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真夏の夜の夢 RCVS-amygdala/locus ceruleus hypothesis (可逆性脳血管攣縮症候群-扁桃体/青斑核仮説) |
RCVS 簡単にまとめてみます。新しい情報を追加します。
①突然の激しい頭痛を繰り返す。初回頭痛発作から6.4日の間に平均4回とされています。
②雷鳴頭痛をきたす疾患の中で、遭遇することの多い疾患である。
③当院の頭痛外来では、若い女性(妊娠・産褥期)、閉経期前後の女性。当院では片頭痛の既往がある人がほとんどでした。
④画像でRCVSを確認することで診断します。
初回のMR検査では描出されず、2回目、3回目で診断されることもあるので注意が必要です。
⑤初回雷鳴頭痛からの平均日数と頻度。脳出血:2.2日(0-12%)、くも膜下出血:4.6日(0-30%)、
脳梗塞:9.5日(6-8%)、PRES:4.0日(8-9%)です。
脳出血は、皮質下で小さいことが多く、くも膜下出血も皮質下という特徴があります。
このようなエピソードはないほうが多いようです。
⑥誘因:誘因がないこともあります。誘因としては薬剤、入浴・シャワー、性交、排便、いきむなど・・・・。薬剤は、血管収縮物質の使用などが報告されています。
⑦治療:誘因を避ける。血圧に注意。Ca拮抗剤。
⑧頭痛外来を受診される患者様の予後は良好?。(脳卒中を起こすと予後は悪化)
⑨再発率は5%で、再発が稀というわけではない。
⑩雷鳴頭痛のないRCVSも存在する(約5%)
RCVS 簡単にまとめてみます。
①突然の激しい頭痛を繰り返す。初回頭痛発作から6.4日の間に平均4回とされています。
②当院の頭痛外来では、若い女性(妊娠・産褥期)、閉経期前後の女性。当院では片頭痛の既往がある人がほとんどです。
③画像でRCVSを確認することで診断します。
初回のMR検査では描出されず、2回目、3回目で確認されることもあるので注意が必要です。
④初回雷鳴頭痛からの平均日数と頻度。脳出血:2.2日(0-12%)、くも膜下出血:4.6日(0-30%)、
脳梗塞:9.5日(6-8%)、PRES:4.0日(8-9%)です。
脳出血は、皮質下で小さいことが多く、くも膜下出血も皮質下という特徴があります。
このようなエピソードはないほうが多いようです。
⑤誘因:誘因がないこともあります。誘因としては薬剤、入浴・シャワー、性交、排便、いきむなど・・・・。薬剤は、血管収縮物質の使用などが報告されています。
⑥治療:Ca拮抗剤。
⑦頭痛外来を受診される患者様の予後は良好。(脳卒中を起こすと予後は悪化)
⑧何故?
何故、この病気が起きる? 何故、頭痛? 何故、血管収縮? ?????
突然の激しい頭痛。嘔気嘔吐を伴う。第一に考えなければならないのは、くも膜下出血です。このほかに、脳出血、動脈解離(特に椎骨動脈解離)、静脈洞血栓症、下垂体卒中、未破裂脳動脈瘤、低髄液圧症候群などを除外しなければなりません。
これらの二次性頭痛が除外されたら、一次性雷鳴頭痛になります。
鑑別しなければならない頭痛に、RCVSによる頭痛が加わりました。
これまで、RCVSは、6.7.3 中枢神経系の良性アンギオパチーによる頭痛に含まれていましたが、2013年6月の国際頭痛分類第3版ベータ版の中に、6.7.3 Headache attributed to reversible cerebral vasoconstriction syndrome (RCVS)として新しく分類され、診断基準も明記されました。
ここではその診断基準を紹介します。尚、診断基準は、日本頭痛学会から日本語版が発表され次第、和文に変更いたします。
6.7.3 Headache attributed to reversible cerebral vasoconstriction syndrome (RCVS)
Diagnostic criteria:
RCVSによる頭痛の特徴は、一言でいうと繰り返す雷鳴頭痛です。誘因として、性交、運動、バルバサルバ負荷、感情、入浴、シャワーなどがある場合があります。
RCVSは、未だ不明な点が多く今後解明されていくものと考えられます。
入浴関連頭痛の患者様が来院され、当サイトで2013年5月にRCVSについて紹介いたしました(この後にICHD3β版が公表されました)。
稀に入浴やシャワーなどで、突然の激しい頭痛を訴えて来院される患者様がいらっしゃいます。くも膜下出血などの脳卒中や椎骨動脈解離などの二次性頭痛を否定することが重要です。これらが除外されたら・・・・。
入浴関連頭痛という頭痛があります。入浴やシャワーなどで突然に激しい頭痛をきたすもので、2000年に根来先生が発表されました。その後、いくつかの症例報告が発表され、2008年にWang先生らによって21例が報告されました。
ここではWang先生らの論文を紹介します。
この論文での入浴関連頭痛の診断基準は、1)国際頭痛分類第二版の一次性雷鳴頭痛の診断基準を満たす、但し、発作の持続時間は除く、2)入浴時に1)で示した頭痛発作が2回以上ある、というものです。
症例数は21例です。Wang先生らの頭痛専門のセンターで同時期の治療した症例数は5338例で、21例という症例数は0.4%に相当します。全て女性で平均年齢は54±8歳です。13例が閉経期で、1例が分娩後3ヵ月です。入浴が最初の頭痛発作の引きがねになったのは9例(43%)です。18例(86%)では、体に暖かいお湯をかけて瞬時に頭痛が出現しています。この頭痛が起きる期間は、6-34日間(平均14日)で、その間に平均すると5.1±3.6回の頭痛発作が出現しています。
尚、15例(71%)では、入浴時以外にも頭痛を経験しています。つまり、入浴関連頭痛は、入浴により惹起される頭痛ですが、入浴以外でも頭痛が惹起されることがあります。
入浴の方法 | 19名がシャワー、2名がシャワーとバスタブ |
タイミング | シャワー開始直後に18名(86%)、中頃に2名(10%)、終わり頃に1名(5%) |
お湯は | warm water(11名 52%)、hot water(5名)、cold water(2名)、温度関係なし3名 |
お湯をかけた場所 | 胸(11名 52%)、髪(6名 29%)、 顔(2名 10%) |
頭痛の性状 | 爆発するような頭痛18名(86%)、拍動性頭痛14名(67%) |
頭痛の部位 | 両側性13名(62%) 両側後頭部8名(38%) |
頭痛の持続時間 | 平均2時間(30分から30時間) |
随伴症状 | 嘔気6名(29%)、 嘔吐5名(24%)、光過敏3名(14%)、音過敏3名(14%) |
入浴以外の誘因 | 運動(9名 43%)、トイレ(9名 43%)、咳(5名 24%)、怒り(3名 14%)、 性行為(2名、10%)、歌う(1名 5%) |
MRAは全例に施行され(第2病日から第76病日にかけて)、13例(62%)に多発性分節性脳血管収縮(multiple segmental arterial constrictions)を認めています。最近、雷鳴頭痛の原因として注目されている、いわゆるRCVS(reversible cerebral vasoconstriction syndrome)です。中大脳動脈領域12例(57%)、後大脳動脈9例(43%)、前大脳動脈4例(19%)です。頭痛出現後に徐々に改善していきます。血管収縮が出現した群と、出現しなかった群とでは、MRI施行時期に有意な差はなかったそうです。MRIでは2例でreversible posterior encephalopathyを認めています。
治療は、Ca拮抗剤という降圧剤のニモジピン(日本では発売されていません)が19例に使用されています。その内の16例で発作を抑えられています。平均30か月の経過観察で再発は認められていません。
入浴関連頭痛は、閉経期の中年女性に多くみられることから、女性ホルモンの関与が推測されています。
入浴関連頭痛の出典文献を示します。
著者 | タイトル | |
1 | Negoro K | Benign hot-bath related headache.Headache 2000;40:173-175 |
2 | Wang SJ | Bath-related Thunderclap Headache.Cephalalgia 2008;23:854-859 |
(入浴時に突然発症した激しい頭痛の診断プロトコール)
2013年の国際頭痛分類第3版β版では、RCVSによる頭痛が明記されました。
RCVSについて、以前に高血圧性脳症やRPLS(PRES)と並列してDucros Aらが報告したThe clinical radiological spectrum of reversible cerebral vasoconstriction syndrome. A prospective series of 67 patients. (Brain 130:3091-3101, 2007)を紹介し、簡単に触れたことがあります。
その後、RCVSについて数多くの報告があります。しかし、未だ不明な点が多くあります。多くの論文の中で、フランスのDucros Aらの報告と台湾からのChen SPらの報告が傑出しているようです。Ducros Aらの施設は頭痛救急センター&脳卒中ICUで、Chen SPらの施設は救急ではなく頭痛センターというように施設の違いがあります。救急車で搬入された人を診療しているか、あるいは、歩いてきた人を診療しているかの大きな違いです。
人種差のためか、救急センターと頭痛センターの施設による差か、両者の考え方は若干異なるようです。
RCVSについて、今回は、①Ducros Aの報告を紹介し、次に②Chen SPらの報告を紹介したいと思います。次回は、③RCVS黎明期の報告に目を向けます。
①Ducros Aの報告については、(a)最新のレビュー論文と(b)出血に注目した論文をとりあげます。
a) Ducros A: Reversible cerebral vasoconstriction syndrome. (Lancet Neurol 2012:11:906-917)
RCVSについて新しい論文で、Ducros A(フランス)ら自身の過去の報告とChen SP(台湾)らの報告、アメリカから報告などを中心に、レビューしています。
はじめにDucros Aらの報告とChen SPらの報告の比較を表示します。
報告者 | Chen SP | Ducros A |
国 | 台湾 | フランス |
施設 | 頭痛センター | 救急頭痛センター&脳卒中センター |
報告年 | 2010 | 2010 |
ジャーナル | Ann Neurol | Stroke |
平均年齢 | 47.7歳(10-76) | 43.2歳(19-70) |
性比(男性:女性) | 1:8.6 | 1:2.2 |
片頭痛の既往 | 17% | 27% |
高血圧の既往 | 25% | 11% |
原因となるものが存在 | 8% | 62% |
産褥期 | 1% | 13% |
血管収縮物質の使用 | 3% | 52% |
発症時の頭痛 | 100% | 100% |
再発性の雷鳴頭痛 | 100% | 91% |
頭痛の引きがねが存在 | 80% | 75% |
局所神経症状 | 8% | 25% |
てんかん | 1% | 4% |
血圧の急激な上昇 | 46% | 34% |
初回のCTまたはMRIが正常 | 80% | |
CTまたはMRIで正常 | 12% | 37% |
くも膜下出血 | 0% | 30% |
脳内出血 | 0% | 12% |
