン製剤による副作用)の主な作用は、血管攣縮です。これは、全ての臓器のmedium caliber vesselに生じますが、主に下肢に出現します。頚動脈に出現することは稀と考えられています。
治療は、エルゴタミン製剤の内服を中止することです。次に血管拡張薬(PGE methylpredisolone)がsecond lineとしてあげられます。
エルゴタミン製剤の治療域は狭く、cytochrome P450 3Aによって代謝され、酵素阻害剤によりbioavailabilityは増加します。
グレープフルーツは、cytochrome P450 3A isoenzyme inhibitorです。
grapefruit seed consumptionは、dohydroergotitamineのbioavailabilityを増加させます。
エルゴタミン製剤による血管攣縮の特徴は、medium caliber vessels bilateral symmetric filiform stenosis with normality of arterial wallだそうです。
2の論文の症例:36歳女性。
この症例は、エルゴタミン製剤による頚部内頚動脈の血管攣縮の古典ともいうべきものです。
両側の頚部内頚動脈の血管攣縮があり末梢での脈拍も消失しています。
但し、カフェルゴットを17歳から内服しています。3週間前から酷い精神的なストレスがあり頭痛の頻度が増していたそうです。そして、今回の症状が出現しています。
今風に考えてみると、酷い精神的なストレスやストレスにより辺縁系が刺激され、ここにカフェルゴットの刺激が加わったということでしょう。
このように考えると、エルゴタミン製剤による頚部内頚動脈の血管攣縮もRCICVSと区別することも難しいのかもしれません。
3の論文の症例:38歳女性。この症例は頚部内頚動脈血管攣縮の症例ではありません。
ergotismの症例です。片頭痛がありcaffeine-ergotamine製剤を内服、両側性の外腸骨動脈の狭窄がみられ、動脈硬化などが認められずergotismと診断されています。
エルゴタミン製剤の主な薬理学的作用は、血管平滑筋のα-adrenergic receptorを刺激し、血管収縮を起こすことです。
血管攣縮のため、血管内皮が障害され、血栓症のリスクもまし、不可逆性の虚血に陥ってしまいます。また、血管内皮の脱落は、無防備な血管平滑筋が血液中のカテコールアミンや他の血管運動アミン、autacoids等に曝されることになります。
エルゴタミン製剤は肝臓で代謝されます。特にcytochrome P450 isoenzyme CYP3A4によって代謝されます。この項は大切ですが省略します。薬剤や食品に注意ということです。喫煙とカフェインはergotismのリスクを増すそうで
す。
エルゴタミン製剤の血管収縮作用は、medium-sized vessels、特に外腸骨動脈と浅大腿動脈をtargetとします。何故でしょうか。
動脈壁の構造を考えるといいそうです。
ergotismにおいて、コラーゲンとエラスチンの比、血管平滑筋と結合組織の比が、medium-sized vesselsに血管攣縮が生じる重要なfactorになるそうです。
the lowest collagen-to-elastin ratioが、下肢近位部の動脈で認められるそうです。この事が、エルゴタミン製剤の血管収縮の好発部位の原因となっているそうです。その他にelastic arteryがより効果的に薬剤を分配されていることなども挙げられています。
長引く血管収縮により血管内皮が障害され、血管平滑筋が無防備となり悪循環をきたします。
まとめと感想:①エルゴタミン製剤により血管攣縮が出現する
②medium-sized vessels、特に外腸骨動脈と浅大腿動脈をtargetとする
③内頚動脈にも出現するが稀
④機序は血管平滑筋のα-adrenergic receptorを刺激する
⑤弾性型血管は硬くspasmを起こさず(起こすことができず)、筋型血管(移行部)でspasmを起こしていると思いましたがダメでしょうか
マリファナについてほとんど知識を持ち合わせていません。
頭痛の治療で、cannabidについて一度調べたことがあります。受容体とか作用機序とか調べましたが、ピンときませんでした。