脳梗塞 | 8% | 6% |
PRES | 9% | 8% |
髄液検査の施行 | 18% | 88% |
蛋白濃度上昇 | 0% | 12% |
白血球5-10 | 17% | |
白血球10以上 | 0% | 8% |
永続的な神経脱落症状 | 3% | 6% |
(疫学)
平均年齢は42歳(10-76歳)で女性に多い。
(臨床症状)
突然の激しい頭痛です。
頭痛は両側性(時に片側性)で、後方から頭全体に広がることが多いようです。嘔気、嘔吐、光過敏、音過敏などを伴うことがあります。激しい痛みは短く通常は1-3時間です。通常は1-4週間に平均4回、このような激しい痛みがあります。あまりの痛さのために泣きわめいたり騒いだりすることもあるそうです。
そして、この耐え難い痛みの間には中等度の痛みがしばしば存在します。
頭痛の引きがねとして、性行為、排便、感情の変動、運動、咳、排尿、入浴、シャワー、水泳、笑うことなどを挙げています。
神経脱落症状として、視覚異常、失語症、感覚異常、片麻痺などがあり、痙攣もあります。
約1/3で、頭痛時に血圧の上昇を認めています。
(血液生化学検査など)
明らかな異常はありません。
(脳の画像)
脳血管画像では脳血管収縮を認めます。しかし、多くの症例で、脳画像では異常はみられません。出血(脳表のくも膜下出血や脳内出血)、脳梗塞、脳浮腫がみられることがあります。Chen SPらの研究では出血性病変は除外してあります。理由はChen SPらの報告の紹介する際に示します。
Ducros Aらのb)の報告で詳細を示しますが、RCVSの経過中に脳表のくも膜下出血、PRESが出現しています。脳表のくも膜下出血や脳内出血は、頭痛発症の第1週に生じ、脳梗塞は、これよりも遅く、2週目に出現しています。
(脳血管の画像)
脳血管撮影、CTA、MRAなどで分節状血管狭窄と拡張((segmental narrowing、string of beads、sausage phenomenon)を認めます。多くの場合、両側性、びまん性に存在します。血管の狭窄部位は、数日後に再検査すると狭窄部位が中枢側に移動していることがあると述べています。
(診断)
Ducros Aらは、Calabrese LHらが作成した診断基準を、改変し作成しています。ここでは、Calabrese LHらが作成した診断基準を示します。
1 | 脳血管撮影・CTA・MRAで、multifocal segmental cerebral artery vasoconstriction を認める |
2 | 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は存在しない |
3 | 脳脊髄液検査は正常、または、ほぼ正常である |
4 | 激しい急性の頭痛で発症する (神経脱落症状の有無は問わない) |
5 | 発症12週間以内にvasoconstriction は回復する |
(治療)
ニモジピン(日本では未発売)、ベラパミル、硫酸マグネシウムなどが使用されています。
(予後)
多くの場合、頭痛、脳血管の異常所見は数日から数週間で消失します。長期予後は、RCVSにより脳卒中を合併するか否かに関わります。脳卒中を合併した場合も次第に症状は改善し、神経脱落症状を残すことは少ないようです。厳しい病態に陥るのは1%以下とされています。また、再発は極めて低いと考えられています。
(病態仮説)
Ducros Aらは、最初に末梢の血管に生じ、次第にウィリス輪の中枢に進展すると考えています。頭痛は第一週にピークをもち、中枢側の脳血管収縮のピークを迎えるまでには、頭痛は消失します。頭痛が消失した後も、脳血管収縮は持続します。よって、Ducros Aらは、雷鳴頭痛は、主幹動脈の中枢側の脳血管収縮によるものではないと考えています。
皮質のくも膜下出血、PRES、脳浮腫は小血管の障害、BBBの破綻によると考えられ、皮質のくも膜下出血は脳軟膜の小血管の破綻・再灌流の結果と考えています。
脳梗塞は、末梢の血管から中枢の血管へ収縮が進展し、その結果、watershed infarctionが引き起こされると考えています。
彼らは、雷鳴頭痛は、脳軟膜に存在する三叉神経の刺激によって生じると考えています。
b) Ducros A: Hemorrhagic manifestation of reversible cerebral vasoconstriction syndrome. Frequency, features, and risk factors. (Stroke 2010: 41:2505-2511)
この論文では、Ducros Aらが経験したRCVSにおいて出血性病変に着目して報告しています。これは、Chen SPらの報告には出血性病変がないことに対するDucros Aらの対抗する意見ともとれます。この論文は、a)の論文に引用されています。
RCVSの89症例を対象としています。8例は産褥期、46例は血管作動性物質を内服しています。
89例中30例(34%)で出血性合併症が存在しています。5例は産褥期、12例は血管作動性物質を内服しています。
出血のタイプ(重複あり)は、表在性くも膜下出血27例(30%)、脳内出血11例(12%)、硬膜下出血2例(2%)です。
RCVSでは、出血をきたす危険性が増す因子として、女性、片頭痛の既往があります。
(出血を伴う群のRCVSの臨床症状)
出血性合併症が存在した30例全例が激しい頭痛で発症し、24例が再発性の雷鳴頭痛を有しています。18例が性行為、運動、咳、いびき、排便、排尿、入浴などのトリガーが存在しています。
7例が、雷鳴頭痛の間に血圧が上昇しています。
(雷鳴頭痛とRCVSや出血との時間的関係)
15例では、RCVSと出血と同時に認められています。10例では出血が認められた時のMRAではRCVSはなく、2回目のMRAでRCVSが認められています
5例(17%)が、初回の画像では出血性病変はなく、2回目以降の画像で出血性病変を認めています。
イベント | 患者数 | 平均日数 | 範囲(日数) |
脳出血の診断まで | 11 | 2.2±2.5 | 0-8 |
皮質性くも膜下出血の診断まで | 27 | 4.6±4.3 | 0-20 |
PRESの診断まで | 5 | 4±1.9 | 1-6 |
脳梗塞の診断まで | 4 | 9.5±6.6 | 2-15 |
RCVSの診断まで | 30 | 6.6±4.7 | 0-20 |
(結論)
RCVSでは、女性や片頭痛の既往のある患者では頭蓋内出血をきたす危険性が高くなります。その結果、予後が不良となる場合があります。
しかし、これは表向きの結論のように感じました。
この結論よりも、この論文には、RCVSは決して良性の疾患ではないという意見がにじみ出ています。そして、彼らの経験から次のような意見を述べています。
彼らの報告では、RCVSの34%に出血性病変を認めています。これほどのデータがありながら、RCVSによって出血が生じているのではなく、出血の結果としてRCVSが生じていると考えている人たちがいることを指摘しています。決してそうではなく、出血以前に、RCVSという病態が既に始まっているとDucros Aらは強調しています(画像で確認できる血管収縮という意味ではありません)。
彼らは、最初に末梢の小さな動脈が狭窄し、次第に中枢の比較的大きな血管が狭窄すると考えています。そのために、最初の検査では血管収縮がとらえることができず、それ以降の検査で血管収縮が確認されると述べています。
そして、頭痛が消失した後にも、血管収縮が残存していることから、血管収縮が直接的な頭痛の原因ではないと考えています。では、彼らはどのように考えているのでしょうか。彼らは、RCVSの最初の段階では、部分的な血管拡張(おそらく末梢)が重要な役割を果たしていると考えています。血管壁の突然の伸展が雷鳴頭痛を引き起こし(この頭痛の機序は、2012年の新しい論文では訂正されています)、小血管の破綻や再灌流による損傷で出血が引き起こされると述べています。一方で、小血管の血管収縮が残存すると考えています。
次の段階で、末梢の血管から中枢の血管へ収縮が進展し、その結果、watershed infarctionが引き起こされると述べています。
②Chen SPらは、頭痛センターで頭痛の患者を診ています。そのために、診断が、国際頭痛分類の診断基準によって縛られる結果になっています。つまり、最初の画像で脳表にくも膜下出血があった時点で、RCVSという診断基準はかき消され、くも膜下出血による頭痛という診断になってしまうのです。
a) Chen SP: Reversible cerebral vasoconstriction syndrome: current and feature perspectives. (Expert rev. Neurothe. 2011: 11: 1265-1276
Chen SP らの最新のレビュー論文です。
RCVSは、突然の激しい頭痛、いわゆる雷鳴頭痛が繰り返し生じ、多発性の分節性の血管収縮がみられる病態と定義しています。現在、診断基準を含め、臨床症状、鑑別診断、危険因子、合併症、治療などについて、RCVSのさまざまな課題が浮上しています。この論文ではこれらの問題点に焦点をあてています。
頭痛センターからの報告らしく、国際頭痛分類に沿った考え方です。b)の論文で示すように、RCVSの患者の絞り込みに、6.7.3中枢神経系の良性(または可逆性)アンギオパチーによる頭痛の診断基準を用いています。但し、時間にはとらわれない、としています。
RCVSの最初の症状は雷鳴頭痛です。彼らの経験では、1-2週間の間に数回の雷鳴頭痛が繰り返し出現する疾患は、RCVSを考えるべきだと述べています。つまり、症状だけで診断がつくと可能性が高いということを示しています。
彼らは、Ducros Aらとは異なり、RCVSを一次性と二次性に分けて考えています。
一次性のRCVSには、一次性雷鳴頭痛、労作性頭痛、性行為に伴う頭痛、咳嗽性頭痛、そして入浴関連頭痛をあげています。二次性には、妊娠および産褥期、血管作動性物質の使用、カテコールアミン産生腫瘍、血液製剤の使用などをあげています。
原因は多様ですが、一次性、二次性を問わず、臨床上の特徴は大変類似しています。
女性に多い、平均年齢は40-50歳です。
頭痛の特徴は再発性の突然の激しい頭痛です。
約1/3に血圧上昇がみられます。
このような類似性を認めながら、RCVSについて多くが論争中で、機序や病態生理などは不明です。
RCVSの合併症としては、一過性脳虚血発作(-16%)、PRES(9-14%)、脳浮腫(38%)、脳梗塞(4-54%)、くも膜下出血(-34%)、脳出血(-20%)、硬膜下出血(2%)をしめしています。これらは、Ducros Aらの論文を引用しています。
(診断基準)
上記で示しましたように、Calabrese LHらが、RCVSの診断基準を示しています。
Chen SPらは、この診断基準にほぼ同意していますが、いくつかの問題点を提示しています。1)髄液検査は、繰り返す突然の激しい頭痛で特徴的な血管異常を認めた際には必ずしも必要ないとしています。2)血管収縮の期間についても12週間という期間を延ばすべきと考えています。
(機序)
RCVSの病態は不明です。RCVSの原因となるものも様々なものが知られており、原因も多くの要因が関与していると推測しています。彼らは、これまで蓄積されたデータより類推される病態仮説を示しています。
脳血管の調節障害が、RCVSの病態の本態と考えられます。突然の脳血管の調節の障害が、小血管の分節性の血管収縮と拡張に至ります。
RCVSの病態には、脳血管の交感神経反応、酸素ストレスと内皮障害が重要と考えています。
(Chen SPらが考えているRCVSの病態仮説)
b) Chen SP: MRA in RCVS.( ANN Neurol 2010: 67: 648-656)
77例のRCVSの症例で、6カ月にわたりMRA精査を行い報告しています。MRAで経時的にRCVSの変化をみて、さらに臨床症状と比較したものです。
①診断は、国際頭痛分類第2版の6.7.3中枢神経系の良性(または可逆性)アンギオパチーによる頭痛によっています。
但し、D項目の時間の項目は除外するとしています。
②くも膜下出血は除外します。
77症例は、男性8例女性69例で、平均年齢47.7歳です。計225回のMRAが行なわれています。(単純に割ると225/77=2.9、一人当たり2.9回です)
中大脳動脈(M1 M2)、前大脳動脈(A1 A2)、後大脳動脈(P1 P2)で、各々5段階の狭窄の評価を行っています。0: 狭窄なし、1→2→3→4と狭窄がひどくなっていくというスコアです。左右の平均値でスコア化しています。
初回のスコアの平均は5.3±3.0です。このスコアは、頭痛発症後、16.3日後に最大となっています。16.3日という日数は、ちょうど頭痛が消失する平均日数16.7日に類似します。7例(9.1%)でPRESを合併し、6例(7.8%)で脳梗塞を合併しました。
このように、データはきれいです。しかし、実際は最初のMRIが平均10日目に行われています。虚血やPRESが出現した症例のMRAは、実は9例中、8例が初回であったというようです。
経時的変化をみたいという意図は明確ですが、雷鳴頭痛出現当初からMRAを撮影する事には残念ながら成功していません。
③黎明期の報告として、Call GKとFleming MCの報告とDodickらの報告を紹介します。
a)Call GK, Fleming MC: Reversible cerebral segmental vasoconstriction. (Stroke 1988: 19:1159-1170)
RCVSは、当初はCall & Fleming症候群と呼ばれた時期もあったそうです。
この報告の中で、4症例の自験例を紹介し、それまで報告例などを加えて、計19症例について考察しています。1988年の論文です、25年前です。19症例中、16例が女性です。年齢は10代から50歳以上までさまざま分布をしめしていますが、産褥期が多いと記されています。突然の激しい頭痛で発症しています。
12例は、運動障害や感覚障害からほぼ完全に回復、3例では麻痺が残存、1例では視野障害が残存、3例では死亡に至っています。RCVSについて問題提起を行った論文です。
b)Dodick DW: Nonaneurysmal thunderclap headache with diffuse, multifocal, segmental, and reversible vasoconstriction. (Cephalalgia 1999: 19:118-123)
Dodick DWらもRCVS関連の論文がたくさんあります。彼らは2例の症例を報告しています。1例は水泳中とシュノーケルをつけて泳いでいた際に突然の激しい頭痛をきたしたもの、もう1例は性交中に突然の激しい頭痛をきたしたものです。RCVSという単語は用いていませんが、病態と脳血管撮影の所見はまさしくRCVSです。この論文の中では、RCVSの生じる機序について次のように考察しています。
この病態は不明としています。いわゆる脳血管攣縮は、動脈硬化とは異なり、通常は可逆性であり血管壁の平滑筋の収縮によります。その結果、分節性の血管収縮をきたします。脳血管攣縮は、機械的刺激により、神経学的刺激により、生化学的な刺激により惹起されます。この疾患における突然の頭痛と脳血管攣縮は神経学的機序を示唆しています。頭蓋内血管の血管周囲および血管壁内には頚部交感神経節由来および青斑核を含めた脳幹由来から交感神経が豊富に存在します。
血管径はアドレナリンによって、また交感神経系の受容体の感受性によってコントロールされています。これらは、くも膜下出血の後の脳血管攣縮や褐色細胞腫でみられる多元性の脳血管攣縮で証明されています。このようにDodick DWらは、RCVSの病態を考察しています。
紹介した論文を下記に示します。
著者 | タイトル | |
1 | Ducros A | Reversible cerebral vasoconstriction syndrome. Lancet Neurol 2012:11:906-917 |
2 | Ducros A | Hemorrhagic manifestation of reversible cerebral vasoconstriction syndrome. Frequency, features, and risk factors. Stroke 2010: 41:2505-2511 |
3 | Chen SP | Reversible cerebral vasoconstriction syndrome: current and feature perspectives. Expert rev. Neurothe. 2011: 11: 1265-1276 |
4 | Chen SP | MRA in RCVS.ANN Neurol 2010: 67: 648-656 |
5 | Call&Fleming | Reversible cerebral segmental vasoconstriction. Stroke 1988:19:1159-1170 |
6 | Dodick DW | Nonaneurysmal thunderclap headache with diffuse, multifocal, segmental, and reversible vasospasm. Cephalalgia 1999:19:118-123 |
Chen先生は頭痛からRCVSをみているため、私にすんなり理解できました。しかし、RCVSという病態は、Ducros先生が指摘しているように、脳卒中を含めてもっと広く考えなければなりません。
二つのチームからの研究で、RCVSの病態解明は一歩一歩進んでいますが、未だ解明はされていません。
RCVSにおいて、1)脳血管収縮がどうして起きるのか、2)脳血管収縮はいつ起きるのか、3)どうして頭痛が生じるのか、4)治療はどうすればよいのか、などの数多くの疑問があります。
彼らの報告をまとめて、平均日数の表とシェーマを作りました。
病態 | 頻度 | 初回の雷鳴頭痛からの平均日数 |
脳内出血 | 0-12% | 2.2日 |
くも膜下出血 | 0-30% | 4.6日 |
脳梗塞 | 6-8% | 9.5日 |
PRES | 8-9% | 4.0日 |
初回の雷鳴頭痛からの平均日数 | |
最終の雷鳴頭痛 | 6.4日 |
RCVSのピーク | 16.3日 |
脳表に中大脳動脈を示します。
突然の激しい頭痛で発症。びまん性に末梢性に脳血管収縮をきたします。
その原因は不明です。
閉経期の女性に多いとされています。産褥期、脳血管収縮物質の使用などの関与も考えられています。
咳嗽、運動、性交、入浴時に出現する場合があります。
脳表面にくも膜下出血や脳出血をきたすことがあります。
第1週に多いとされています。
島表面の中大脳動脈にまで脳血管収縮が拡がっていきます
稀に境界領域に脳虚血をきたすことがあります。
第2週に多いとされています。
RCVSでは、多くの場合、良性の経過を辿ります。しかし、上記のように皮質性くも膜下出血や脳梗塞などをきたす場合があります。
今回、参照にした論文を下記に示します。
著者 | タイトル | |
1 | Ducros A | Reversible cerebral vasoconstriction syndrome. Lancet Neurol 2012:11:906-917 |
2 | Ducros A | Hemorrhagic manifestation of reversible cerebral vasoconstriction syndrome. Frequency, features, and risk factors. Stroke 2010: 41:2505-2511 |
3 | Chen SP | Reversible cerebral vasoconstriction syndrome: current and feature perspectives. Expert rev. Neurothe. 2011: 11: 1265-1276 |
4 | Chen SP | MRA in RCVS.ANN Neurol 2010: 67: 648-656 |
2013年のRCVSの報告を検索してみました。台湾から興味深い報告があったので紹介します。その他に、Chen SPの施設からの報告とDucros Aの施設からの報告を紹介します。
①Bath-related Thunderclap Headache Associated with Subarachnoid and Intracerebral Hemorrhage.
Jhang KM, Lin CH, Lee KW, Chen YY
Acta Neurol Taiwan 2013:22:127-132
筆者らは、入浴関連頭痛でくも膜下出血と遅発性の脳内出血を合併した症例を報告しています。
症例は56歳の女性で、11日間の間に4回の雷鳴頭痛で苦しんでいます。そのうち、2回はお湯で、1度は水で発症しています。
第7病日に、左前頭部にくも膜下出血(A)を、第9病日に右前頭部にくも膜下出血(B)を認めています。第12病日には右前頭部に脳内出血(C)を認めています。脳血管収縮は第12病日に右中大脳動脈に認めています。
⇒入浴関連頭痛が必ずしも良性ではないことを示しています。
②Autonomic dysfunction in reversible cerebral vasoconstriction syndromes.
Chen SP
The Journal of Headache and Pain 2013:14:94
Chen SPらは、RCVSの成因に対してさまざまな機序について考察しています。この論文では、RCVSにおける自律神経障害について考察しています。
検査項目は heart rate variability(HRV)です。これを39名のRCVSの患者と、39名のコントロール群で比較しています。結論としては、副交感神経系が低下し、交感神経系が上昇していたと述べています。
③Oxidative stress and increased formation of vasoconstricting F2-isoprostanes in patients with reversible cerebral vasoconstriction syndrome.
Chen SP
Free Radic Biol Med.2013;61C:243-248
RCVSの成因機序は不明です。筆者らはRCVSの機序として血管内皮に有害な酸化ストレスを挙げています。そのマーカーとして8-iso-prostagrandin F2α(これは強力な血管収縮物質)を測定しています。RCVSではこの物質が高かったと述べています。病態の重症度に一致して高く、症状の改善につれ低くなったと述べています。
④reversible cerebral vasoconstriction syndrome and cervical artery dissection in 20 patients.