依存について何度か本を読んだことがありますが、マリファナ、ヘロイン、覚醒剤、LSDなど全く区別がつかないのです。よく、芸能人などが、これらの物質を用い逮捕されるのを報道され、またかと思うくらいです。
マリファナ:大麻です。
麻科の植物で大麻草です。マリファナは、葉を乾燥させたものでこれをタバコのようにして吸煙するそうです。
大麻の有効成分は、tetrahydrocannabinol(THC)で、これが脳のカンナビノイド受容体(CB1受容体)に結合し、陶酔感・多幸感や幻覚をもたらすそうです。
身体作用として、心拍数・血圧の軽度上昇、眼球結膜の充血、口渇、めまい、嘔気嘔吐がみられるそうです。
医療用としては疼痛に対して海外で使用されており、日本では使用されていません。
マリファナによる頚部内頚動脈血管攣縮について考えてみましょう。
著者 | タイトル | |
1 | Vachhani P | Recurrent extracranial internal carotid artery vasospasm associated with recreational marijuana use |
1の論文の症例:24歳男性で、recreational marijuana use により、RCICVSを生じた症例です。
1年に約3回程度、左片麻痺、言葉の障害を繰り返していたそうです。発作は3-4時間持続したそうです。
頻度が増し、1ヶ月に1度程度に増えてきたそうです。4年前にはバイク事故を起こし左内頚動脈解離と診断されています(恐らく誤診?)。
今回は、MRIでは右側にwatershed infarctionがあり、CTAでは右頚部内頚動脈の閉塞と左の頚部内頚動脈狭窄を認めています。その後、患者は神経脱落症状なく退院し、Midodrine(高血圧の治療のため)とAspirinが処方されています。
5か月後に同じような症状が出現し、DSAで両側頚部内頚動脈の狭窄が出現しています(just distal to the bulb)。2年後に同じような発作が出現しています。その5か月後に同様の発作が出現しています。症状は数日で改善しています。
Discussion: この症例は、recreational marijuana useによるextracranial ICA vasospasmの症例です。この患者は週に2回は、マリファナを使用しており、症状出現前にはマリファナ喫煙を行っていたそうです。症状は数時間から数日でおさまるそうです。
recreational marijuana useでは、coronary artery vasospasmによる心筋梗塞やRCVSの症例が報告されています。
cannabisによる脳卒中が機序はよく知られています。交感神経系の関与が考えられています。
著者 | タイトル | |
1 | Sawa NN | Poor outcome associated with probable bilateral extracranial ICA vasospasm BMJ Case Rep 2013; doi:10.1136/bcr-2013-009767 |
私はこの症例をRCICVSに入れませんでした。理由は①繰り返していないから、②一度も改善していないから、③発作の時間が数時間-数日間でないから、④画像所見が類似していないから などです。
67歳で初発という点も気になります。別の類の攣縮または血管炎ではないでしょうか。症例をみてみます。
67歳女性、脳卒中の危険因子はなく片頭痛もありません。喫煙歴もありません。四肢麻痺で発症し、MRIで両側のwatershed typeの脳梗塞があり、3DCTAでは両側のICAが全長にわたり狭窄しています。この所見はRCICVSの狭窄の所見と異なるようです。第16病日で亡くなられています。
考察では両側の頭蓋外内頚動脈血管攣縮として3例(Janzarik WGらの報告とYokoyama Hらの報告)をあげています。これらの症例は、前述したように繰り返し症状が出現しています。
結: RCICVSのまとめ |
2022脳卒中学会発表 |
2021年11月にRCICVSについて頭痛学会で発表しました。コロナ禍で聴衆は10名程度でした。
2022年3月脳卒中学会に演題を提出したら、通ってしまいました。頭痛学会は発表時間は7分でしたが、脳卒中学会は5分でweb学会です。
スライドを減らせるだけ減らしました。下にその14枚を示します。