Mawe J, Ducros A
Neurology 2013;81:821-824
Ducros Aらの報告は、脳卒中センターからの報告です。彼らの施設では2004年から2011年までにRCVS173例、頚部動脈解離が285例あったそうです。頚部頚動脈解離は日本では比較的稀です。この時点で、フランスと日本とではちょっとそのまま比較できないなあという印象です。
彼らの経験では、RCVS173例、頚部頚動脈解離285例のうち、これらが重複したのが20例だったそうです。18例が女性で、平均年齢40歳。解離の部位は、頚部椎骨動脈(V2-V3)が多かったそうです。機序は不明としています。
⇒日本で頚部椎骨動脈の解離は稀です。日本の椎骨動脈解離は、後下小脳動脈分岐付近が多く、ほとんどが頭蓋内に存在します。
Ducros Aらが発表するものとChen SPらが発表するものとは、すこしずれを感じます。脳卒中センターと頭痛センターによるものか、人種差によるものか。今回のDucros Aらの報告は興味深いのですが、日本とは違うのかなあという印象です。
2016年5月1日、再び、洗谷コースを経て井原山、雷山に登りました。周船寺から周回の9時間コースです。夏山・秋山に備えて訓練です。
雷山、やはり雷鳴頭痛を考えなければなりません。現在、雷鳴頭痛というと、RCVSを避けて通れません。
リハビリの一般的知識習得のため、しばらくの間、頭痛を考えることをお休みしていました。GWに久しぶりに頭痛の論文を読みました。RCVSの論文数編です。
以前、よく読んでいたフランスのDucros A先生の論文、台湾のChen SP先生の論文が、新しく出ていたのでじっくりと読みました。懐かしい感じです。
Ducros先生の論文は10年間のレビューの論文です。雷鳴頭痛を伴ったRCVS、伴わないRCVSについて各々の論文が発表されています。別のチーム(USA)からRCVSについてレビュー論文がありました。Chen 先生は、地味ですが、RCVSの再発について、述べていました。その他に、RCVSと頚部動脈解離や片頭痛との関連について述べた論文、RCVSと静脈性血栓症の併発症例についてなどです。
各々を紹介しますが、最初は、Ducros先生の論文です。
① Ducros A: The Typical Thunderclap Headache of Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and its Various Triggers. Headache 2016: 56: 657-673
(イントロダクション)
RCVSは突然の激しい頭痛で発症し、脳血管の収縮がみられ、3ヶ月以内に自然に寛解する疾患です。最も多い症状は、thunderclap headache(TCH)(雷鳴頭痛)です。雷鳴頭痛は突然発症し、1分以内にピークに到達する頭痛です。RCVSはこのような雷鳴頭痛を惹起するばかりでなく、しばしば頭痛の数日後に脳卒中(出血性病変や脳虚血性病変)を惹起します。
RCVSの適切な治療を行うためには早期診断が必要です。しかし、初回の脳血管精査(頭痛発症の一週間以内に行われたもの)では、脳血管の収縮はみられず、正常であることが多いために、早期診断は難しいのが現状です。
この論文ではRCVSにおける雷鳴頭痛の特徴、トリガー(引き金)、診断、管理についてレビューしています。
(方法)
英語および仏語による文献をレビューしています。
(雷鳴頭痛の一般的な原因として、これまで報告されているRCVSを振り返って)
雷鳴頭痛で最も注意すべき疾患は、もちろんくも膜下出血です。くも膜下出血は、雷鳴頭痛の11%から25%を占めると報告されています。その85%が脳動脈瘤破裂だそうです。
雷鳴頭痛(Thunderclap headache)という単語が初めて用いられたのは1986年だそうです。この記載が正しければ、ごく最近という気がします。DayとRaskinらが報告です。46歳の女性で、5日間にわたり、3度の雷鳴頭痛があり、CTや髄液の検査ではくも膜下出血はなかったそうです。脳血管撮影では、大きな未破裂脳動脈瘤と両側性の脳血管の分節性の収縮を認めています。動脈瘤に対して開頭しクリッピング術が行なわれ、手術所見で未破裂であることが確認されています。
もう、おわかりでしょうが、まさにRCVSの症例と考えられます(当時はそのような概念はありません)。
ちなみに、RCVSの6%に脳動脈瘤を認めます。(日本の脳ドックでは5%程度の人に脳動脈瘤を認めますから、特に多いというわけでないと思います。)
当初、頭痛のみで発症するRCVSの患者の予後はよかったので、一次性頭痛の一つとして考えられたこともありました。一方、脳卒中を併発するタイプのRCVSの症例は、予後も不良であり脳血管炎の一つとして考えられていました。
2007年にCalabreseらが、これらをまとめて、一つの幅広い病態としてとらえ、RCVSという概念を提唱し、その診断基準を呈示しています。以後、RVCSは、繰り返す雷鳴頭痛、時に脳卒中を併発する一つの病態として広く認識されるようになっています。
(RCVSの病因)
交感神経系の過活動、血管内皮の機能低下、過酸化ストレスにより脳血管緊張が一過性に調節障害を生じ、脳血管収縮をきたすものと考えられています。
交感神経系の過活動が重要とする考えの根拠としては、アドレナリン系物質やカテコールアミン産生腫瘍がRCVSを惹起すること、多くの雷鳴頭痛の引き金(運動、性行為、バルサルバ、感情)が交感神経系を刺激すること、発症時には血圧上昇がしばしば認められることなどがあげられています。
一方、PRESとRCVSの併発は、血管内皮の障害を示唆すると考えられています。RCVSの原因に血管内皮の障害を示唆するものとして、Chen SP先生がRCVSの病態で、circulating progenitor cellが低下していると報告しています。
過酸化ストレスも重要な役割を果たしていると考えられています。この事を示唆するものとして、過酸化ストレスのマーカーで強力な血管収縮物質である8-iso-prostaglandin F2αが、RCVSでは尿中で上昇していたとの報告があります。そのほかに、交感神経過活動、内皮機能低下をきたすBDNFの遺伝子の異常が、RCVSで認められたとの報告もあります。
いずれの報告もChen 先生からの報告です。つまり、RCVSの病態生理に関する報告のほとんどはChen 先生の研究によるものです。
(RCVSの疫学)
RCVSの疫学は不明です。救命センターでみられる雷鳴頭痛では、RCVSの頻度は少なくともくも膜下出血の頻度と同じくらいと考えられています。
台湾からの頭痛センターからの報告では、雷鳴頭痛の45.8%がRCVSによるもので(これは多過ぎではないでしょうか?)、そのうち60%が性行為に伴う頭痛と報告されています。
(やはり極端すぎるような気がします。)
一方、パリからの報告では、TCHの18.5%がRCVSによるもので、くも膜下出血によるものはRCVSに次いで12%だそうです。驚いたことに、RCVSによるも雷鳴頭痛が、くも膜下出血による雷鳴頭痛よりも多いそうです。この二つの論文の結果を鵜呑みにするわけにはいきませんが、雷鳴頭痛=くも膜下出血に気をつけよう、後は解離、静脈洞血栓症、脳出血、下垂体卒中、低髄圧、コロイド嚢胞などに気をつけよう、なんていう昔の公式は捨て去って、RCVSを見逃すなということです。RCVSによる頭痛は、思ったよりも多いのではないでしょうか。
RCVSは女性に多く、40代にピークがあります。一方、男性は30代にピークがあります。
(RCVSを引き起こす物質および併存疾患)
RCVSを惹起する物質として、血管作動性薬剤、麻薬、血液製剤などが知られています。
その他に、産褥期、手術、外傷、カテコールアミン産生腫瘍、自己免疫疾患などでみられるRCVSが知られています。
PRESの併発はよく知られています。PRESの30-85%にRCVSがみられ、RCVSの10-38%にPRESがみられます。
解離および片頭痛についても報告がありますが、下記の別の論文に重複するので省略します。
(RCVSにおける雷鳴頭痛およびそのトリガー)
RCVSにおける雷鳴頭痛の頻度は95%にのぼります。また、雷鳴頭痛が唯一無二の症状である場合が75%にのぼります。突然発症でこれまでに経験したことがないような激しい頭痛で、数秒でピークに達成するものです。
激しい痛みのため、あるいは交感神経系刺激のため、叫んだり、泣きわめいたり、興奮したり、パニックとなったり、錯乱したりなどの症状もみられます。
約1/3に血圧上昇を認めます。
頭痛は、両側性・後頭部より始まり数秒の間に全体に広がります。片側性のものは19%にすぎません。嘔気、嘔吐、光過敏、音過敏はしばしば認められます。くも膜下出血の雷鳴頭痛とは対照的に、頭痛の持続時間は短く平均1-3時間です。しかし数秒、あるいは数日継続する症例もあるそうです。
約80%の患者に、頭痛のトリガー(ひきがね)が存在します。トリガーとしては、性行為(オーガズムの際、あるいは直前)、排便、精神的ストレスのある状態、労作、排尿、咳、くしゃみ、笑い、水に接触、急に腰を曲げるなどがあります。冷たいあるいは熱い水に触れる(シャワー・入浴)、冷たい水で歯を磨くなどで、雷鳴頭痛を惹起することが知られています。感情の起伏も、雷鳴頭痛を惹起することがあります。多くは、うつ気分ですが、怒りのこともあります。
RCVSにおける雷鳴頭痛は、通常は1-4週間にわたり、4-8回生じますが、1回場合のみの場合もあります。日に数回の発作が起こる人もいます。
2/3の患者では、雷鳴頭痛の間に、頭痛が完全に消失するわけではなく、なにかしらの頭痛が持続しているようです。そして、頭痛が悪化することもあります。
眠りから覚めて激しい頭痛を訴える人もいます。時々、悪夢やエロチックな夢の後に起きることもあります。
雷鳴頭痛は平均7-8日、一般的に3週間で起きなくなります。
RCVSでは、なんと雷鳴頭痛を訴えない症例もあります。上の記述から逆算すると5%は雷鳴頭痛を訴えないということになります。
1回のみの雷鳴頭痛。これは私が頭痛外来をしている時、いつも私につきまとってくる不安でした。診断基準には何度かという記載があるのですが、なぜ1回の雷鳴頭痛ではRCVSではないと言い切れるのでしょう。私の疑問にこれまで答えはありませんでしたが、流石にDucros A先生、別の論文で明快に回答してくれました。ありがたいことです。
(他の合併症)
痙攣は1-17%に、神経脱落症状は8-43%にみられます。1分から数時間の一過性の神経脱落症状は10数%にみられますが、視覚症状が最多で、感覚、言語、運動などの症状がみられます。
RCVSの様々な中枢神経病変は、12-81%と報告されている。PRESは10-38%、くも膜下出血は30-34%である。くも膜下出血は円蓋部の脳表に存在し、限局してみられる。
フランスからの報告では円蓋部のくも膜下出血は20%、PRESは10%に認められている。
脳内出血は6-20%にみられる。硬膜下出血や脳室内出血もみられる。脳虚血は6-39%にみられ、これは大脳半球の主幹動脈の境界領域にみられますが、前大脳動脈や後大脳動脈領域にみられることも稀ではありません。
(RCVSの臨床経過および予後)
大部分のRCVSは、神経脱落症状を伴わない、良好な経過を示します。つまり、発症当初に雷鳴頭痛を繰り返すものの、後の経過は良好であるということです。脳血管の収縮も数週間から数ヵ月すると元の状態にもどります
RCVSの特徴として、頭痛で発症した後に時間を経て、神経脱落症状や合併症が出現することがあります。
くも膜下出血、脳内出血、痙攣、PRESの多くは、第一週に出現します。注意しなければならないのは、頭蓋内病変は発症直後のCTやMRでの画像検査では異常はなく、出血性病変であれば、発症時の画像では正常で、その後に出現するというのです。脳虚血性病変はそのもっと後で、第2-3週で出現します。
アメリカから報告では、初回の頭部CTや頭部MRでは55%で正常であり、最終的には88%で異常を認めるとの報告もなされています。
RCVSで、予後不良は5-10%、死亡率は1.4%と報告されています。
予後不良に関連する因子としては、アメリカからの報告では原因となるものはあまりなかったようですが、他の報告では、女性、高齢、片頭痛の既往などが出血性病変に関連するとのことです。
RCVSの再発率は低く、5%と報告されています。これは台湾からの報告です。
(RCVSの診断)
RCVSの診断は、Calabreseらの診断基準、ICHD-3の診断基準によりなされます。
現在では、ICHD-3の診断基準がよいのではないでしょうか。
患者が、短期間に繰り返す雷鳴頭痛を訴え、MRIなどでは、異常はないかPRESや円蓋部付近のくも膜下出血や脳出血を示し、脳血管撮影で両側のびまん性の脳血管収縮を示す場合は診断は容易です。しかし、初回の脳血管撮影では異常がないことが多いので診断は難しいことがあります。初回の脳血管撮影で、RCVSと診断されたのは20%にすぎません。
(RCVSの管理)
疲れてきたので簡単に箇条書きにします。
(1)早期診断が重要。RCVS(probable RCVSも同じように管理)。
(2)誘因となることを避ける(薬剤、物質、運動、バルサルバ負荷、性交、入浴・シャワーなど)
(3)血圧のコントロール
(4)精神の安定(不安、抑うつ)
(5)Ca拮抗剤(nimodipine)
(6)治療の期間:4-12週
①´Wolff V, Ducros A: Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome without Typical Thunderclap Headache. Headache 2016: 56: 674-687
この論文は手に入りませんでした。要旨のみです。雷鳴頭痛を伴わないRCVS、ショッキングなタイトルです。
RCVSの臨床症状で最も大切なのは短期間に繰り返す雷鳴頭痛です。しかし、RCVSの中には、このような典型的症状を示さないものが存在します。
①繰り返すことなく1回のみの雷鳴頭痛、
②中等度あるいは進行性の頭痛、
③頭痛を伴わないタイプ、これは痙攣や神経脱落症状や意識障害で発症するタイプで、脳卒中やPRESを引き起こします。
結論としては、RCVSは繰り返す雷鳴頭痛の時ばかりでなく、①通常とは異なる頭痛、それが雷鳴頭痛であってもなくてもRCVSを疑うべきです。②また頭痛があってもなくてもcryptogenic strokeや円蓋表部のくも膜下出血が存在する場合にはRCVSを疑うべきです。
この論文の要旨を読んで当にその通りと感じました。
最近はRCVSを見逃すことはないと思いますが、RCVSの概念がなかった頃の患者様や繰り返す雷鳴頭痛ではなかったRCVSの患者様などの私の経験を示します。
(1)同じような症例が2件続きました。中高年女性。夜間に激しい頭痛を訴え来院。救急病院に勤めていた頃の15-20年位前の話です。CTでは異常はありませんでした。MRIのフレア法が出たばかりの頃で、脳表に小さなくも膜下出血を認めました。腰椎穿刺による髄液検査ではくも膜下出血はなく無色透明です。つまり、くも膜下出血が限局していたということです。この事は私にとってショッキングな出来事でした。くも膜下出血のゴールデンスタンダードはCTスキャン、それでもはっきりしなければ、髄液検査と叩き込まれてきたからです。髄液検査で、わからなないくも膜下出血もある、しかもそれはMRIの新しい撮影方法フレア法ではっきりとわかるということが、教科書には書かれていない新しい知識として得られました。
このお二人は、入院し、2回ほど血管撮影をしたと記憶しています。但し、脳動脈瘤や動脈解離を否定しただけだと思います。もし末梢の血管が細いことに気づいていたら、血管炎として神経内科に紹介していたと思いますが、その記憶はあやふやです。きっとRCVSだろうと思います。
(2)突然の激しい頭痛を何回か訴えて入院し、入院後も数回雷鳴頭痛を訴えていた30歳前後女性。入院し頭部CT及び脳MRIを行い異常はありません。
鎮痛薬などで経過をみていました。患者様、ある日、痛くなくなったと言って、急に退院されました。皆、変な患者様と思っていました、私は、片頭痛の酷いタイプかなあと思っていました。きっとRCVSだったと思います。10年くらい前は、RCVSは名前は知っていましたが稀有な疾患と思い、よく知りませんでした。
(3)RCVSを知り始めると、突然発症の頭痛の患者様は、RCVSにみえてきます。頭痛外来をしていた時は、突然発症の頭痛と嘔気を訴える患者様は、まず救急受診を勧めていましたので、最初から頭痛外来に来ることはありませんでした。救急病院でなにもないと言われて、一通り精査が前医で終わった患者様が、頭痛外来を受診されていました。
頭痛外来で、1度きりの雷鳴頭痛でRCVSの患者様を診たことがあります。片頭痛がいつもとちょっとちがうと言われた患者様が、RCVSだった患者様を診たことがあります。まさにWolff先生、Ducros先生のおっしゃる通り。
(4)しかし、一回のみの雷鳴頭痛、いつもと違う頭痛でも、RCVSに気を付ける。となると、初診時から3週間程度MRI及びMRAを経時的にみていかなければなりません。
さて、この論文の本文はまだ入手できていません。本文ではなんと書いてあるでしょうか、興味は尽きません。
②Miller TR: RCVS, part 1: Epidermiology, Pathogenesis, and Clinical course. AJNR 2015:36: 1392-1399
(歴史的背景)(疫学、トリガー)(病因)(雷鳴頭痛)(他の臨床症状)(PRESの合併)(治療)(予後)などの記載が丁寧になされていますが、Ducros先生の論文にはかなわないようです。しかし、記載が丁寧なので、はじめてRCVSの論文を読む場合はこれ一つでいいのかもしれません。
part2もあります。画像のことが中心のようです、脳血管収縮が末梢より中枢に移動する旨も記載があるかもしれません。時間がある時に読むつもりです。
2015年のDucrosと2016年のMillerのレビューを付け加え、以前作った表を作り直してみます。
報告者 | Chen SP | Ducros A | Ducros A | Miller TR |
国 | 台湾 | フランス | フランス | USA |
施設 | 頭痛センター | 救急頭痛センター&脳卒中センター | 神経内科 &脳卒中センター | 神経放射線科 |
報告年 | 2010 | 2010 | 2015 | 2016 |
ジャーナル | Ann Neurol | Stroke | Headache | AJNR |
平均年齢 | 47.7歳(10-76) | 43.2歳(19-70) | 平均42-45歳 (9-76歳) | 平均42-45歳 (通常20-50歳) |
性比(男性:女性) | 1:8.6 | 1:2.2 | 女性に多い 女性は40代、 男性は30代 | 1:2.4 |
片頭痛の既往 | 17% | 27% | 17-40% | 20-40% |
高血圧の既往 | 25% | 11% | ||
原因となるものが存在 | 8% | 62% | 25-60% | |
産褥期 | 1% | 13% | ||
血管収縮物質の使用 | 3% | 52% | ||
発症時の頭痛 | 100% | 100% | ||
再発性の雷鳴頭痛 | 100% | 91% | 95% | 94-100% |
頭痛の引きがねが存在 | 80% | 75% | ||
局所神経症状 | 8% | 25% | 8-43% | 8-43% |
てんかん | 1% | 4% | 1-17% | 1-17% |
血圧の急激な上昇 | 46% | 34% | 3分の1 | |
初回のCTまたはMRIが正常 | 80% | 45% USAからの報告 | ||
CTまたはMRIで正常 | 12% | 37% | ||
くも膜下出血 | 0% | 30% | 30-34% | 30-34% |
脳内出血 | 0% | 12% | 6-20% | 6-20% |
脳梗塞 | 8% | 6% | 6-39 | 6-39 |
PRES | 9% | 8% | 10-38% | 9-38% |
永続的な神経脱落症状 | 3% | 6% | severe forms 5-10% | |
死亡 | 1.4% | |||
頚部頚動脈解離の併発 | 12% | |||
再発 | 5% |
2014年に作成した表と若干の変化がみられます。2016年AJNRのMillerらの論文は2015年Ducrosらの論文の引用が多いようです。
日本からのまとまった報告があればいいのにと思います。
Chen SP:Recurrence of reversible cerebral vasoconstriction syndrome. A long-term follow-up study. Neurology 2015:84: 1552-1558
台湾のChen先生からの報告です。Chen先生は頭痛センターの先生です。RCVSを主に頭痛の方から研究されています。
今回は、RCVSの再発例について、報告されています。
対象は、2000年から2012年にかけて経験されたRCVS210例でそのうちフォローできた168例です。そのうち、18例(10.7%)で雷鳴頭痛が再発しています。画像でRCVSが確認されたのは9例(5.4%)です。RCVSが認められなかった残りの症例では、6例がprobable RCVSで、2例が片頭痛、1例が分類不能であったということです。
再発例では、そのトリガーが性行為であることが多いそうです。そして、再発例では、脳卒中などの合併症はなかったそうです。
考察の中で、Chen先生らが、これまで報告してきたRCVSが何故起きるのかということについても言及されています。心拍変動(Heart rate variability)の研究から、RCVSが改善した後も、交感神経の可活動、副交感神経の低活動が完全にはよくなっていないことを述べています。また、BDNFの異常についても言及しています。
感想:私は、RCVSの患者様に、再発は稀のようですと、話してきました。今回の報告で、再発例は5%(RCVSの雷鳴頭痛再発は10%)という数字が明らかにされました。
しかし、Chen先生の報告は、頭痛センターからの報告であり、欧米からの救急・脳卒中グループからの報告をまつまで、この数字を鵜呑みにするわけにいきません。
Mawet J, Ducros A : The link between migraine, RCVS and cervical artery dissection. Headache 2016 56: 657-73
頭痛外来をやっていて、片頭痛の患者様が、椎骨動脈解離を合併したり、RCVSを合併したり、POTSを合併したりすることは、私も経験してきました。
筆者らは、以前にRCVSと頚部の動脈解離の併発について20例を報告しています。(この論文は、以前に当サイトで紹介しました)
今回は、さらにその考えを押し進め、RCVS、頚部の動脈解離、片頭痛の3疾患の関係に着目しています。研究方法は、PubMedで解析に利用できる症例数の多い質の高い論文を、RCVS、頚部の動脈解離、片頭痛で検索し解析するという方法です。
片頭痛と頚部の動脈解離:
片頭痛の患者では、頚部の動脈解離の危険性が、片頭痛のない患者の約2倍になります。同様の報告が、最近の大規模ケースコントロール研究(Cervical Artery Dissection and Ischemic Stroke Patients: CADISP study)でなされています。片頭痛患者では、頚部の動脈解離の危険性が1.51倍です。その機序として、遺伝子の問題、TGF-βの問題、MMPの問題などが取り上げられています。
次に頚部の動脈解離でみられるsecondary migraine(二次性片頭痛)について述べられています。二次性片頭痛という単語は、あまり一般的ではありません(?)。頚部の頚動脈解離では頚部痛や頭痛がみられますが、頚部頚動脈解離が片頭痛を起こすことがあるそうです、筆者らはこの頭痛を二次性片頭痛と呼んでいます。
頚部の動脈解離後は、患者の片頭痛に変化がみられるそうです。片頭痛が改善したり消失したりするそうです。特に、虚血性病変を伴った場合にその傾向が強いそうです。
頚部の動脈解離とRCVS:
筆者らは、頚部の動脈解離とRCVSについて20例をまとめて以前報告しています。RCVSの12%に頚部の動脈解離を併発し、頚部の動脈解離の7%にRCVSを併発すると報告しています。
RCVSを合併した頚部の動脈解離とRCVSを合併しない頚部の頚部動脈解離には違いがみられます。RCVSを併発する頚部の動脈解離は、女性に多い、頭痛や頚部痛の頻度が高く、脳虚血症状が少ないなどの特徴があります。また、多発性病変が病変が多く。椎骨動脈系に多いという特徴があります。
片頭痛とRCVS:
片頭痛の患者では、RCVSの危険性が増します。RCVSの17-27%に片頭痛がみられると報告されています。片頭痛自体が、全人口の12-15%に認められる一般的な疾患なので、本当にRCVSを併発しやすいのか否か、片頭痛の患者で年齢・性などを含めたさらなる解析が必要です。
考察としてcirculating endothelial progenitor cell numbers and function、endothelial dysfunctionなどが挙げられています。
感想:頚部の動脈解離は、欧米に比較して、日本ではあまり多くありませんが、椎骨動脈解離に多いなど注目すべき点がありました。
椎骨動脈解離は、片頭痛の患者様によくみられます。片頭痛の患者様がいつもの頭痛とは異なると訴えた場合、診療する立場の者にとって見落としてはいけない疾患です。くも膜下出血然り、RCVS然り。
Bourvis N, Ducros A: RCVS in the context of recent cerebral venous thrombosis: Report of a case. Cepharalgia 2016 36 92-97
RCVSと静脈洞血栓症の併発例についての論文です。RCVSは雷鳴頭痛を、静脈洞血栓症は頭蓋内圧が上昇し頭痛をきたします。両疾患の併発例ですから興味深い論文です。
症例は24歳女性です。頭蓋内圧亢進症状および左横静脈洞の静脈洞血栓症があり、1年前にその部位にステント治療がなされています。
そしてRCVSを併発しています。彼らは、RCVSが出現した機序として、最近行われたホルモン療法、腰椎穿刺に伴う頭蓋内圧低下が考えられると述べています。
もう少し、詳しくみてみましょう。
症例:24歳女性。最近出現した激しい頭痛を訴え来院しています。
1年前に数週間にわたり悪化する右側の頭痛を訴えています。その時に拍動性の耳鳴り、嘔気、複視もみられています。MRIでは両側の横静脈洞が狭窄し、腰椎穿刺を行うと圧は500mmH2Oにものぼっています。BMIは27と肥満。
(注:欧米では特発性頭蓋内圧亢進による頭痛が日本より数多く報告されています。MRIの所見は特徴的です。肥満した若い女性に多いとされています)
鎮痛剤などによる内服加療後に、静脈洞にステント留置術が施行され、頭痛は消褪し、その後は3ヵ月間にわたり抗血小板療法(二剤)が行なわれています。
そして、1年後に筆者らの施設を受診しています。主訴は1週間前から出現した右後頭部の激しい頭痛です。画像所見では、ステント留置した静脈洞が閉塞し、腰椎穿刺では圧は300mmH2Oです(髄液は8ml採取、髄液には異常なし)。
ヘビースモーカーで、頭痛出現前に4日間、緊急避妊薬を内服しています。
抗凝固療法がおこなわれ、頭痛は改善傾向にありましたが、入院7日目食事中に、突然激しい頭痛、嘔気・嘔吐が出現しています。MRIでは左前頭頭頂部の円蓋部に限局したくも膜下出血を認めています。その他に小脳に脳梗塞を認めています。脳血管撮影ではdiffuse segmental irregularitiesを認めています。入院7日目から10日目まで激しい頭痛は続いています。入院9日目、ニモジピン治療48時間後に初回発作と同じような激しい頭痛が出現。MRIでは、torcularより上矢状洞に至る静脈洞血栓症が出現していました。抗凝固療法が再開され、入院11日目より頭痛は消褪し約1週間で頭痛は消失しています。退院時には頭痛は全くなく、神経脱落症状なく退院し、その後、4年間の経過観察では異常はみられていません。
感想:この症例を簡単に考え解決することは難しいようです。
筆者らは、この患者について様々な事を考えています。そして、静脈洞血栓症の病態において頭蓋内圧の変化は、RCVSを引き起こす引き金になる可能性があると推察しています。
つまり、頭蓋内圧の急激な変化はRCVSを惹起する危険性があるということです。
この論文を読んで奇異に感じた点ことは、静脈洞血栓症を一度起こしている患者がどうしてsevere smokerなのか、どうして静脈洞血栓症を誘発しやすい経口避妊薬を内服するのか、、、、??
相変わらず、毎日、ボーっと過ごしています。物忘れも着実に進行し助かることも多くあります。
東野圭吾さんの小説をよく読みますが、面白くて時間つぶしにはなりますが、すぐに内容を忘れます。
おかげで、時間を空けると、一冊の本で何度も楽しめます。
それにも飽きて、RCVSについて久しぶりに論文を読んでみようと、pubmedを開いてみました。
なんとChen SP先生からもDucros A先生からも、新たな論文は出ていません。とても残念です。
ほかに興味深そうなタイトルを探してみます。すると、韓国のサムソン病院から面白そうな論文が出ています。全部で三編あります。
しかし、Freeで読めるのは一編のみです。私ので働いている病院では、論文二編は手に入りそうにありません。
著者 | タイトル | |
① | Chou HA, Lee MJ, Chung CS | Cerebral endothelial dysfunction in RCVS: a case-control study. The Journal of Headache and Pain 2017 18:29-34 |
② | Lee MJ, Chou HA, Chung CS | BBB breakdown in RCVS: implication for pathophysiology and daiagnosis. Ann Neurol 2017 81:454-466 |
③ | Chou HA, Lee MJ, Chung CS | Characteristics and demographics of RCVS: A large prospective series of Korean patients. Cephalalgia 2017 Jan 1 |
興味を持ったのは①と②です。RCVSの生じる機序について。構成を考え、③から入りましょう。
③ Characteristics and demographics of RCVS: A large prospective series of Korean patients.
韓国のサムソン病院からの報告です。韓国のRCVSの特徴を報告したものです。2012年より2016年まで138例についての報告です。
138例のうち、104例が確診例で34例が疑い例です。確診例をみていくと、女性85.6%、平均年齢50.7(23-82)歳となっています。確診例のうち101例(97.1%)で頭痛が認められています。しかし、典型的な繰り返す雷鳴頭痛は84.6%に過ぎません。
特発例のうち、33例(37.5%)では、生活スタイルや環境、健康状態、薬剤などの変化が発症1ヶ月前に起きているそうです。
この論文には、興味はありませんが、 お隣の韓国からの比較的large seriesの報告で注目すべきです。日本ではそのようなlarge seriesの報告はない(?)のですから。
①の論文は血管内皮、②の論文はBBB破綻が、RCVS発生に関与していると考えた論文です。
2011年に既にChen SP先生がそれらを指摘しています。Chen SP先生は、血管内皮の障害、BBBの関与、交感神経系の異常、酸化ストレスなどを原因として考え、様々な報告をしています。もっと、RCVSについて解明されるべきですが遅々として進んでいません。
誰もが、RCVSの機序を考える場合、BBBの破綻、内皮細胞の障害、数珠状の血管狭窄から交感神経系の異常、酸化ストレスを考える筈です。
今、流行りのCGRPの関与やCSDの関与などを考える人も、きっといる筈です。
しかし、RCVSの病態メカニズムはunknownとかunclearとしか記載されません。
① Cerebral endothelial dysfunction in RCVS: a case-control study.をみてみましょう。
RCVSでは血管内皮の機能が低下していることを指摘した論文です。
内皮の機能をみる方法は、Breath-holding maneuverを行ないTCDを測定する方法です。結果はBHIというindexで示されます。
対象は、RCVS24例、片頭痛24例、健常者24例です。
結果は、RCVSでは、脳血管広範囲に血管内皮の障害が認められ、片頭痛患者では後大脳動脈領域に血管内皮の障害が認められ、健常者では異常がなかったということです。
結論としてRCVSでは血管内皮が障害されていたということです。
② BBB breakdown in RCVS: implication for pathophysiology and daiagnosis.を次にみてみましょう。
RCVSではBBBが破綻しているという論文です。興味が湧きます。BBBの破綻をみる方法としてMRIのFL法で、脳脊髄液への造影剤の移行をみる方法がとられています。そういう方法があるそうです。
対象は72例の雷鳴頭痛の患者(脳動脈瘤破裂は除く)で、内訳は42例がRCVS(確診が29例、疑い12例)、他の原因が明らか二次性頭痛7例、原因不明の一次性雷鳴頭痛24例です。
結果は、RCVS確診例29例のうち20例(69%)でBBB破綻がみられ、RCVS疑い例では12例のうち3例(25%)でBBB破綻が認められています。
その他の二次性雷鳴頭痛ではBBB破綻は認められていません。
BBB破綻が認められたRCVS23例のうち、4例ではPRESが認められ、19例ではPRESは認められていません。
一次性雷鳴頭痛の中で、3例でBBB破綻が認められ精査の結果、RCVSと新たに診断されたそうです
残念ながらabstractではここまでです。全文を読んでみたいですね。
①②の論文の結果より、RCVSでは、脳血管内皮細胞の機能が障害されている、そしてRCVSでは、BBBが破綻しているという結果が得られました。
脳血管内皮細胞の障害、BBBの破綻がRCVSではみられた。結果なのか原因なのか?
古典的には、BBBを形成するのは、脳血管内皮細胞のtight junctionとpinocytic vesicleとされます。
長くなりそうなのでやめときましょう。
2018年10月のHeadache Master School(HMS)が富山で行われました。参加は、今回で4回目です。
面白くありませんでした。交通費と宿泊費、参加費で10万円位かかりました。
博多から富山まで7時間くらいかかります。北アルプスに行くのなら楽しい列車の旅ですが、今回はとても遠く感じました。夏のHMSが札幌だったので、富山にしたのですが疲れました。得るものは多くはありませんでした。
日本頭痛学会の会期とあまりに近く、演者の人も力は入らなかったでしょう。
次回からは参加するのはやめようかと考えています。
一度読んだことのあるDucros先生の論文を何気なく、バックに入れて富山まできました。
帰りの列車でこの論文をパラパラと眺めるとTakotsuboと一瞬みえました。一度、読んだはずの論文ですが、体の中に稲妻が走りました。
RCVSの真夏の夢シリーズで、扁桃体の刺激がRCVSを惹起するのではないかと考えるようになりました。
辺縁系や扁桃体について調べていくうち、亡くなられた上山敬司先生が、辺縁系・扁桃体とたこつぼ心筋症について検討されていました。
上山先生の論文を読んだとき、上山先生がご存命ならば、辺縁系とRCVSとの関係を証明してくれたのではないかと思いました。
Ducros A先生は、RCVSを研究されているSpecialistで、先生の論文の中でRCVSとTakotsuboに関連を紹介されました。
上山敬司先生は、辺縁系(扁桃体)とたこつぼ心筋症と関係がある考えられました。
辺縁系とたこつぼ心筋症と関係があるのではないか、RCVSとたこつぼ心筋症とが関係があるのではないか、即ち、辺縁系とRCVSに関係があるのではないでしょうか。
たこつぼ心筋症の特徴には、①中年女性に多い、②エストロゲン低下、③自律神経系の異常などが指摘されています。そして、たこつぼ心筋症とRCVSの類似性がDucros A先生により報告されたのです。辺縁系がRCVSを惹起すると考えられないでしょうか。
著者 | タイトル | |
1 | Ducros A | The Typical Thunderclap Headache of Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome and its Various Triggers. Headache 2016: 56: 657-673 |
2 | Ueyama T | Estrogen attenuates te emotional stress-induced cardiac responses in the animal model of Takotsubo cardiomyopathy. J Cardiovasc Pharmacol 2003: 42(Suppl 1):S117-S119 |
3 | 上山敬司 | たこつぼ心筋症の基礎・病態. 心臓 2010: 42: 426-430 |
Ducros 先生の論文をパラパラとめくった時、たこつぼとは別に、論文の中でTGAとみえました。PCAとかCSDとかいう文字が、走馬灯のように蘇ってきました。
TGAはあまり勉強したことがありませんが、脳神経外科専門医の勉強をしていた頃に後大脳動脈(PCA)の関与、最近はなんとなくCSDが関与しているのかなあと思っていました。
次の【RCVSの不思議】で、最初にRCVSとタコツボ心筋症について、そして、RCVSとTGAについて考えていきたいと思います。
RCVSとタコツボ心筋症 | RCVSとTGA |
RCVSの不思議-part1- RCVS タコツボ心筋症、辺縁系 2018/12/12 |
たこつぼ心筋症 | たこつぼ心筋症と辺縁系 | たこつぼ心筋症とRCVS | RCVSと辺縁系 |
病名は、異常収縮した左室の形はたこつぼに似ていることよります、日本人が紹介したそうです。
私はたこつぼ心筋症には、全く馴染みがありません。
そこで割澤高行先生、明石嘉浩先生の論文【たこつぼ心筋症】(成人病と生活習慣病.47:1243-1251)の要約を引用させていただきます。
どうでしょうか、RCVSの特徴と似ていませんか。一過性の左室局所収縮異常、誘因はストレス、交感神経活性が主体、良性の経過を辿ることが多い(現在は修正されているようです)、閉経期の女性に多い、、、、。当に驚きの連続です
この論文では日本循環器学会の次のような診断基準が紹介されています。
心尖部のバルーニングを呈する原因不明の疾患で、左室はたこつぼに類似する形態を呈する。
多くの場合、1ヶ月以内に収縮異常は軽快する。
左室が主に傷害されるが, 右室に病変が及ぶこともある。左室流出 路狭窄を呈することもある。
脳血管疾患に伴いたこつぼ型心筋症類似の病態を呈することもあるが、特発性たこつぼ型心筋症とは別個に取り扱う。
明石先生が参加しているグループから、たこつぼ心筋症の30年間の研究結果がまとめられた論文が発表されました。たこつぼ心筋症の国際レベルの診断基準や誘因が示されています。
International Takotsubo Diagnostic Criteria (InterTAK Diagnostic Criteria)
この論文の中では、たこつぼ心筋症の誘因として、ストレス(精神的ストレスと肉体的ストレス)が紹介されています。
International Expert Consensus Document on Takotsubo syndrome: Clinical Characteristics, Diagnosis Criteria, and Pathology.European Heart Jpurnal(2018) 39:2032-2046
たこつぼ心筋症の誘因となるストレスが紹介されています。この図をみると、やはりRCVSと似ているなあと思ってしまいます。 しかし、RCVSで必ず出てくる入浴・シャワー、sexがありませんね。 |
ここでは、論文を数編紹介します。第一に紹介するのは、もちろん上山敬司先生の論文です。
上山先生はたこつぼ心筋症に関してたくさんの論文を残しておられます。ここではたこつぼ心筋症の生じる機序を示した図を紹介します。
たこつぼ心筋症が生じる機序 |
上山先生は、たこつぼ心筋症がさまざまストレスにより惹起され、辺縁系(扁桃体)と視床下部がその中枢であることを示されました。
さらに、エストロゲン低下により扁桃体の閾値が下がり、ストレスの刺激を受けやすくなることを示されました。
上山先生の報告以外でも、たこつぼ心筋症に関して脳が関与するデータが報告されています。私にとって目新しい単語としてBrain-Heart という単語もあるそうです
鈴木先生が、たこつぼ心筋症における脳血流量が報告されました。
脳血流量が、海馬、脳幹、基底核で増加し、前頭前野では減少していました。
Evidence for Brain Activation in Patients with Takotsubo cardiomyopathy Suzuki H Circ J 2014;78:256-258
Hiestand Tらにより、たこつぼ心筋症と辺縁系について報告されていますが、論文は手に入りません。
Takotsubo syndrome associated with structural brain alterations of the limbic system. Journal of the American College of Cardiollogy
Klein Cらにより、たこつぼ心筋症と辺縁系について報告されています。
Takotsbo syndrome-Predictable from brain imaging data. Klein C. Sci Rep 2017 14: 5434
そして、数は少ないながら、たこつぼ心筋症の脳のPET画像が示されました。眼をみはるばかりです。
ここでは、論文を数編紹介します。第一に紹介するのは、もちろんDucros A先生の論文です。(Ducros A The typical thunderclap headache of RCVS and various triggers. Headache 2016; 56:657-673)
たこつぼ心筋症とRCVSが18ヶ月間を経て生じた症例、RCVSで心エコーをを行なった17症例で3症例にたこつぼ心筋症を認めた報告、たこつぼ心筋症の2.7%にPRESを認めた報告を紹介しています。
たこつぼ心筋症の平均年齢は、RCVSの患者の平均年齢よりも20歳上なので、両疾患の関連については更なる検討を要するとしています。
2015年、Yadav Dらは、たこつぼ心筋症とPRESを併発した60歳女性を紹介し、heart-brain connection説を唱え、さらに検討が必要であると述べています。
Yadav D. Concomitant takotsubo cardiomyopathy with PRES syndrome: A coincidence or a real heart-brain connection?. Journal of cardiology cases 12:48-51.2015
RCVSの不思議-part2- RCVS TGA、、CSD、辺縁系 2018/12/18 |
TGA | TGAと辺縁系 | TGAとRCVS | RCVSと辺縁系 |
一過性全健忘(TGA transient global amnesia)は、突然に始まる記憶障害を主徴とする疾患です。ほんの数分前のことも覚えておらず、同じことを何度も繰り返し質問するという特徴があります。
症状は一過性で、多くは24時間以内に改善します。
TGAは、1年間に3-8人/10万人発症します。60歳代が最も多く、50歳代から70歳代で75%を占めます。30歳以下の発症は非常に少ないとされています。性差はないと考えられています。
発作持続時間は4.2-7.4時間です。
誘因があるものが多く、精神的ストレス、寒冷曝露、水泳中、入浴中、性交中、疼痛曝露、嘔吐後、咳嗽後、カラオケ、合唱中などが誘因と挙げられています。
どうでしょう。Ducros先生の指摘した通り、RCVSの誘因と全く同じではないでしょうか。
発作前に慢性ストレスに曝されていることが多いといわれています。
男児では身体的ストレス、女性では精神的ストレスでの発症が多いと報告されています。
脳卒中の危険因子は正常対照群と同じとされ、これはTGAが脳卒中によるものではないとする意見です。
TGAの記憶の特徴を示します。
次にHodges and warlow診断基準をみてみましょう
神経画像検査では、脳血流検査では、発作中には側頭葉内側部の含む領域の血流低下が報告されています。
MRIでは、拡散強調画像(DWI)で海馬CA1に微小な高信号域が出現すると報告されています。これは次のページで紹介します。
予後は良好で、再発率は10-20%とされています。
症候性TGAとして、血管撮影によるTGA、脳梗塞によるTGA、片頭痛によるTGA、外傷性TGA、てんかん性TGA、薬剤性TGAがあるそうです。
私は、若い頃、お酒を飲んで記憶をなくしてよく失敗していました。アルコールで記憶をなくすこともいつか検討してみたいと思います。
TGAでは、MRI 拡散強調画像で海馬CA1領域で高信号を呈することが知られています。
水間先生は、一過性全健忘の病態機序の報告(昭和学士会誌、第75巻191-197、2015 水間啓太、他)で12例の画像所見を検討されています。この論文を紹介します。
平均年齢は62.8歳、男性2例、女性10例。発症誘因は、精神的ストレス7例58%)、疼痛刺激1例(8%)、valsalva負荷は7例(58%)が認められています。
発作は1例(28時間)を除いた11例が24時間以内に症状は改善しています。
MRI拡散強調画像では、24時間未満で海馬病変が認められたのは8例中1例、24時間から72時間で海馬病変が認められたのは10例中8例、72時間以降では海馬病変が認められたのは9例中1例のみと報告しています。
右側病変が3例、左側病変が4例、両側病変が3例と報告されており、全てが海馬のCA1領域だったそうです。拡散強調画像で高信号として捉えられ、ADC値は低下していたそうです。
またMRIを2回以上撮影した症例では全てが病変は消失(改善)していたそうです。
時間帯別の海馬病変出現頻度を示します。 |
不思議な感じです。①全健忘は24時間以内に改善するのに、拡散強調画像では24時間から72時間以内に出現するという時間差。②画像の病変は、消失する(改善する)。
RCVSでは、雷鳴頭痛と脳血管収縮の出現に時間差があり、雷鳴頭痛消失後に脳血管収縮は持続し3ヵ月以内に消失するという特徴があります。ちょっと似ていますね。
海馬、イメージがわきません。ちょっと解剖の本をみて図をかいてみましょう。
側脳室下角の上壁を取り除いて海馬をのぞきます。
左 | 右 |
次に海馬体部を冠状断で示します。右左が面倒なことになっていますが、細かな点は気にしないで直感的にイメージが付きやすいように並べました。
右 | 左 |
海馬のイメージがつかめたところで、論文で示された海馬CA1をみてみましょう。
MRI冠状断で、海馬CA1病変です。 上段は、拡散強調画像で下段はT2強調画像です。 Stress-related factors in the emergence of TGA with hippocampal lesions. Dohring J.Frontiers in Behavioral Neuroscience.2014.8 |
同じCA1でも海馬の頭部、体部、尾部でもTGAが生じています。
MRI軸状断で、海馬CA1病変でも、海馬の頭部、体部、尾部でもTGAが生じています。 Reflections of two parallel pathways between tha hippocampus and neocortex in TGA Park YH. PLOS ONE.2013.8:e67447 |
この論文では、海馬の前方の病変と後方の病変には違いがあり、前方の海馬はperirhinal cortexに連絡し、後方の海馬はparahippocampal cortexに連絡があります。
前方の病変は女性に多く、症状は嘔吐、ふらつきを伴うことが多いという特徴があります。一方、後方の病変は男性に多く、血管危険因子を伴うことが多いという特徴があるそうです。
TGAが生じる原因としては、動脈説、静脈説、CSD説があります。
TGAの誘因を示します。
Sander K New insights into TGA: recent imaging and clinical findings. Lancet Neurol 2005;4:437-44 |
Bartsch T TGA: functional anatomy and clinical implications. Lancet Neurol 2010;9:205-14 |
諌山先生がTGAで発症したRCVSの興味深い症例(65歳男性)を報告されています。
(Inter Med 56:1569-1573, 2017)
諌山先生の報告の図を一部改変しました。 |
TGAで発症しています。記憶の障害は12時間で改善し、発症日のMRIでは異常は認められていません。MRAでは左PCAの軽度の狭窄を認めたそうです。
発症7日目に退院したそうですが、同日に右下肢の脱力が出現し再入院。MRAでRCVSを認めています。雷鳴頭痛はMR精査中に出現したようです。その後の経過観察のMRIでは左上の後頭葉に脳虚血病変を認めています。
29日目に施行したMRAで、狭窄性病変は改善しています。大変興味深い症例です。
Olesen先生は、1986年にTGAの原因としてCSDをあげておられます。残念ながらその論文は入手できません。
Ducros A 先生は、RCVSと頚動脈解離と片頭痛の関係を報告し、RCVSとたこつぼ心筋症やTGAとの類似性について報告しまし。ここでちょっと図示しておきます。
各疾患の関係のイメージです。 詳細はRCVSと動脈解離と片頭痛をご参照ください。 ここにヒントがあるのではないでしょうか。 |
同じような誘因(性交、精神的ストレス、運動、バルバサルバ負荷、感情、入浴、シャワーなど)で、生じる病態は異なります。 普通の人でも、血圧があがったり、動悸がしたりします。 ここにも病態解明の糸口があるのではないでしょうか。 |
RCVS 新たな謎 2019/07/07 |
Ducros A 先生やChen SP先生から、残念ながら、これといった新たな論文は出てきません。
しかし、私にとって興味深い論文がいくつか出てきました。
一つは、coronary artery vasospasmについてです。
もう一つは、RCVSと直接的な関係はないのですが、頚部内頚動脈の血管攣縮の論文が増えてきたことです。
2018年にRCVSとたこつぼ心筋症との関係について考えてみました。
2019年は、①RCVSとcoronary artery vasospasmとの関係を述べた論文を紹介します。
そして②頚部頚動脈の血管攣縮について、もう一度考えたいと思います。その他に、腎動脈や外頚動脈についても追記します。
RCVSとcoronary artery vasospasm | RCVSと腎動脈狭窄 |
RCVSとECA vasospasm | RCVSと繰り返す頚部内頚動脈血管攣縮 |
著者 | タイトル | |
1 | Laeeq R | RCVS Associated with coronary artery vasospasm. Tex Heart Inst J 2019: 46: 139-142 |
2 | John S | RCVS:Is it more than just cerebral vasoconstriction? Cephalalgia 2015: 35: 631-634 |
① RCVS Associated with coronary artery vasospasm. Tex Heart Inst J 2019: 46: 139-142
この論文では、冠動脈の血管攣縮に、RCVSを伴った症例を報告しています。
症例は50歳女性です。高血圧や糖尿病の既往があり、胸痛の精査目的で入院し経胸壁心エコー(TTE)で一過性のWMAs(wall-motion abnormalities)を認めています。
入院中に雷鳴頭痛を併発し、RCVSを認めています。
考察では、RCVSに頭蓋外の血管の異常が認められたことを指摘しています。
①頚部頚動脈の解離が報告されてり、RCVSの7%に頚部頚動脈解離を認め、頚部頚動脈解離の12%にRCVSを認めています。これは以前に紹介しました。
②RCVSに腎動脈の狭窄が報告されています。
③冠動脈が障害されることは稀ですが報告されています。その報告は下記に紹介します。
④機序としては、RCVSで考えられている血管内皮の障害が頭蓋内だけではなく、頭蓋外の血管内皮にまで及んでいるのではないかとしています。
RCVSと冠動脈の血管攣縮を併発を私が提唱した扁桃体-青斑核仮説では説明できません。
しかし、扁桃体から交感神経系への刺激が一緒に生じたと考えればよいのではないでしょうか。
② RCVS:Is it more than just cerebral vasoconstriction? Cephalalgia 2015: 35: 631-634
この論文(2015年)は入手できませんでした。抄録は読むことができました。retorpspective studyです。
RCVSの68例の症例で、経胸壁心エコー(TTE)を18例に施行されています。その18例のうち3例(1/6、16.7%)にWMA(wall motion abnormalities)を認めています。
3例とも女性で、心疾患の既往等はありません。
その3例はいずれも無症状で、2例はWMAが改善し、1例では左室機能不全が90日以上続いたということです。
結論としては、RCVSでは脳血管のみ留意するばかりでなく、心機能にも留意しなければならない。
考察をみることはできず、機序などを考えることができません。残念です。
小括
RCVSに17%にTTEでWMAを認めるということです。
RCVSの1/6に冠動脈攣縮を併発するということでしょうか。機序は??
著者 | タイトル | |
1 | Field DK | RCVS, ICA dissection and renal artery stenosis. Cephalalgia 2010: 30: 983-6 |
2 | Mukerji SS | RCVS with reversible renal artery stenosis. Neurology 2015: 85: 201-201 |
① RCVS, ICA dissection and renal artery stenosis. Cephalalgia 2010: 30: 983-6
この論文(2010年)は入手できませんでした。抄録は、renal artery stenosisを併発したと述べているだけでした。
② RCVS with reversible renal artery stenosis. Neurology 2015: 85: 201-201
この論文は画像の紹介のみでした。
41歳女性で、RCVSとPRESに可逆性の腎動脈狭窄を併発したことを紹介しています。
残念ながら考察はありません。
小括
RCVSに腎動脈狭窄(可逆性?)を併発した2例が紹介してあります。
RCVSに稀に(?)腎動脈攣縮を併発するということでしょうか。機序は??
著者 | タイトル | |
1 | Shaik S | RCVS Associated with involvement of ECA branches. The Neurohospitalist 2014: 4: 141-143 |
2 | Melki E | ECA branches involvement in RCVS. J Neurol Sci. 2012: 313: 46-47 |
① RCVS Associated with involvement of ECA branches. The Neurohospitalist 2014: 4: 141-143
44歳女性で、比較的典型的なRCVSの症例。発症4週間前からSSRIを内服。
血管撮影でvasoconstriction(PCA ICA)を確認した際にECAにも血管収縮を確認し、経過観察の血管撮影(3ヶ月後)でいずれも改善していたと報告した。
やはり、機序についての考察はなかった。残念。
② ECA branches involvement in RCVS. J Neurol Sci. 2012: 313: 46-47
こちらは手に入らず。抄録は、抄録は、ECAにもvasospasmを併発したと述べているだけでした。
小括
RCVSに外頚動脈(ECA)の枝にも血管攣縮をを併発した2例が紹介してあります。
RCVSに稀に外頚動脈(ECA)の枝(?)に攣縮を併発するということでしょうか。機序は??
小括 RCVSに冠動脈や腎動脈、外頚動脈の枝にvasospasmを併発した症例が報告
機序はどう考えればいいのでしょうか。
RCVSと冠動脈の血管攣縮のところで考えたように、私が提唱した扁桃体-青斑核仮説では説明できません。
扁桃体から交感神経系への刺激が一緒に生じたと考えればよいのではないでしょうか。それともすべてが、扁桃体から交感神経系への刺激ということでしょうか。
頚部内頚動脈血管攣縮は、私は2011年に経験したことがあります。
地方の勉強会で報告しましたが、残念ながら全国の学会では報告せず、論文にもしていません。
当時、10例程度の報告でした。その後、報告が続いています。症例数はRCVSよりは少ないと思います。
RCVSは頭蓋内の血管攣縮ですが、頚部内頚動脈血管攣縮は文字通り、頚部の内頚動脈の血管攣縮です。
RCVSは上記のとおり、冠動脈や腎動脈、外頚動脈分枝にも血管攣縮を併発することが報告されており、頚部内頚動脈血管攣縮は避けては通れません。
現時点では、RCVSと頚部内頚動脈血管攣縮の併発は報告されていません。しかし、RCVSと頚部内頚動脈の解離は多数報告されています。
私はそのすべてを経験したことがあり、その経験を踏まえ、頚部内頚動脈血管攣縮に再度考えるために新らしいコーナーを作りたいと思います。
繰り返す頚部内頚動脈攣縮症候群 RCICVSと命名しました。